人生を変える12歳の恋。フランスのベストセラー小説を映画化『はじまりのボーイミーツガール』
せつなくて、はがゆくて、好きなのに優しくできず、いじわるをしてしまう。初恋と言えば、そんなものだろう。しかし『はじまりのボーイミーツガール』で描かれた初恋のあり方は、ちょっと違う。健気でひたむきで、誰よりも相手を思いやる愛情に満ちている。「恋愛観は時代に合わせてアップデートしている」と実感する、愛らしくユーモアたっぷりな青春映画に仕上がっている。
主人公は12歳のヴィクトール。落ちこぼれで、クラスの優等生マリーに片思いをしている。そんな気持ちを知ってか、マリーがヴィクトールに「勉強を手伝ってあげる」と家に招待してくれた。不安とドキドキが高まる中、ヴィクトールはマリーの家を訪れ、勉強を習いはじめる。
少しずつヴィクトールの成績も上がってきて、マリーからは「将来はチェリストになるのが夢だ」と打ち明けられる。初めてマリーと手をつなぎ、別れ際に頬にキスをされ、舞い上がるヴィクトール。しかし、マリーには誰にも話していない秘密があった。網膜色素変性症という徐々に視力が落ちる病気を患っているマリーは、音楽学校に入学するためにそれを隠していた。マリーからは「病気を隠すために友だちを作った」と言われ、ヴィクトールはショックを受ける。
悩んでいる時に、ヴィクトールは父から「嘘のない愛は、愛じゃない。大切なことはあきらめるな」と助言され、マリーの目になって手助けすることを決意する。黒板の字が見えないマリーに代わりヴィクトールが答えたり、テストでマリーの代筆をしたり。なんとか学校の先生や友だちにはばれずに過ごしてきた。しかし、マリーに片思いをする優等生ロマンがマリーの変化に気づき、先生に告げ口をしてしまった。両親に目が見えないことがばれたマリーは、入院するよう説得される。マリーのチェリストになる夢を実現させるために、ヴィクトールとマリーは家出をしてしまう。
最初は、恥ずかしさから本音を隠しているヴィクトールだが、マリーの夢と秘密を知ってからは、献身的で愛情に満ちた頑張りを見せる。「恋は求めるもの、愛は与えるもの」と言うが、マリーに目の代わりになって、全身全霊でサポートをする。与えることを惜しまないヴィクトールとマリーの絆はどんどん深まり、マリーにとってヴィクトールが一番の理解者に。ユーモアたっぷりの親友たちのサポートにも勇気づけられる。
ふたりの恋は、大人を動かしはじめる。ヴィクトールの父は、5年前に亡くなった母への思いを断ち切れず、母の洋服や荷物を捨てられずにいた。ヴィクトールがマリーへの思いを決めたとき、父にも「ママの荷物を処分しよう」と言い、父子は新しい一歩を踏み出す。仕事最優先で娘に関心を持っていなかったマリーの父も、ヴィクトールの熱意に心を動かされ、娘の夢を考えるようになる。
ふたりの恋の結末は、どうなるのか。どんなラストを迎えても、マリーはヴィクトールからの愛を忘れることはなく、ヴィクトールもかけがえの無い時間を大切にするだろう。この経験が人を愛すること、大切に思うことの糧になるはずだ。子どもの初恋のイメトレにも、大人が淡い初恋を思い出し、ノスタルジックな思いを馳せるにもおすすめ。『はじまりのボーイミーツガール』をぜひ映画館でチェックしてみて欲しい。