DATE 2021.03.20

第93回アカデミー賞6部門ノミネート、映画『ミナリ』は、移民家族の子供の目を通した家族賛歌だ

本年度アカデミー賞で作品賞を含む6部門でノミネートされた『ミナリ』。韓国系アメリカ移民の家族の物語が7歳の少年の目を通して語られていく。家族というものの強さや美しさを描いた、Fasuファミリー必見の作品。
©︎2020 A24 DISTRIBUTION,LLC ALL Rights Reserved.

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幼いこどもたち世代に語り継ぎたい、家族の物語

コロナの影響で約2ヶ月延期された今年度の米国アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞など主要6部門にノミネートされた映画『ミナリ』。

去年の1月に開催されたサンダンス国際映画祭で審査員大賞、観客賞をW受賞して以来、多くの賞を受賞してきた注目作だ。

アメリカに移住した一家に起きたこと

舞台は、1980年代のアメリカ、アーカンソー州の高原の町オザーク。10年前に韓国からカリフォルニアに移住した韓国人夫婦のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)とモニカ(ハン・イェリ)が、娘アン(ネイル・ケイト・チョー)と息子デビッド(アラン・キム)とともに引っ越してくる。10年間、孵卵場でひよこの雄雌鑑別の作業員として働いてきた夫婦だが、ジェイコブは、農業で成功する夢を抱いてこの土地にやってきた。アメリカに移住する韓国人が3万人もいると知り、韓国野菜に需要があると考えたのだ。

 

意気揚々としたジェイコブとは裏腹に、荒れた土地にぽつんと置かれたボロボロのトレーラーハウスが新居だと知り、モニカは愕然とする。7歳のデビッドは心臓に病を抱えているのに病院も遠い。大喧嘩で新しい生活をスタートさせたふたりだが、翌日から孵卵場での仕事の傍ら、農場をつくるというハードな日々が始まる。モニカは、子どもたちの面倒をみてもらうために、韓国から母(ユン・ヨジョン)を呼び寄せる。だが、デビッドは、アメリカのTVに出てくるような“クッキーを焼いてくれるようなやさしいおばあちゃん”ではなく、がさつで料理も苦手な毒舌家の祖母を毛嫌いするーー。

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韓国系アメリカ人監督の半自伝的作品

物語は、脚本も手掛けたリー・アイザック・チョン監督の半自伝的なものだという。韓国からの移民の両親を持つ、アメリカ生まれのチョン監督は、映画の舞台と同じオザークの小さな農場で育った。

イェール大学で生物学、ユタ大学で映画学を学んだ後、2007年に監督デビューし、本作で世界中の脚光を浴び、次作は日本の大ヒットアニメ『君の名は。』のハリウッド実写リメイク版の監督に抜擢された気鋭である。

 

「厄介な側面も含めて家族という存在が、いかに自分にとって大切なものかを幼い娘に語り継ぎたかった」というチョン監督だが、まさにこの映画は、監督の分身である7歳の息子デビッドの視点で語られた家族讃歌といえるだろう。

デビッド役のアラン・キムの演技は目を見張るものがある。オーディションで選ばれた彼は、演技未経験とは思えないほどの自然さで、この映画の“目”となり、監督が子どもの頃に見たであろう両親の姿や、もっといえばアメリカの大地をまっさらな眼差しで見つめる。

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移民の家族の元に生まれ育ったデビッドは、ネイティブな英語を話すアメリカ人でもある。

ふたつの文化を共有することとは、どういうことなのか。この視点も、本作が世界的に受け入れらたポイントでもある。

 

 

「移民の物語」が今、アメリカで受け入れられた理由

トランプ政権下で分断が進んだといわれているアメリカ。移民を排斥する傾向は、今も続いている。しかしながら、アメリカはそもそもヨーロッパからの移住者が建国した移民の国だ。

ジェイコブとモニカのような移民家族が、苦労の末に作り上げた国なのだ。映画中話される言語は、ほとんどが韓国語ながら、韓国系でもない多くの人が他人事でなく“自分ごと”としてこの映画を観るのもこうした理由からだ。

 

実際、本作はほとんど韓国語で構成された映画ながら、“アメリカ映画”である。ブラッド・ピットが率いることでも有名な映画会社プランBが制作し、数々のヒット作を排出している気鋭の映画会社A24が配給した。

英語をしゃべらない移民の家族の物語が、アメリカ的であるというのはある意味、当然のことなのだ。

アラン・キムだけでなく、彼らは本物の家族に見えるほど俳優たちの演技が素晴らしい。

ジェイコブを演じるのは、米国の大ヒットTVシリーズ『ウォーキング・デッド』で人気俳優となったスティーヴン・ユァンだ。ソウル生まれアメリカ育ちで、村上春樹の短編『納屋を焼く』を韓国の名匠イ・チャンドンが映画化し、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した『バーニング劇場版』(18年)で高い評価を受けるなど映画界でも存在感を増している。

欠点もあるが人間的で活力のある父親像を体現した本作では、アジア系俳優で初めてアカデミー賞主演男優賞部門にノミネートされるという快挙を成し遂げた。

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モニカを演じるのは、ソウルを拠点に活躍するハン・イェリ。『海にかかる霧』(14年)や『春の夢』(16年)などで知られる実力派である。慣れない環境の中で、子どもを安全に育て家族を守ることに全力をつくすモニカの精神的な成長ぶりを、自然な演技で表現している。その姿には誰もがー母親ならば特にー心を揺さぶられるだろう。

 

祖母役を演じるのは、韓国の大女優ユン・ヨジョンだ。カンヌ国際映画祭でも上映された『ハウスメイド』(10年)やホン・サンス監督の『3人のアンヌ』(12年)などで国際的な知名度もあるが、ソウルを拠点としながらも、英語も堪能のため米国のTVシリーズにも出演する。

ちなみに現在は韓国系アメリカ人のミン・ジン・リーが著したベストセラーを元にしたTVシリーズ『パチンコ』を米国で撮影中だ。

 

そんなヨジョンが演じる、孫に花札を教えてしまうような、ちょっと破天荒な祖母は、このシリアスな物語にユーモアをもたらす。

孫デビッドとの関係は、間違いなくこの作品の見どころのひとつだ。嫌厭されながらも孫を深く愛し、娘とその家族のためにすべてを投げ出して(その多くは、裏目に出るのだが)守ろうという想いが伝わるとき、涙なしでは観られない。

この一家には、次々と厄介ごとが降りかかり、苦労の連続だが、そのから浮かび上がるのは家族の絆である。それぞれが個性的で決して、CMコマーシャルに登場するような、なごやかなだけの家族ではないのだが、生き抜くためにはみんなの小さな力が必要なのだ。

タイトルの“ミナリ”とは、映画中にも登場する韓国の水セリのことで、たくましい植物として知られているそうだ。一度目の収穫よりも二度目の収穫の方が美味しい。失敗しても何度でも立ち上がり、そして家族の歴史は続いていく。この希望に満ちたタイトルに込められた意味の深さに心が動かされる。

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