DATE 2020.08.14

アニヤ・ハインドマーチに訊く、サスティナブルの未来と家族について

モードを牽引するデザイナーとしてはもちろん、環境保護の水先案内人としても注目を集めるアニヤ・ハインドマーチへの特別取材。2020年に始動したプロジェクト「I AM A Plastic Bag」から紐解く、これからのサスティナブルと家族、そしてファッション。
Photo: Tom Jamieson

東京でプラスティックバッグが完全有料化された2020年から遡ること十数年前、スマートに、そしてスタイリッシュに、そして何より楽しくプラスティックバッグの削減を啓発しようと社会現象を巻き起こし、いち早く環境問題に一石を投じたデザイナーがいる。

 

Anya Hindmarch(アニヤ・ハインドマーチ)だ。

 

2007年、プラスティックバッグの削減を目指し生み出されたキャンバス製のトートバッグ「I’m NOT A Plastic Bag」の発売日には、イギリスのスーパーマーケット「Sainsbury’s」に8万人もの人々が列をなし、海外でも大きな話題と行列に。その現象が世界中のさまざまなメディアで報じられたことから、プラスティックバッグをめぐる議論が加速。結果イギリスでは、プラスティックバッグの有料化へと繋がった。

日本でも争奪戦が起きた「I’m NOT A Plastic Bag」。東京のデパートやショップには朝から人が並び大きな話題を呼んだ。

そして今年2020年2月、アニヤ・ハインドマーチは新たな環境問題へのプロジェクトをスタートさせた。まずはコロナ禍に見舞われる直前のロンドンのファッション・ウィーク中に市内のショップを3日間休業し、店舗を丸ごと使用したインスタレーションを発表。9万本以上もの使用済みペットボトルでショップを埋めつくすことで、数分間で私たちがどれだけペットボトルを消費しているかを可視化することに成功した。併せてペットボトルを再生させた素材で作った新コレクション「I AM A Plastic Bag」をローンチ。新しいサスティナブルの提案が注目を集めている。

ロンドン・ファッション・ウィーク中にお披露目されたインスタレーション。イギリスでは実に8.5分ごとに9万本のペットボトルがゴミ処理場運ばれるという。東京は表参道ヒルズ、香港でも同インスタレーションが発表された。

──環境問題に着目するようになったきっかけ。そして実際に2007年「I’m NOT a Plastic Bag」というプロジェクトを実行しようとしたきっかけを教えてください。

 

環境保護といった言葉は以前からよく耳にしていましたが、私にしかできない取り組み方や方法を探していたところに、ある団体からレジ袋の使用量削減に繋がることを何かできないかという問いかけをもらいました。まさに、そこで「I’m NOT a Plastic Bag」がひらめきました。今まで自分がやってきたことの延長線上にありながら、ユニークな行動で環境保護ができると気付いたのです。

 

──「I’m NOT a Plastic Bag」プロジェクトは世界中で大きな反響を呼び、大きな結果を生み出しました。ご自身はどのような感想を持ちましたか?

 

このキャンペーンについては、今でも誇りに思っています。レジ袋に関する意識を変えようという、当初の目的を達成することができたのですから。発売の初日に英国では8万人もの人の列ができ、その後、東京、香港、台湾やニューヨークでも同様の列ができました。そんな“狂騒曲”もさることながら、何より、実際に英国内でのレジ袋の使用量を明確に削減することに繋がったのです。その後、政府がレジ袋の有料化を法律として制定することにもなったことも印象深いです。

 

──今回リリースされた『I AM A Plastic Bag』は2020年春のローンチまで開発に2年間という時間を費やして生まれたそうですが、どうしてこのタイミングで新たに環境問題へのプロジェクトをスタートしようと思われたのでしょうか。

新コレクション「I AM A Plastic Bag」。ラージ・サイズのバッグ 1 つあたり500cc のペットボトル 32 本がリサイクルされ原料として使われている。

2020年を迎えようとしているのに、環境問題は全然解決していないと感じていました。またその一方、環境問題の論点が「資源の循環」といったことへと推移しているように思えました。すでに地球上にある、80億トンといわれるプラスティックを、どうすればゴミ置き場へ送ることなく活用することができるのか、これに対するひとつのプランを提示してみたのです。

 

──原料ひとつひとつや製作過程のこだわりもさることながら、何より「I AM A Plastic Bag」はスタイリッシュでモダンです。今回のシリーズをデザインするにあたってのこだわりや、ポイントを教えてください。

 

使用済みの500ccのペットボトル32本からバッグ1つに必要なファブリックを生み出し、その表面には、自動車などのフロントガラスをリサイクルした素材でコーティングを施しています。そのどれもが「捨て去られたかもしれない」ものから生まれました。一方、もちろんバッグであり、商品であるわけですから人々に「持ちたい」と思ってもらえる魅力があり、ずっと愛用してもらえること。そして仮に不要になっても他の人が使えるものである必要があります。それゆえ、コットン・キャンバスのような風合いにこだわり、納得いくファブリックを生み出すまで長い時間がかかりました。

 

──プライベートでは、ご自身が母親として環境問題を子供達とシェアするにあたって、どういった教育を心がけたり、どんなものを参考にしていますか?

 

環境問題は、世代を跨ぐもの。自分の世代が何気なくしていたことが、子供たちの世代にインパクトやダメージとなって地球に現れますよね。それゆえ子供たちの存在が私に環境問題を対峙させてくれたように思っています。

影響を受けた本は

「Cradle to Cradle(Patterns of the Planet)」by Michael Braungart & William McDonough

「No One Is Too Small Too Make a Difference」Greta Thurnberg

「No More Rubbish Excuses: How to reduce your waste and why you must do it now」 Martin Dorey

「The Uninhabitable Earth: Life After Warming」– David Wallace-Wells

です。

 

けれど、最も子供たちにインパクトがあることは、実際にリサイクルの作業を行っている工場などに連れて行き、捨てた「ゴミ」がいかに利用されるかを目にすること、そしてゴミ置き場に連れて行くことだと思うのです。

 

──先のロックダウン中、思い出に残ったエピソードを教えてください。

 

幸いにして私は子供たちと自宅で過ごすことができましたが、そうできない人たちのことを思うと、少し罪悪感を感じました。在宅で仕事をこなしながら、医療従事者のために6,500着の医療用ガウンや、集中治療室で働くスタッフのためのホルスターを提供できたことは自分にとっても、家族にとっても、そしてブランドにとっても印象深いエピソードです。(編集部注:この取り組みはCNNでも取り上げられTVでインタビューにも応じた)

ロックダウン中の自宅デスク。ここでデザインやプロジェクトを動かした。
ロックダウン中迎えたバースディには、スタッフからのサプライズが。自宅玄関にギフトが置かれたり、スタッフたちが仮装して家の前の道路を自転車でパレードをしてくれたそう。
集中治療室で働く医療従事者に作ったホルスター(ボディバッグ)。携帯電話や必要な小物がさっと取り出せるなどアイディア満載のプロダクツ。

──国連のSDGsの提唱やコロナ禍など受け、今ファッション業界はより環境問題と深く対峙していかなければならない新しい時を迎えました。デザイナーとして、今後どんなメッセージをファンに発信していきたいと考えていますか?

 

つねづね考えることは、「ブランドを表すものは、振る舞いそのものである」ということです。たとえば、「アニヤ・ハインドマーチ」というブランドは、あくまで地域社会の一員であって、困難に常識をもって立ち向かい、その結果をまた地域社会に還元していくということが重要なのです。ブランドとしても、デザイナーとしても他人を思いやることが大切だと考えています。

 

──最後に日本のファンに向けて、メッセージをお願いします。

 

一日も早く、また日本を訪れる日が来ることを願ってやみません!

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