映画『ソウルフル・ワールド』をもっと深く楽しむために。ピクサー作品が大人も子どももワクワクさせる理由(後編/作品レビュー)
前編はこちらから。
『ソウルフル・ワールド』が問いかける、生きる意味と価値
2006年にはディズニーの完全子会社となり、2011年にはジョブズが逝去、また2018年にはラセターも去り、エド・キャットマル社長も引退を発表。ピクサーに新時代が到来したが、その精神は確実に受け継がれている。
ピクサーの第23作目である『ソウルフル・ワールド』は、NYでジャズ・ピアニストになる夢を見続けている中学校教師のジョー・ガードナーの物語だ。ある日、ついにチャンスが舞い込み有頂天になったのも束の間、事故に遭ってしまう。
天国行き(死)を断固として拒んだジョーは、生まれる前のソウル(魂)の世界へ迷い込む。そこで出会った、人間の世界に生きる意味を見い出せないことから生まれること拒み続けているソウル「22番」のメンターとなることで、なんとかして地上に戻り、夢を叶えたいと奮闘する。死にたくないジョーと生きたくない「22番」。相反するふたりが一緒にいることで、さまざまなことを学ぶ、自分探しの旅の物語でもある。
舞台となるのは「生まれる前の世界」
監督は『インサイド・ヘッド』、『カールじいさんの空飛ぶ家』、『モンスターズ・インク』を手掛けたピート・ドクター。ラセターの後を継いでチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任した、ピクサーのトップクリエーターだ。『インサイド・ヘッド』で5つの感情(ヨロコビ、カナシミ、ビビリ、イカリ、ムカムカ)を擬人化し、頭の中の世界を作り上げたように、今回は生まれる前の魂の世界をヴィジュアル化してみせた。
「なんで生まれてきたの?」という子どもからの問いにも
メキシコの国民的な行事である死者の日を題材にした『リメンバー・ミー』でも生と死というテーマを扱っているが、本作ではさらにストレートに生きる意味や意義について語っている。
体から魂が離れたことによって、今までの自分の生き方を見つめ直すという意味では、現代版『クリスマス・キャロル』のようでもあるが、スクルージが自分自身の強欲やエゴをまざまざと見せつけられ改心するのとは反対に、ジョーは、成功して人に認められなければ、生きている意味がないかのような、生産性重視の価値観に押しつぶされそうな自分を思考そのものを見直す、というあたりが今日的だ。“生”そのものを讃える優しさと美しさがそこにはある。
子どもが笑えるような無邪気な楽しさもある一方、大人も考えさせられるような哲学が潜んでいるところはピクサーらしい。もちろん、人生を輝かせるためには、自分ならではの「きらめき」を見つけることが大事というメッセージは、きっと子どもにも伝わるだろうけれど。
アフリカ系アメリカ人がメインのキャラクターに
また、本作はアフリカ系アメリカ人のコミュニティを舞台にした初めてのピクサー作品でもある。ハリウッドのダイバーシティへの取り組みに並走したともいえるが、共同監督のケンプ・パワーズの存在も大きい。脚本も手掛けるパワーズは、ニューヨーク育ちでジャズ好きの自分を、ジョーというキャラクターに投影させた。
ハレの舞台を前に、スーツを新調したり、理髪店で散髪するシーンもアフリカ系アメリカ人のリアルを表現するために生まれたという。作り手の個人的な思い入れのあるシーンは、観るもの心にも響くものだ。