映画『SNS-少女たちの10日間-』の監督に聞く、子どもを性犯罪から守るために親ができること
子どもに何歳から携帯電話を持たせるのか。
携帯やPCの中身を親がチェックするのか。
オンラインゲームやSNSは許すのか。
子どもとネットの世界との付き合い方を考えるとき、多くの親がたくさんの選択肢を前に悩み、答えを模索することだろう。
コロナ禍における自粛生活の影響で、子どもたちがネットに触れる機会は急増し、それに伴いネット上の犯罪に巻き込まれるケースも増加している。特に散見されるのは、SNSを利用して児童ポルノやわいせつ犯罪に巻き込まれるケースだ。いま、子どもたちをネットでの犯罪から守るために親がすべきことは何だろうか?
そんな疑問に改めて向き合うキッカケを与えてくれる映画、『SNS-少女たちの10日間-』が現在公開中だ。
12才の少女が、SNSで“友達募集”をしてみたら
本作は、幼い顔立ちをした成人の3名の女優が“12才の少女”を演じ、SNS上で友達募集をしたらどんな反応が返ってくるか、という実験を行ったチェコ発のドキュメンタリー映画だ。スタジオに作られた3つの子ども部屋の中で、女優がそれぞれPCに向き合い、10日間SNSで見知らぬ人とやり取りする様子を撮影。結果として、撮影期間中にコンタクトを取ってきた大人は何と2,458名に上った。そしてその多くが、カメラ越しに自慰行為をはじめたり、ポルノ動画を送りつけたりと、12才の少女に対して容赦のないわいせつな行為を続けたのである。
もし被害者が我が子だったら……と思うと、絶望や苛立ちを抑えられないほどショッキングなシーンが終始展開される内容になっているが、その卑劣さの一つひとつは間違いなく、目を背けてはいけない現実だ。
チェコでは公開されるや否や、ドキュメンタリー映画として異例の大ヒットを記録し、映画に登場した性犯罪者たちが実際に逮捕されるなど、社会的にも大きなインパクトを与えたという本作。今回、プライベートでは4人の子どもを育てる父親でもあるヴィート・クル サーク監督に、チェコの子どもたちのネットの付き合い方の実態や、子どもが犯罪に巻き込まれないために親がすべきことについて、話を伺った。
--作品を見て、チェコではこんなにもSNSを利用した子どもの性虐待が深刻化しているのかと、驚きました。公開後は警察が捜査に乗り出したりと大きな反響があったようですね。
我々の予想を遥かに超える反響がありました。この映画をキッカケに警察が捜査した結果、現在までに52人の男性と1人の女性が捜査対象になり、内8人は裁判ですでに判決が下されています。また行政も動き出していて、この作品を見た政治家からネット上の犯罪を取り締まる警察官の人員を増やす提案がされ、さらに文部省では今後小学校のカリキュラム改正を行い、性教育を小学校3年生から取り入れる案も出ました。
一般の方からの反響も高く、我々宛に「同じような犯罪被害に遭って困っている」という相談も相次いでいます。映画の枠を超え、この作品が実社会を動かしている事実に驚くばかりです。
--チェコの子どもたちは大体何才くらいから、スマートフォンやタブレットなどを手にすることが多いのでしょうか?
各家庭によってバラつきがあると思います。例えば私は、5〜12才までの4人の子どもを育てていますが、妻とは「なるべく小さいうちは子どもにスマートフォンなどを与えないようにしよう」とルールを決めているので、10〜11才頃にスマホを渡しています。
ただ周りのファミリーを見ると、5〜6才で子どもにスマホを渡している人たちもいますし、各家庭の方針や環境によると思いますね。何歳からスマホを渡すかは難しい悩みだと思いますが、チェコでは大人から子どもまで、ネット中毒に陥っている人が多いということも重大な社会問題だと感じています。
--チェコの子どもたちのSNS利用率は、他国に比べて高いのでしょうか?
ヨーロッパなどの他国の子どもたちと、さほど違いはないと思います。以前大学で、20ヶ国の子どもたちのSNSの使い方について調査を行いましたが、その結果、子どもたちの行動に差はほとんどありませんでした。ショッキングな事実ですが、どの国においても多くの子どもたちが、アダルトサイトでポルノを見たりSNSで見知らぬ人と交流していました。
--監督ご自身は本作の制作を通して、子どもたちをネット上の性虐待から守るために、行政や各家庭でどんな取り組みをすべきだと思いましたか?
チェコでは、約20%の親しか子どもに性教育をしていないという実態があります。先ほども述べたように、文部省が小学校3年生から性教育をスタートしようと動き出していますが、授業では性教育に加えて、ネット環境で子どもたちがどのような振る舞いをすべきか、自分の行動にどう責任を持つのか、ということまで指導するそうです。そういった教育が、これからは不可欠だと思います。
また家庭でできることですが、思春期の真っ只中の11〜14才くらいの子どもたちは、大人からのプレッシャーに怯えやすいということを専門家が指摘しています。それもチャット相手からのプレッシャー以上に、親からのプレッシャーに怯えやすく、「親にバレたらどうしよう」と不安に押しつぶされてしまうそうです。昨年チェコでは、ネットでの性犯罪被害に遭った10代の子どもたちが、14人自殺しました。親子の信頼関係があれば、犯罪に気づき、自殺を防ぐことができたかもしれません。だからまずは親が「何があっても相談してほしい」と伝え、子どもの信頼を勝ち取ることが大事だと思います。
--「子どもと信頼関係を築く」というのは、実際には非常に難しいですよね。特に思春期の子どもたちからの信頼を得ることに、苦戦している親は多いと思います。子どもたちがトラブルに遭った際に頼りやすい環境を作るには、親はどのようなことをすべきだと思いますか?
子どもの信頼を得るために行動を監視しない方がいい、と言う意見もあるかと思いますが、私は子どもたちを犯罪から守るために、親が「ネットの時間を制限する」「ポルノサイトをブロックする」といった対策は、当然ながらすべきだと思っています。子どもは意図せずにアダルトサイトにたどり着いてしまうこともありますし、ネットの世界ではどんな問題が起るか分かりません。だからある程度、親が子どものネット環境を制限して守ってあげることは必要だと思います。
その上で、子どもが親を信頼し相談しやすい環境を作るには、やはり家庭内での性教育の定着が大切ではないでしょうか。とにかく親子で、「性」について小さいうちから繰り返し話し合う。例えば私は5才の息子に電車の中で「コンドームって何?」と聞かれたことがありますが、5才だろうとも、理解できるように丁寧に説明しました。
性の話題を「恥ずかしい」「親とは話してはいけないこと」と家庭内で思い込まず、日頃から活発に話し合うことで、正しい知識を身につけ、犯罪に巻き込まれた際も親に相談しやすくなると思います。