DATE 2023.04.03

第2回:コンヴィヴィアルな家族のあり方

「Takram」デザインエンジニアの緒方さんに訊く、ちょっと先の未来の家族のあり方。第2回は、ご自身の著書のテーマでもある「コンヴィヴィアリティ(自立共生)」という考え方に基づく家族との関係性について、お話を伺います。

デバイスを片手に、窓辺でくつろぐ男性。

 

時折、そばにいる家族に声をかけながら、ゆっくりと休日の自分時間を楽しんでいます。彼は『Fasu』ファミリーにおける父親像を様々な角度から想定、キャラクタライズし、最新のテクノロジーによって生み出された「ちょっと先の未来を生きる」デジタルヒューマン。前回登場した母親のパートナーとして生まれた彼とそのファミリーは近い未来、はたしてどのようなかたちで、どのように暮らしているのでしょうか。

 

これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る著書『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)の中で、テクノロジーだけでなく、すべてにおける「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さに触れている緒方壽人さんは、「近い未来、父親にしろ夫婦にしろ1つの理想形や典型というものがなくなって、さまざまな夫婦像、父親像、母親像があることが当たり前になっていくのがいいなと思っています」と語ります。

 

そんな緒方さんに、これまでご本人がご家族の中で大切にしてきた関係性についてお聞きしました。著書のタイトルに使われた「コンヴィヴィアル」という言葉は、これからの家族が共に生きていくために必要な、大切なキーワードとなりそうです。

 

自由の相互承認

僕自身、家族の中で父親として振る舞うというより、子どもを人として信頼し、1人の人格として付き合うことを大切に考えてきました。ですので、あまり理想の父親像は意識してこなかったように思います。母親についても、「こう振る舞った方がいい」という考えはなくて、お互いの考えを尊重することに重きを置いてきました。

 

「第1回:多様な生き方、暮らし方」より。こちらのデジタル・ヒューマンはFasuファミリーにおける母親キャラクター。本プロジェクトでは“自分の仕事や趣味を大切にしながら、家族との毎日の暮らしをクリエイティブかつポジティブに楽しむ”家族の姿を想定、想像しながら、父親と母親それぞれのキャラクターが生み出されました。
第1回:多様な生き方、暮らし方」より。こちらのデジタル・ヒューマンはFasuファミリーにおける母親キャラクター。本プロジェクトでは“自分の仕事や趣味を大切にしながら、家族との毎日の暮らしをクリエイティブかつポジティブに楽しむ”家族の姿を想定、想像しながら、父親と母親それぞれのキャラクターが生み出されました。

『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』の中にも書いたのですが、「自由の相互承認」という考え方を大切にしたいなと思っています。言うは易しで、難しいことではあるんですが、家族における僕の基本的なスタンスはお互いの自由を尊重することです。もちろん考え方の違いからぶつかることはありますし、そこはコミュニケーションを取っていくしかないのですが、それぞれがそれぞれの自由を尊重し合って考えることができたらいいなと思っています。

 

気をつけていることは、家族が他者でなくなってしまうこと、です。常に一緒にいるので家族と自分を同一化してしまって、他人にはしないような振る舞いをしてしまったり、あるいは家族には自分と同じように考えてほしいとか、なぜ同じように考えてくれないのだろう、というような気持ちになることも。家族には友達同士や、仕事場では持たないような感情を持ってしまうことをどうしても避けられないので、家族に対して何か言ってしまったときには、「友達にはこういう言い方しないよな」とか、自分の言動を振り返るようにしています。

コンヴィヴィアルが意味する自立共生

執筆した本のタイトルにある「コンヴィヴィアル」は、コンヴィヴィアリティという概念から来ています。コンヴィヴィアルという言葉自体、聞き慣れないと思うのですが、「コン」は「共に」、「ヴィヴィアル」は「生きる」を意味しています。つまり、コンヴィヴィアルとは「共に生きる」ということなのですが、「共生」と訳してしまうと共依存のようなニュアンスが含まれてしまうので、日本語に翻訳するのが難しい言葉ですね。

 

この言葉を思想に取り入れたのが思想家のイヴァン・イリイチで、彼の著書『Tools of Conviviality(コンヴィヴィアリティのための道具)』(ちくま学芸文庫)が後に日本で出版された際に、「自立共生」という訳が与えられました。共依存のような関係ではなくて、それぞれが異なる他者として、主体性を持ちながら共に生きていくという関係性がポイントなのですが、それは家族にも言えるのではないかと思っています。「自由」という言葉も、「自らに由(よ)る」ということなのだと思います。

 

イリイチはこの著書の中で、「コンヴィヴィアリティ」と共に「2つの分水嶺」という考え方も示しています。「何事にも足りないという状態と、行き過ぎという状態がありますよ」という意味です。よくAIのようなテクノロジーが人間の敵か味方かと問われますが、そのようにはっきりと2つに分けるのではなく、役に立たないAIと、ちょうどいい関係が持てるAIと、行き過ぎたAIというような状態があり、足りないと行き過ぎの間に幅を持った、ちょうどいいテクノロジー、ちょうどいい道具というものがあるということです。

 

僕自身もその通りだなと感じています。運命の分かれ道みたいなものがあるのではなくて、やはり幅があるのだなと。その幅というもので考えると、「これを使うか使わないか?」 でも「家族はどうあるべきか? 」 みたいなことでもないのだと思います。家族の関係性において、お互いに全くコミュニケーションを取らないのも違うだろうし、24時間ずっと一緒にいるというのも違って、それぞれの家族のちょうどいいバランスを探していくことが大切なのではないでしょうか。この「2つの分水嶺」という考え方はあらゆるところに適用できると思っていて、僕の本で書いたテクノロジーについても、家族のあり方にも、教育や働き方、暮らし方にも当てはまると感じています。

人が集うコミュニティ

軽井沢の御代田に移住したのは、友人の何人かがコロナ前から移住する計画をしていて、数世帯で広い土地を共同で手に入れて家を建てようとしている話を聞いたことがきっかけでした。僕の家族は後からでしたのでその土地のメンバーには入っていませんが、そうしたコミュニティがあることに惹かれて移住を決めたんです。そのコミュニティ近くに家を建てたので、頻繁に遊びに行っていて、子ども同士だけでなく、大人も子どもも仲良くしています。大人たちがお互いの子どもをよく知っているような関係性は、地方にはあると思うんですけど、東京ではなかなかそこまでのものはなくて。昔は村が子どもを育てたと言われますが、今、僕らの子どもたちもここにある良いコミュニティの中で育っていくような気がしています。

 

そのコミュニティには、月に1回、一緒に何かをする共同作業日があるんです。真ん中の土地が共有スペースになっているのですが、そこに行くと僕らだけでなく、地域の人たちも集まっていて、皆で薪割りをしたり、バーベキューをしたりしています。その場所が求心力のある拠点となって、移住した人たちが集まってくるんですね。とても新鮮ですし、そうした集いがもっと増えたらいいなと思っています。

「自立とは依存先を増やすこと」と言われますが、確かに人間は生まれてから、誰にも、何にも依存せずに生きていくことはできません。僕は本の中で、「自立と聞くと1人で立っていることを思い浮かべるけれども、たくさんの依存先を持つことではないか」と書きました。

 

実は誰もが何かに依存しているのだと考えると、1つに依存したり、あるいは依存を断ち切ってしまうことは、結果的に何かに依存しすぎることになります。それこそ家族というコミュニティだけの中で生きていくのではなく、色々なところにお互い頼れる人たちがいる、という関係性を持つことは、これから世の中がどうなっていくか分からない時代に、ますます大事になっていくのではないでしょうか。つまり自立とは、いざという時に他に頼れるものがいくつもあるという状態をつくっておくことです。

 

社会における最小単位のコミュニティである家族も、今後は依存先である色々なコミュニティの中の1つ、という感じになっていくように思います。「こうあるべき」ということは、振り返ってみると実は数十年、数百年の単位で変化していくものだと思いますから、社会も世の中もどんどん変わっていく中で、家族のあり方についても固定概念に囚われないことです。

 

:次回最終回では、子どもの教育の多様性とテクノロジーについてたずねます。

WHAT’S DIGITAL HUMAN?

愛する家族とともに人生を自分らしく、そしてときにマイペースに毎日の暮らしを心から楽しむ男性。仕事、趣味、家族と、そのどれもを愛し、そのどれもに誇りを持って人生をポジティブに過ごす父親である彼は、『Fasu』ファミリーにおける父親像を、顔立ち、ヘアスタイル、スタイリング、さらには仕事やライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。

最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。

このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 .使用期限や版権の制限フリー .リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。

デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。

 

・この記事およびプロジェクトのお問い合わせは pr@amana.jp 宛にお願いいたします。

グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」:デザインエンジニア、ディレクター
緒方壽人 HISATO OGATA

東京大学工学部卒業後、国際情報科学芸術アカデミー、LEADING EDGE DESINを経て現職。デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで領域横断的な活動を行う。主なプロジェクトに、「HAKUTO」月面探査ローバーの意匠コンセプト立案とスタイリング、NHK 「ミミクリーズ」アートディレクション、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展覧会ディレクターなど。2015年よりグッドデザイン賞審査員を務める。

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