DATE 2023.01.23

第1回:多様な生き方、暮らし方

「Takram」デザインエンジニアを務める緒方壽人さんに訊く、ちょっと先の未来の家族のあり方。第1回は、長野県・御代田への移住、そして10年来続けてきたというオルタネティヴな暮らし方について伺います。

閃いたのは新しいクリエイティブのヒント? それとも週末のパーティのアイデア?……ホームオフィスを舞台に、生き生きと働くこの女性。実は『Fasu』のファミリーにおける母親を様々な角度から想定、キャラクタライズし、最新のテクノロジーによって生み出された「ちょっと先の未来を生きる」デジタルヒューマンです。

 

コロナ禍をはじめ、混乱する社会情勢、テクノロジーの急激な進化と未知の世界を迎えている私たちは、近い未来、はたしてどのようなかたちで、どのように暮らしているのでしょうか。

 

これからの人間とテクノロジーのあり方や共生を探る『コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ』(BNN刊)。その著者でもある緒方壽人さんは、この本の中で、「ちょうどいいバランス」を探すことの大切さについて触れています。

 

「暮らし方や家族のあり方は多様で、未来に何かひとつの理想形があるとは思いません。ですから今日お話しできることは、僕自身の家族のことや、これまでの経験から考えていることでしかないのですが……」

 

そう前置きしながら、これからの家族について控えめに、ゆっくりと話し始めた緒方さん。その穏やかな様子は、移住先である御代田の空気をそのまままとっているかのようでした。

 
 
   

御代田への移住。家族それぞれの時間と空間

子どもたちが幼い頃からずっと東京の渋谷で暮らしていたのですが、コロナ禍によって働き方が変わり、それを機に軽井沢の隣町、御代田へ移住しました。

 

大きな変化の1つは、やはり家族と家で過ごす時間がものすごく増えたことです。これまでは外で仕事をしたり、学校へ行ったりと、僕にとっても子どもたちにとっても、家は「帰ってくる場所」でした。それが今では、家は家族と24時間「ずっと一緒にいる場所」になりました。

 

御代田に移住して家を建てたのですが、皆がずっと一緒にいるからこそ、家族それぞれのプライバシーを守ることを大切に考えました。僕の仕事場と妻の作業部屋、子どもたちの部屋を作って、一人ひとりの場所や時間を確保できるようにしたんです。

 

子どもが小さければ、全部がつながった1つの空間にするのも良いかもしれません。そうした空間の作り方も、家族ごとの様々な形があると思います。我が家は子どもたちが小学校6年生と中学校2年生で、すでに大きいので、家の中で過ごす個々のプライベートな時間と家族の時間を意識して切り替えるようにしています。それぞれの時間、それぞれの空間があり、食事の時間にリビングに集まるような感じです。

豊かな自然に囲まれた、緒方さんの御代田での住まい。奥様のワーキングスペースや書斎など、パーソナルスペースを設け、家族それぞれの時間を大切にできる設えに。Photo:Daisuke Shima
豊かな自然に囲まれた、緒方さんの御代田での住まい。奥様のワーキングスペースや書斎など、パーソナルスペースを設け、家族それぞれの時間を大切にできる設えに。Photo:Daisuke Shima

ニセコでのオルタネティヴな暮らし

1日の時間の流れの中で、そうした個人の時間と家族の時間があるように、もっと大きな時間の流れの中でも空間を切り替えることは大切だな、と感じています。それが多様な暮らし方にもつながるように思いますから。

 

実は御代田に移住する前に10年ほど、毎年夏の1カ月間を北海道で過ごしていました。東日本大震災がきっかけだったのですが、停電や放射能問題など、東京での暮らしがストレスフルになり、「少し東京を離れたいな……」と色々調べていたら、夏の1カ月をニセコのコンドミニアムで過ごすというプロジェクトを見つけました。良さそうだなと感じて家族で滞在してみたら、とてもたくさんのことに気づかされて。人口密度だったり、暮らしのペースなど、東京の暮らしで当たり前になっていたこと、感じていたことがリセットされました。

 

旅行に行くだけだと、日常生活から少し離れて、ちょっと非日常に触れて戻ってくるという感じですが、1カ月ほど滞在していると、そこで生活する、暮らしているという感覚が芽生えてきます。地元の人たちとも仲良くなって、以来、毎夏をニセコで過ごすようになりました。さらに夏だけでなく、冬に訪れることも。

 

同じ場所に毎年行っていると、顔見知りが増えていきます。地元のベーグル屋さんと家族ぐるみで仲良くなって、一緒にプロジェクトを起こしたり、農業を始めるというので農園のブランディングを手伝うというようなつながりも生まれました。東京とは異なる、もう1つの暮らしの場ができたという感じです。

 

そうした暮らしの切り替えを毎年、10年間続けていたため、御代田への移住もしやすかったんです。子どもたちは今回の移住をあたかもニセコでの暮らしの延長線上にあるような感覚で受け止めていて、全く想像できないような場所へ行くという感じではなかったですし、家族みんながむしろ喜んで移住に賛成してくれました。

先が見えない時代に、暮らし方の選択肢を増やす

1つの暮らし方だけではなく、もう1つ。オルタネティヴな暮らし方を普段からしていると、震災やコロナ禍のような大きな変化があった時にも、柔軟でいられるように思います。「ここでしか生きていけない」みたいな感覚でいると、動くことが重くなってしまいます。普段から複数の場所で1カ月、あるいは2週間でも暮らしの切り替えをしておくと、生活の場が変わることへの心理的な抵抗が少ないのではないでしょうか。これからの時代、世の中がどのようになっていくか分からない中で、多様な暮らし方に慣れておくことは大切なのかな、と思っています。

 

実はコロナ禍の前の年は、ニセコの代わりに、新しい試みとしてイギリスのロンドンに休暇で1カ月ほど滞在しました。借りた家から1週間くらいロンドンのオフィスにも通勤して、そこで暮らすような感覚を味わってみました。海外にいきなり移住するにはそれこそなかなかの決断が必要ですが、1カ月ほど暮らしてみるのは良かったと思います。こうした経験をしておくと、海外での暮らしもなんとなくですが想像できるようになりますし、様々な暮らし方があることを、改めて実感しました。

暮らしの中の柔軟性を生かす

僕自身が家で1日中過ごすようになって、夫婦のかたちが変わったかと言うとそれほどでもないのですが、お互いがより柔軟に動けるようになったのはいいなと感じています。例えば妻が仕事を始めてみようかな、という時に、今までであれば僕も仕事の仕方を変えなくてはいけなくなって、色々と調整が大変だったと思うんです。家で仕事をするようになってからは、僕も子どもの学校の送り迎えをする時間をつくることができますし、そうした調整がしやすくなりました。

 

下の子はホームスクーリングをしていて家にいることも多いので、時には僕が昼食を作って一緒に食べたりすることもあります。外で仕事をしていた時にはそういうことはできませんでしたから、今は色々なことを試すという暮らしの中の柔軟性を楽しんでいます。

 

妻は周囲の友人や知り合いのお店に頼まれて服やエプロンなどを作っています。東京に住んでいた頃は、自宅で作業できるスペースも限られていましたが、御代田に来てからは空間にゆとりができて作業しやすくなった様子です。さらに妻自身が自分の部屋を確保して、プライベートな時間を持てるようになったのは良かったと思います。家にいて、それぞれが自律的に活動するには、やはりそれなりのスペースが必要ですね。一人ひとりの自律性を守って、お互いの自由を尊重し合うことが家族には大切だと思います。

 

:次回は、緒方さんの話題の著書のテーマでもある「コンヴィヴィアリティ(自立共生)」という概念から、これからの家族のあり方について訊ねます。

WHAT’S DIGITAL HUMAN?

揺るぎない自分らしいスタイルを持ち、仕事、家事、そして家族とクリエイティブな毎日を楽しむ女性。本記事トップビジュアルとして登場したこのモデルは、先述のように『Fasu』ファミリーの母親像を、顔立ち、ヘアスタイル、メイクアップ、スタイリング、さらにはライフスタイルに至るまであらゆる角度とディテールからキャラクタライズし、生み出されたデジタルヒューマンです。

最新鋭のテクノロジーを用いて生み出されたこのデジタルヒューマンは、東映デジタルセンター「ツークン研究所」、及び『Fasu』を擁する私たちアマナにより「企業広告や、ファッションカタログ、またメディアにおけるモデル使用における様々な課題解決」を目的として開発されました。

このバーチャルモデルを用いることで得られるメリットは1. 人種、人選、肖像権問題にまつわるリスク回避 2.使用期限や版権の制限フリー 3.リモートによる発注から納品 4.インナーブランドの統一化 5.CGによる表現可能領域の拡大……ほか多数。コミュニケーション及びコスト、クオリティなど、モデル使用のあらゆるフェーズで生じるデメリットをミニマムにし、モデル表現の可能性を大きく広げていきます。

デジタルヒューマンが描き出す、新しいモデルのあり方と可能性、そして未来にご期待ください。

・この記事およびプロジェクトのお問い合わせは pr@amana.jp 宛にお願いいたします。

グローバルイノベーションデザインスタジオ「Takram」:デザインエンジニア、ディレクター
緒方壽人 HISATO OGATA

東京大学工学部卒業後、国際情報科学芸術アカデミー、LEADING EDGE DESINを経て現職。デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで領域横断的な活動を行う。主なプロジェクトに、「HAKUTO」月面探査ローバーの意匠コンセプト立案とスタイリング、NHK 「ミミクリーズ」アートディレクション、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展覧会ディレクターなど。2015年よりグッドデザイン賞審査員を務める。

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