映画『パパは奮闘中!』今の“イクメン”が抱えるリアルな現実
「妻や子どものことを理解していますか?」という質問に、自信を持って「はい」と答えられるパパは、どれほどいるだろうか。イクメン全盛の時代とはいえ、理想と現実の間で悩む人も多いかもしれない。そんなパパ、そしてママに観て欲しい映画『パパは奮闘中!』が公開される。
主人公は、オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエ。8歳の息子エリオットと娘のローズ、アパレルショップに勤める妻ローラと4人で暮らしている。倉庫での仕事は朝早くから夜遅くまで続き、子育ては全て妻に任せていた。
ある日、学校から「子どもたちを迎えに来て欲しい」と連絡が来る。仕事を中断し子どもを迎えに行った帰り、妻の勤務先に寄ると無断欠勤していた。さらに前日、店で倒れていたことや精神科に通院していたことを知る。
家に帰ると、妻の服や身の回りのものが無くなっており、携帯電話に連絡してもつながらない。「ローラはどこに行ったのか」「なぜいなくなったのか」分からないまま、慣れない育児や家事を始めるオリヴィエ。
子どもたちの服、作るごはん、宿題の仕方…全てが母親のやり方で進められていたため、「あの服がいい」「これは食べない」「ママと一緒に宿題をする」など、文句を言われながらオリヴィエはこなしていく。ベビーシッターを雇いたいが、そんな余裕がないのも現実だ。
その矢先、ローラからハガキが届く。「いつ帰れるか分からない。2人を命より愛している」と書かれたハガキに子どもたちは喜ぶが、自分の苦労を知らない妻にオリヴィエは激怒し、ハガキを破り捨てる。
仕事との両立に奮闘しながら、母親や妹、同僚の娘に協力してもらい綱渡りの日々が過ぎていく。ハガキの消印にあった妻の故郷を訪れ、精神科の通院記録などを調べてもらうも、ローラを見つけることができなかった。新たに今より給料のいい労働組合職員の仕事を勧められるが、勤務先が遠く離れたトゥールーズで、子どもたちは「引っ越したらママが帰って来られない」と決断できずに悩む。
そして、ある事件が起こる。朝学校に送り届けたはずの子どもたちが学校に来ていないという連絡だった。2人はどこに行ってしまったのか。後に、オリヴィエと子どもたちが選んだひとつの選択とは?
本作で映し出されているのは、一緒に暮らしている家族のことを全くわかっていない&知らないパパの現実だ。1日のほとんどを仕事に費やし、妻や子どもと話す時間がなく、それぞれ「今どんなことを考えているのか」「何が好きなのか」「何に悩んでいるのか」を知らないまま、妻が家出という事件を迎える。日本でもありがちな設定で、明日わが身にも起こりそう…と思えるほどリアルな展開だ。
もうひとつ注目したいのが、パパの考え方や人間性。オリヴィエが妹と話すシーンで、「暇だし子どももいないから、ここで子どもを見ていて欲しい」とお願いする。妹は、一方的で相手を敬わない態度を否定し「だからローラもいなくなったのでは」と正論を放つ。一方、オリヴィエは妻がいない間に同僚と浮気をする。危機的な状況だからか、日常的にそうなのかは分からないが、その精神性や自由さもある意味すごいと思う。
ストーリーから垣間見える、妻ローラの心の闇も深い。接客中に泣いてしまったり、夫が出かけた後に泣き崩れたり。息子エリオットの体の傷跡には、どんなエピソードがあったのだろうか。2人の子をたった1人で育て続けた苦労や不安は計り知れない。オリヴィエの母が言った「私も逃げ出したかったわよ」という一言から、この出来事が、いつでも誰にでも起こりうるのだと気づかされる。
父子が出した決断は、とても潔く、その時できる最善の策だったように感じる。子どもの意見を尊重し、それぞれの将来を考えた決め方も興味深い。日本ではあまりやらない方法でもあるので、ぜひラストにも注目して欲しい。
タイトルは『パパは奮闘中!』だが、原題『Nos Batailles』の直訳は「私たちの戦い」。つまりパパの戦いであり、子どもたち、家出したママの戦いでもある。戦いは、いつか終わりを迎えるだろう。そして家族と過ごす時間が、いかに大切かを痛感する。本作で描かれるパパの人間としての脆さや弱さにも、“パーフェクトなイクメンでなくていいんだ”と勇気づけられる。ママと同じ、パパだって1人では子育てできない。子育てのあり方は人それぞれでいい。みんなで助け合ってするものだから。