ティム・バートンが誘う、個性と多様性がきらめく新たな世界『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』
小さい頃、「おばけ」や「モンスター」が好きだった人は多いはず。『E.T.』や『グレムリン』、『ゴーストバスターズ』など、幼少期の思い出深い映画には必ずと言っていいほど「おばけ」や「モンスター」が出てきた。
今も昔も、子どもはなぜ怖いもの、不思議なものに惹かれるのだろう。怖いもの見たさか、はたまた大人には見えない“何か”と通じ合っているからか。
子どもたち、そして遊び心を忘れていない大人におすすめしたい映画が『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』だ。
監督は、熱烈なファンが多いティム・バートン。『シザーハンズ』にはじまり、『アリス・イン・ワンダーランド』『チャーリーとチョコレート工場』など、世界中の子どもから大人までを次々と新しいイマジネーションで魅了し続けている。今作の主人公は、とある孤島の森で暮らす特殊な才能をもつ子どもたちだ。
宙に浮く、手から火を出す、怪力、人形に命を吹き込む…など不思議な能力を持っていたり、頭の後ろに口がある、透明人間など外見が少し変わっていたり。そんな子どもたちが住む屋敷を見守っているのが母親のような存在のミス・ペレグリン。彼女も特殊な能力をもっていて、時間を操作したり、ハヤブサに変身したりできる。
登場人物だけで面白さが伝わってくるが、ストーリーもファンタジックで魅力的。現代を生きる孤独な少年ジェイクが、唯一の理解者だった祖父エイブが死ぬ直前に残した言葉を元に、イギリス・ウェールズ地方の孤島を訪れる。孤島の森の奥にある児童養護施設に住むのが、ミス・ペレグリンと特殊能力をもつ子どもたちだ。
彼らがなぜ、こんな不便な場所に住んでいるのか。それは外見や能力が特殊だからというだけでなく、“ホローガスト”と呼ばれる邪悪な異能者から命を狙われているから。ホローガストを率いるリーダーのバロンは不治の力を得るために、ミス・ペレグリンと子どもたちを捕らえようとする。ジェイクは子どもたちと過ごすうちに次第に友情を育み、彼らを守ろうと決意する。
友情や成長を通して描かれているのは、個性や多様性を肯定し、まっすぐ生きることの素晴らしさだ。それは、ティム・バートン自身が幼少期に経験したことに通じている。幼い頃から夢見がちでモンスター映画が大好きだった彼は、周りから“変わっている”と言われ続けていた。
個性の尊さを誰よりも知っている彼だからこそ描ける、自身の実体験を重ねた物語。個性を輝かせること、多様性を受け入れることの大切さを問いかける、今の時代を生き抜くためには欠かせない重要なテーマが裏にある。
映画館でぜひチェックしてほしいのが、モンスターや子どもたちの“キミョかわいい(奇妙でかわいい)”様子。特におすすめのシーンは、命を吹き込まれたガイコツ達(スケルトン軍団)がモンスターと戦う場面。船着き場の移動遊園地に突然現れたモンスターと、スクリーン狭しと暴れ回るスケルトン軍団の姿は、迫力満点で子どもの記憶に刻まれる名シーンになること間違いなしだ。
ティム・バートンの映画は、子どもが楽しいのはもちろん、大人も心をわしづかみにされる圧倒的な世界観がある。映画を終わった後に、「誰が一番好きだった?」「どのシーンが楽しかった?」と親子で本音で話せる作品は、そう多くない。子どもだましのアニメ映画に退屈する前に、まずはティム・バートンで親子の映画タイムを楽しんでみてはどうか。記憶に残る親子の映画体験が、一生の思い出になるだろうから。