DATE 2021.07.30

恐竜好きも、そうじゃなくても面白い。「DinoScience恐竜科学博」で恐竜くんが伝えたかったこと

現在開催中の「DinoScience恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語」。恐竜の正しい知識を楽しく・わかりやすく伝える活動を行う「恐竜くん」の企画・監修でも話題に。恐竜くんに聞いた本展のみどころとは?



イラストレーション 恐竜くん ©Masashi Tanaka
イラストレーション 恐竜くん ©Masashi Tanaka

恐竜くんをご存じだろうか?

サイエンスコミュニケーターという肩書で、多くの恐竜展やトークイベントで引っ張りだこの彼は、子どもだけでなく大人にも多くのファンを持つ。

幼い頃から恐竜に魅了され、10代で海外に飛び出し、恐竜研究が盛んなアルバータ大学で古生物を中心にサイエンスを学んだ。その実績を背景に繰り出される恐竜トークは単なる知識の受け渡しではなく、わかりやすく楽しくエンターテイメント性に富んでいて、知ること学ぶことの面白さやワクワク感を伝えてくれる。さらに恐竜の絵を描いてもプロレベル(上の『恐竜科学博』のメインビジュアルも恐竜くんが描いたもの)。恐竜についての知識、表現、コミュニケート全てを兼ね備えた貴重な存在だ。

 

これまでの数々の恐竜展の監修を手掛けてきた彼が、そのキャリアで最大規模の恐竜展を全面的に企画・監修したということで話題なのが現在開催中の「DinoScience恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語〜」だ。

 

ほぼ完璧な形で発掘されたトリケラトプスの化石「レイン」と、レインが生きていた時代と地域の生態系を再現した展示をはじめ、全てに恐竜くんの“伝えたいこと”が詰まっている本展。

なぜララミディア大陸なのか、生態系の再現にこだわった理由とは?

恐竜くんのインタビューから、本展の見どころを紹介する。

 

トリケラトプス「レイン」の化石展示。ここまで完全な姿の化石は非常に珍しい。
※ヒューストン自然科学博物館所蔵
トリケラトプス「レイン」の化石展示。ここまで完全な姿の化石は非常に珍しい。
※ヒューストン自然科学博物館所蔵

トリケラトプスの化石「レイン」がやってきた

――今回の展示では、貴重な化石が日本初上陸なのだとか

 

恐竜くん(以下K)    「レイン」というトリケラトプスの化石がヒューストン自然科学博物館からやってきます。これは非常に状態の良い化石で、ほぼ全身が完ぺきな形を保って、アメリカ・ワイオミング州で発掘されたんです。骨だけでなく、広範囲にわたる皮膚痕が化石になっていて、生きていたころの状態を想像しやすいものになっています。

 

レインの化石は発掘後、ヒューストン自然科学博物館で2012年に初めて全身骨格が展示・公開されたのですが、それ以来、その展示台から一度たりとも動いたことがない。つまりアメリカ国内の博物館ですら巡回したことが一度もないんですね。それが日本に来るというのは大変貴重な機会です」

恐竜くん サイエンスコミュニケーター。幼いころに恐竜に魅せられ、16 歳で単身カナダに留学。アルバータ大学で古生物学を中心に広くサイエンスを学ぶ。恐竜展の企画・監修、トークショーやワークショップなど体験教室の開催、イラスト制作、ロボットや模型の監修、執筆、翻訳など幅広く手がける。本名、田中真士。 https://kyoryukun.com/
恐竜くん サイエンスコミュニケーター。幼いころに恐竜に魅せられ、16 歳で単身カナダに留学。アルバータ大学で古生物学を中心に広くサイエンスを学ぶ。恐竜展の企画・監修、トークショーやワークショップなど体験教室の開催、イラスト制作、ロボットや模型の監修、執筆、翻訳など幅広く手がける。本名、田中真士。 https://kyoryukun.com/

――それは楽しみですね。その他は化石がたくさん並ぶようなイメージでしょうか?

 

「レインの展示だけでなく、レインが生きていたころの環境、生態系をジオラマ等で展示しています。恐竜が生きていたのは、今から2億3000万年前から6600万年前の間ですが、その中でトリケラトプスが生きていたのは、最後の200万年間。そのころ、レインが暮らしていた北米大陸は真ん中に海があって、東西に分断されていました。

 

西側の大陸は今でいうロッキー山脈を中心とする地域で、『ララミディア大陸』と呼ばれます。内海に隣接していたエリアには広大な湿地が広がり、多種多様な恐竜が闊歩していたと考えられています。その環境や生態系に迫る展示をしたいと考え、ブラックヒルズ地質学研究所(以下BHI)をはじめとするアメリカの各研究機関の協力の下、僕がすべての構成と内容を考え、展示を作り上げました」

ステゴザウルスとティラノサウルスは出会わなかった

――BHI所長のピーター・ラーソン氏と恐竜くんは長年の付き合いだそうですね。2人がタッグを組んだ展示に期待が高まります。とはいえ、なぜ生態系の再現にこだわったのでしょうか?

 

「例えばステゴサウルスはアメリカにもいましたが、約1億5000万年前の恐竜です。一方、トリケラトプスやティラノサウルスは6800万~6600万年前の恐竜です。8000万年も離れているわけで、本来は絶対に出会うことのない恐竜なんですよね。

例えば、図鑑などで『ネコ科の動物』として、イエネコとライオンが並んでいるのは珍しくありません。確かに、近い動物同士で比較するにはそれで良いのですが、それぞれの動物の生きざまや、どんな環境で生きていたかはあまり見えてこないですよね。それなら、ライオンと同じ場所に生息しているキリンやシマウマが一緒に紹介され、具体的な環境がわかるような内容の方が、ライオンの生態や暮らしぶりが見えてくるはずです。

恐竜の場合、図鑑でも展示でも、分類ごとにグループ分けして紹介する手法が一般的ですが、これだと、本来は違う時代に違うエリアで生きていた恐竜同士が並ぶことになり、それぞれの恐竜が実際にどんな環境で何を食べていたのか、そしてどう動くのか。そうしたことへの理解まで、なかなか到達するのが難しいんですよね。

もちろん、分類ベースで恐竜の種を比較観察することは大きな意味のあることですが、『生き物としての恐竜の姿を知る』ことを目的とすると、ちょっと不足だと考えています。

 

1億6000万年間の恐竜の歴史の中で、その他の動物や植物も進化と絶滅を繰り返していますから、各時代・地域によって、周りの環境も全く異なっていました。『レイン』はどんな世界を見ていたのか、どこに生きていて、どんな環境だったのか。生態系の再現と科学的な確からしさに徹底的にこだわりました」

――具体的にはどんな点にこだわられたのでしょうか?

 

「例えば、恐竜の世界って常夏のイメージがありますが、必ずしもそうではないんです。確かに、白亜紀末期の地球は、現代よりもはるかに温暖湿潤で安定した気候でしたが、今回の舞台であるララミディア大陸の中部は当時、現在の北海道最北端よりも緯度が高く、四季の変化はかなりはっきりとしていました。年間の日照時間の変化はどのくらいだったか、年間平均気温や降水量はどのくらいで、しかも何月に1番雨が降っていたかとか。実はその辺りのデータは、想像以上に詳細に分析されています。

さらに、植物の種類や分布も正確に把握ができていきます。例えば、私たちの良く知る「草」というのはかなり新参の植物で、恐竜が絶滅して数千万年後にやっと本格的に広がってきたもの。恐竜のCG映像等で、牧草地のような草原を恐竜が走っている描写がありますが、本来はありえないはずなんです。そうした点を細かいところまで正しく表現することに努めました。

恐竜は想像上のキャラクターではなく、実際に地球上に存在し、生きていた生き物。名前と形を知っておしまいではなくて、豊かで多様な生態系があって、それを構成する一員として存在した恐竜を感じてほしいなと。そうすることで恐竜を“生き物”としてちゃんと見て欲しいと思っています」

――生き物としての恐竜を感じ、学び取ることができる展示ということですね。どれぐらい準備期間があったのでしょうか。

 

「企画の最初のスタートからだと、3年くらいですね。アメリカにレインの骨格を借りる交渉に行くところから始まりました。本格的に図録や展示パネルなどの原稿を執筆したり、絵を描いたり、映像の監修をしたりというのは、この1年半くらいです」

 

――プロデュースだけでなく、展示物とパンフレットの解説文・イラストなどもご自身で書かれているということですが、大変ですよね。

 

「そうですね。もともと、どうしても自分だけで全てをやりたいと思っているわけではないんです。学術的な内容なので、執筆はもちろん、アメリカとのやり取りやちょっとした表現でも、誰かに任せるというのが難しくて。

例えば、アメリカの方から『この骨は二通り解釈できるけど、どういう角度にする?』って言われたときに、すぐに答えられるかとか。印刷物では、言葉の意味としては間違いではないけど、厳密には、この表現は人間に使う単語だから、動物には使わない、とか。そういうところをチェックしていくと、結局、自分で全部やらなくてはならいという感じになっています。今までで1番大きな仕事でした」

ⓒDinoScience 恐竜科学博製作委員会
ⓒDinoScience 恐竜科学博製作委員会

子どものトリケラトプスからを見た、当時の世界

――最新の研究に基づいてゼロから作り上げた骨格やCG映像もあるんですよね?

「トリケラトプスの幼体の化石というのはまだ発掘されていないのですが、それを理論的に再現する試みを行い、3Dデータを作って、骨格標本を作り出しました。そして、そのトリケラトプスの子が迷子になって旅をするかのような物語仕立てにして、ジオラマ展示をしています。

子どもの恐竜の目線でみれば、小さめのワニでも脅威となるし、何気ないカメだって、見過ごされなくなる。生き物としての恐竜と、彼らを取り巻く世界を、等身大で感じられるものになっています。

また、ララミディアの恐竜が実物大で登場するフルCG映像を体験できるシアターがあります。巨大な翼竜と一緒に空を舞い、数千体の恐竜の群れの中へと飛び込み、白亜紀の森の中をトリケラトプスやティラノサウルスが闊歩するんです。

迫力はもちろん、科学的に生き物として正しい恐竜を投影できるよう、納得いくまで何十回もCGモデルを作り直し、目の角度や瞬きの仕方など隅々まで監修しました。その結果、登場する恐竜の姿や動きも非常に細かく正確に描きこまれています。

 

シアターでは、このCG映像が、横幅12m×高さ6.8mの大画面に驚くほど超高精細に映し出され、映像に合わせて床からの振動や風の演出が体験できるようになっていて、まさに恐竜がいた時代にタイムスリップしたかのような圧倒的なリアリティを味わって頂けます」

 

――標本・ジオラマとシアターのセットで、より理解が深まる仕組みになっているのですね。レインの標本は会期が終了したらアメリカに帰ることになっているそうなので、この機会を逃さないほうが良さそうです。とはいえ、「恐竜が好き!」というお子さんをどう寄り添って行ったらいいのか、保護者の方から戸惑う声を聞くこともあるのですが。

 

「まずは、一緒に恐竜を楽しむところから始めてみて欲しいですね。子ども達は本当によく大人を見ていますから、もし恐竜展で一緒に来た親御さんがスマホばかりいじっていたら、『ああ、大人は退屈なんだな、これは子ども用のつまんないやつなんだな』と思ってしまいます(笑)。今回の展示は子どもはもちろん、むしろ大人こそ楽しめる内容といっても過言ではないので、ぜひ全力で見て楽しんでいただきたいですね」

 

まずは一緒に楽しむことから。そうすることで、親子の会話も増え、わが子が恐竜のどういった面に惹かれているのか見えてくるはず。ぜひ「DinoScience恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語」で一緒にワクワクして、親子で好奇心の羽を伸ばしてみてはいかがだろう。

※次回はロングインタビュー「恐竜くんができるまで」を掲載します。恐竜好きな子がいる方も、そうでない方も必読。お楽しみに!

※プレゼント応募締切は終了しました
【Fasuメンバー限定】招待チケットプレゼント!

「DinoScience恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語」の平日チケットを、応募された方の中から抽選で5組10名様にプレゼントします。

【応募期間:2021年7月30日(金)〜2021年8月9日(月)24:00)】

 

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