デジタルカメラやスマートフォンの普及により、撮影した写真をその場でチェックしたり、シェアしたりすることがいまや当然のことだが、フィルムカメラの時代は、撮影した瞬間にはどんな画像が撮れているのかわからず、現像するまで待たなければならなかった。そんな状況を大きく変えたのが「インスタントカメラ」の登場だ。撮影した直後にフィルムが自動的に現像を始め、その場で仕上がりを確認できるのは大きな驚きであり、インスタントカメラを持っている人の周りには多くの人が集まり、撮影を繰り返していた。
インスタントカメラ開発の先駆者であり、トップブランドとして業界を席巻していたのが「ポラロイド」だ。一時は時代の波に押され、2008年にはフィルムの生産中止を発表したが、熱意あるポラロイド愛好家が工場を譲り受けスタートした「インポッシブル・プロジェクト」により復活。そして、創業から80年を迎えた昨年、およそ15年ぶりとなる新機種「One Step 2」を発表した。
「この『One Step 2』は、ポラロイドが1977年に発表した『One Step』を受け継いだものです。まだまだカメラは高価で、一台1500ドルほどだったという時代に、One Stepは、わずか120ドルでした。しかもハンディで使い方もとてもシンプル。デザイン性も優れており、手に取りやすく、使い勝手が良いOne Stepの人気にはすぐ火がつき、何年にも渡って買い求められるベストセラーになりました。今回のOne Step 2は、そんな人とカメラの身近な関係性にフォーカスを当てています」
──そう語るのはポラロイド・オリジナルズのCEO、オスカー・スモロコフスキー。彼はカメラの歴史だけでなく、写真を撮るという行為そのものが大きく変化していることにも言及する。
「ご飯を食べるとき、友人や家族と一緒にいるとき、有名人に遭遇したとき、美しい風景に出会ったとき。現代の人は、いつどんなときでもスマートフォンを取り出して写真撮影をします。僕自身も1日に何枚写真を撮っているかわかりません。このように撮影そのものはさらに身近な存在になっている一方で、写真に写した記憶や思い出は昔に比べ、どんどん希薄になっているような気がするんです」
──たしかにスマートフォンで撮影したり、SNSやメールアプリなどで画像をシェアする頻度に比べれば、その画像を大切にどこかに飾ったり、アルバムを眺めながら記憶を辿る機会は圧倒的に少ない。
「カメラや写真は、もっと人々にワクワクした感動を与えるものだったはずです。しかし、利便性や機能性を追い求めるあまり、機器としてのオリジナリティや圧倒的な独創性を忘れてしまっているのではと思うことがあるんです。デジタルフォトは、瞬時に大勢でシェアできたり、パソコンに取り出して保存することはできるけれど、撮影した本人の存在がどこにあるのかがいまいち明確ではありません。時代が進化しても、人間というリアルな存在、そのすぐそばにある環境と写真は一体どのように関係しているのか? 私たちは、ポラロイドが持つ即時性と親和性を軸に、写真と現実社会、人間をきちんと連携させていきたいと考えています。」
──「One Step 2」は、前モデルにはなかったフラッシュやセルフタイマーなどの新機能を搭載するなど、技術的なアップデートをしながらも、70年代の名機のデザインを正統に踏襲している。それだけに、One Step 2の本体は、L15×W11×H9.5cmと、簡単に持ち運びできるサイズではない。また、フィルムも8枚入りで2000円程度であり、1枚あたり250円の計算になる。
「たしかにポラロイドは、スマートフォンほど容易に携帯し、何枚も続けて撮影し続けることはできません。カメラを構えて、シャッターを押した瞬間に、写真のあがりが決まってしまいます。しかし、撮影の瞬間に実体が決定するものだからこそ、一種の緊張感や特別な感覚が強く心に残るものになるのです」
ポラロイドカメラをいつも持ち歩く必要はない。家に置いておいて家族や子供の大切な姿を撮影したり、誕生日会や結婚式などで特別なシーンを記録する。その写真を部屋の片隅において、ときおり眺めてその楽しい記憶を思い出す。
One Step 2は、家族が過ごす日々を映し出し、子供の成長ともしっかりと向き合うことのできる、リアルな感覚を持ったツールなのだ。