DATE 2021.12.01

フォルケホイスコーレでSDGsを学ぶ。現役教師はデンマークで何を得たのか【北欧留学体験記:後編】

実際にフォルケホイスコーレ留学を体験したMAIKOさんの体験談から、今回は後編をお届け。国が助成金を出す教育機関ではあるものの、大学のように学位が取れるわけではないフォルケ。そこでの学びを通して、学生が得るものとは?

 

そもそもフォルケホイスコーレって何?【北欧留学体験記:前編】はこちら>>

 

フェスにスクールツアー。座学だけではない学びを体験

フォルケのクラスルームの様子
フォルケのクラスルームの様子

 

前回もお伝えした通り、入学審査を経て、無事に「SDGs」を学べるコースがある、デンマークの某フォルケに入学。フォルケは対話型の授業がベースなので、SDGsの授業も様々な問題を学んだ上で、自分はどう世界に対して行動するのか、周りの人とどう協力してそれらの問題を解決するのか、ということを毎日ディスカッションします。

 

また私が通ったコースでは座学だけでなく、校外へ出かけて学習するスクールツアーも。例えば自給自足を実践するエコヴィレッジに足を運び、サステナブルな生活とは何かを学ぶスクールツアーがありました。

特に私が授業の中で一番印象に残っているのは、生徒全員で3泊4日でボーンホルム島という小さな島へ行き、そこを貸切ってキャンプをしたこと。島では政治ブースやSDGsブースなど様々なブースが出展されており、そのブースを回りながら様々な社会問題について学びます。称するなら、「社会問題フェス」でしょうか。デンマーク中から多くのフォルケが参加し、デンマークの政治家たちも集まり、パーティスタイルで夜通し学んで楽しむというスタイル。ライブがあったりフリービールが配られたり……。お祭りのような雰囲気を楽しみながら、エコ大国と言われるデンマークで、いかにエコロジー意識が国民の中に根強いているのかを肌で実感でき、学びの多いフェスでした。ちなみにそれらの宿泊費も、学費に含まれています

 

様々なブースが登場する、政治フェス
様々なブースが登場する、政治フェス

 

コースのメイン課目だった「SDGs」の授業もこのように大充実の内容でしたが、フォルケではメインの他にサブ課目も2〜3クラス選べ、このサブ課目もフォルケの魅力。私が通っていた学校ではダンス、陶芸、手芸、カメラなど文化的なクラスが多くラインナップされており、私はヨガとラジオのクラスを選択。色んな事に興味関心を持ち人生の枝葉を広げる事で、いつか教育現場に戻った時に人間的に豊かな教師でありたいと思っていた私にとって、フォルケで多彩な学問に触れられたのは貴重な経験でした。

 

日本のように上下関係はなし。デンマークでの教師の役割

フォルケ生活の中では、デンマークの教師像のあり方に驚くことも。フォルケでは、生徒・教師・フォルケで働く施設スタッフ全員で共同生活を送りますが(教師とスタッフはローテーションで泊まり込み)、そこでは「全員が平等の立場である」と認識されています。毎日同じ食卓を囲むので、授業外でもコミュニケーションを取ることが多いのですが、日常生活の中でもフラットな立場で、互いを尊重しながら関わり合う姿勢がありました。教師と生徒の間に壁がないので、先生が生徒を休日に自宅に招き入れて、頻繁にホームパーティを開催してくれることも。卒業前には校長先生までもがホームパーティに招待してくれました

生徒・教師・スタッフが食事を共にするフォルケのカフェテリア
生徒・教師・スタッフが食事を共にするフォルケのカフェテリア

 

日本では教師=尊敬すべき人・生徒の上に立つ人、という考えが根強いですが、フォルケでの教師の枠割は、生徒たちをまとめるファシリテーター(進行役)学びの主体はあくまで「生徒」であるとされています。私はフォルケのコースが終了した後、コペンハーゲンのインターナショナルスクールで働いたのですが、お世話になったインターナショナルスクールでも、幾つか見学に行ったデンマークの一般的な公立の小学校でも、フォルケ同様、教師が子どもに対してトップダウン型の指導をする姿はほとんど見ませんでした。このデンマークならではの教育のあり方は、生徒の学ぶ意欲や自主性を自然と引き出してくれるように思います。教師の存在がトップダウン型ゆえに、学びを「義務」としか受け取れず意欲を持てないという日本人のお子さんがいたら、デンマーク流の教育はマッチするのではないでしょうか。

 

デンマーク人がフォルケに通う理由

フォルケは国が助成し、私営で運営される教育機関。1ターム半年でコースが終了し、大学と異なり学位はもらえませんが、終了時にディプロマのような終了証明をもらえます

1タームでフォルケを終わらせる人、2ターム通って2校のフォルケに通う人など、通い方は人それぞれ。また留学生も多いですが、基本的には自国民に開かれた学校なので、デンマーク人が多くの割合を占めます。私が通ったSDGsのコースは留学生向けのコースだったので、授業は全て英語、留学生が大半でしたが、デンマーク人も数人いました。

 

デンマークへ留学をして驚いたのは、デンマークは大学が教育の頂点ではなく、職業訓練校、専門学校、大学と、どの進学先も“同じ価値のあるもの”と位置づけられていること。またギャップイヤーが最大で3年間あり、高校卒業後、若者はフォルケや海外留学、社会に出て働いたりしながら、自分の進路を決めるのが一般的

一度大学に進学したけど、やりたい学問じゃなかったと退学し、フォルケに来て、その後また他の大学へ……なんて人も多いです。これは、デンマークを始め北欧のほとんどの国が大学まで教育が無償だからこそ。退学も転入もお金がかからないので、色んな進路の形を選択する人が多いのです。なのでフォルケにも、「自分の人生探し」に来るデンマーク人が大勢いました。

逆に日本では高校卒業後に大学に進学するケースが多いと話すと、デンマーク人に「日本の若者は小・中・高・大のストレートコースしかなくて、その中でどうやって人生のやりたいことを見つけるの!?」と驚かれたことも……。

学歴にこだわらず、自分らしい人生のあり方を模索するデンマーク人。そんな彼らからは「今日は川沿いでヒュッゲ(心地よい時間を楽しむこと)しない?」と誘いを受けることも多々。デンマーク人は人生の中で、本当に「ヒュッゲ」の精神を大切にしているのだと驚きました
学歴にこだわらず、自分らしい人生のあり方を模索するデンマーク人。そんな彼らからは「今日は川沿いでヒュッゲ(心地よい時間を楽しむこと)しない?」と誘いを受けることも多々。デンマーク人は人生の中で、本当に「ヒュッゲ」の精神を大切にしているのだと驚きました

人生の選択肢は多くていい。フォルケが私に教えてくれたこと

フォルケは年齢制限がないので、若者だけでなく、例えばリタイアされた高齢の方でも、一度会社や大学を辞めた人でも、誰もが入学することができます。みんな自分の人生でやりたいことを見つけるために、自分の人生を楽しむために、フォルケのドアを叩きます。このようにデンマークには誰もが平等に教育を受ける機会があり、そして教育を受けるのに年齢は関係ないとする価値観が根付いています。私自身も様々な理由と目的で、多彩な年代のデンマーク人がフォルケで学ぶ姿を見て、「人生には選択肢がたくさんあって良いし、人生は何度もやり直しても良い」と知ることができたのが、フォルケ留学で得た大きな財産でした。

 

私はフォルケのコースを修了した後、現地のインターナショナルスクールで働き、その後帰国しました。現在は日本の小学校で英語のクラスを持っていますが、小学校6年生の子たちに「将来の夢は?」と聞くと、「いい大学に入ること」「医者になること」という回答がよく返ってきます。もちろん本当に興味があり、その子がやりたい道ならば良いのですが、教師や親など、大人たちの意見を聞いてそう考えるしかなくなっているのでは?と不安になることも。

目の前にはストレートコースしかなく、その道が閉ざされた瞬間に人生が終わってしまうと感じてしまう子どもは多いのではないでしょうか。そういった子どもたちがフォルケ留学を通して、デンマークに根付く人生の豊かな価値観を知る経験は、学位を取る以上に意義があるように感じます。特にギャップイヤーを使いながら自分の人生の可能性を探るという経験は、正解は一つではないと多様な価値観が広まる今の時代、日本人の学生にももっと広まって欲しいです。

 

高校を卒業し、でも将来何を学びたいのか、何をしたいのかが分からない子。自分の人生の可能性をじっくり探したいという子。そして、人生の価値観を広げる経験がしたいと感じている子にとって、フォルケホイスコーレは実りのある留学先になると思います。

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