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tupera tupera|わたしと家族と、 家ものがたり。Vol.10
アトリエと自宅がひとつになった、絶景を取り込む邸宅。
穏やかな流れを見せる京都、鴨川。その川は上流へ向かうほどに、古都の町並みから自然豊かな風情へと姿を変えていく。「賀茂川」と表記を変えるあたりの川のほとりでは、桜並木とともにいくつもの巨木がゆるやかにその葉を揺らす。あたたかな日差しと光輝く川面、土の川べりを走る子ども達。その風景には、どこか甘やかな空気が流れている。
「僕らを動かしたのは、賀茂川のこの景色でした」。
その空気と見事に調和する、落ち着いた風貌の一軒家。3つの家が少しずつずれて重なり合うような個性的な佇まいで、見上げると言葉通り、賀茂川の景色を大きく切り取る窓が設けられている。特等席であるアトリエには、そんな景色を目前に白いテーブルが置かれている。ハサミを片手に持つふたりが、作業マットへと交互に切り絵を並べていくと、あっという間に不思議顔の動物が生まれ、まあるい瞳でこちらをじっと見つめている。
亀山達矢さんと中川敦子さん夫妻は、「tupera tupera」として絵本やイラストレーションの制作活動をするふたり組み。伊勢市出身の亀山さんと、京都生まれで東京育ちという中川さんは、ともに東京で学生時代を過ごしている。出会った場所も、結婚後の生活も東京だ。そんなふたりが遥か離れた京都という地で、自邸を建てようと動き出すキッカケになったのは、2011年におきた東日本大震災だった。
「あの年が、自分たちのライフスタイルを考えるキッカケになったと思っています。人生どう生きていこうか、私たちはどんな暮らしがしたいか。これからの長い家族の時間を、このまま同じ場所で暮らすのはもったいないかも、と考えるようになったんです」。中川さんは、当時をそう振り返る。
ふたりが「tupera tupera」というユニットを組んで活動を開始し、イラストレーションにグッズデザイン、アートディレクションなど、世間で大きな評価を得て、活動の幅も広がっていたさなかだった。東京にいなくても制作活動ができる環境にあったふたりにとって、新しい生活拠点を探すという前向きな気持ちが生まれていった。西日本を中心に、自然の多い場所や心地よい町を探しまわった結果、運命的に出会った場所が、京都・賀茂川のほとりだったというわけだ。
構想から4年をかけて、2016年秋に、アトリエ兼自宅が完成した。
「大学時代、親友に『いつかお前の家を建ててやる』って言われたんです。そのあと、本当に建築家になった親友に設計をお願いしたいと思っていました。そして同時に、tupera tuperaを始めたときに仲良しになった建築事務所を営む2人組にも、頼みたいと思ったんです。学生時代の素の僕たちをよく知る親友と、tupera tuperaをよく知る友人たち。この人たちみんなに、タッグを組んでもらおう! と、僕らが勝手に考えたところからプロジェクトは始まりました」と、亀山さんは笑う。
全体の設計や構造は「アパートメント」の滝口聡司氏と泰将之氏。そして内装をメインに手がけたのが「ダッフル」の鈴木哲郎氏。3名の建築士が携わるという異例の進行方法は…
※「重量木骨の家」ホームページへ遷移します。
tupera tupera
tupera tupera(ツペラ ツペラ)は、亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、アートディレクションなど、さまざまな分野で幅広く活動している。著書に『かおノート』(コクヨ刊)、『やさいさん』(学研教育出版刊)、『うんこしりとり』(白泉社刊)など多数。海外でも多くの国で翻訳出版されている。NHK Eテレの工作番組『ノージーのひらめき工房』のアートディレクションも担当。絵本『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)で第18回日本絵本賞読者賞、Prix Du Livre Jeunesse Marseille 2014 (マルセイユ 子どもの本大賞 2014 )グランプリ、『パンダ銭湯』(絵本館)で第3回街の本屋が選んだ絵本大賞グランプリ、『わくせいキャベジ動物図鑑』(アリス館)で第23回日本絵本賞大賞を受賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞を受賞。2020年6月、東京立川にオープンした美術館『PLAY!』にて、『tupera tuperaのかおてん.』が開催中。会期は12月 29日まで。