彫刻の森美術館|アート好きの少女のクリエイティビティを刺激する彫刻作品たち
たくさんの才能に恵まれるよう願いを込めて命名された Aru(存)は、「将来なりたいものは、アーティスト、ライター、モデル、本屋さん……」と語る夢いっぱいの9歳の女の子。美大生だったお母さんの色鉛筆やペン、水彩絵の具などが常にそばにある環境の中で育ってきた彼女は、インスピレーションが湧くとすぐに手を動かすという。
これまでの絵が綴られている、ヴィンテージブックのような仕様のお絵かき帳とたくさんの色鉛筆を持参し、「今日は、どんな絵を描こうかな!」と目を輝かせるAruは、箱根の自然の中に佇むユニークな彫刻作品に触れ、どのように感じるのだろうか?
同館は、およそ7万㎡の広大な敷地の中に約120の彫刻作品が展示され、その多くが屋外に配置されているのが最大の特徴。上に広がる大きな空、周りの山々など、自然と調和したアート作品に触れ、「いつもの美術館と違う」とAru。しかも彼女が特にお気に入りなのは、透明なカプセルをいくつもつなげ、まるでしゃぼん玉が連なったジャングルジムのような「しゃぼん玉のお城」や巨大なハンモックの「ネットの森」。どちらも額装された作品を観る美術鑑賞とは一線を画し、子どもたちは作品の中に入り、その中の世界を冒険気分で楽しむことができる。
「美術館というより、“ 遊び” がたくさんある公園に来たみたい!『ネットの森』の中はとてもカラフルな世界。ネットの上は滑りやすくて歩きづらく、サーカスに紛れ込んだような気分になった」
と、子どもたちしか見ることのできない世界について嬉しそうに話してくれた。
マルタ・パンの彫刻が浮かぶ池の鯉たちに餌をあげたり、「この人は、何を叫んでいるんだろう?」「このポーズの意味は何かな?」などと想像を巡らせたりしながら、敷地内をお散歩し、目玉焼きのかたちをしたユニークなベンチで休憩。ここでは、お絵かき帳と色鉛筆を取り出し、目玉焼きの絵をさらさらと描いた。
「下描き用の鉛筆がなかったから、ちょっとした線の歪みは気にせず、一気に描いたよ」
とAru。迷いのない線が、とても魅力的だ。
「彫刻って聞くと、トーテムポールや銅像みたいなもの想像していたけど、ここにある彫刻には、ただの“ かたち” の作品とかもあって、『これも彫刻なの?』というものもたくさんあるね」
と、感性豊かなAruから、アートに対する既成概念や、アートの見方について思いを巡らせたようなコメントも。
「中でも特に『彫刻って幅広い』と思ったのが『幸せをよぶシンフォニー彫刻』。『ふくろう』や『花』などのかたちをくりぬいて、そこにステンドグラスを入れて造られるこの作品も、彫刻なんだなって思った。大変そうだけど、この作品をいつか模写してみたいな。それに全部の作品は観きれなかったから、また来てみたい」
今年で50周年を迎える彫刻の森美術館は、子どものころに来館したお客さんが、時を経て母や祖母になり、子ども、そして孫を連れて戻って来ることが多いという。Aruのお母さんも、彼女がまだお腹の中にいる時に、自身のお母さんとお姉さんと一緒に同館へ来たことがあると話してくれた。生まれてからは初めて同館にやってきた Aruも、子どもも大人も楽しめるこの場所にいつかまた戻ってきて、新たな気づきを持ち帰るのではないだろうか。