アニメ・絵本『もるめたも』が教える、コロナ時代だからこそ子どもたちに「遊び」が必要な理由
【特別寄稿】Reframe Labメンバー塚田有那 アニメ・絵本『もるめたも』に込めた想い
いま1年以上続くコロナ禍において、子どもも、もちろん大人も、自由に遊ぶことが許されなくなっている。本来であれば、マスクなんて付けずに公園を走り回ってもいいし、興味の赴くままに色々なものに触れ、実際にその感触を確かめて物事を発見していくことは、子どもの成長にとってかけがえのない時間だったはずだ。
この状況を受け、人間の想像力を広げる学びや遊びを開発し、この世界をさまざまな角度から「リフレーム」して見てみることをテーマに活動する有志団体「Reframe Lab(リフレームラボ)」は、コロナ時代を生きる子どもたちに向けたオリジナルのアニメーション&絵本『もるめたも』を発表した。
自分の体が魚に、鳥に、宇宙に。メタモルフォーゼの物語
子どもの頃に親しんでいた絵本やアニメを、今あなたはいくつ思い出せるだろうか?
私自身がすぐに頭に浮かぶのは、宮沢賢治やミヒャエル・エンデ、『風の谷のナウシカ』や『ナルニア国物語』だろうか。ここではない異界の扉をひらくファンタジーの国はいつだって、すぐそこにあった。どんな時代も子ども向けの物語には、動物や虫、鬼や竜など、「人間ではないもの」が次々に登場し、子どもたちの空想力を刺激しては一瞬で魅了する。
『もるめたも』に登場するキャラクターも同様だ。物語のテーマは、メタモルフォーゼ(変容)。ある子どもが、ふと気がつくと水になり、魚になり、鳥になり、はては土中の菌や宇宙にまで変容していく。
実は人の体の約6~7割は水であり、体中の細胞は1日にして入れ替わると言われている。つまり今の自分を構成するこの身体は、今日この瞬間にも変容しているのだ。子どもたちにはそんなイメージを変容していく主人公の姿に重ねながら、物語の中で自由に遊んでほしい。何より、コロナ禍で人と会う機会も減り、マスクを付けなければ自由に外も歩けないといった暮らしが長く続くなかで、子どもだけでなく大人たちだって、想像の世界の中で自由に遊んでみたいはずだ。そんな想いから生まれたのが、『もるめたも』の空想の世界だった。
想像力を掻き立てるアニメーションと絵本を作り上げた、新鋭アーティストたち
他にはないユーモラスな世界観で、アニメーションと絵本の絵を手がけてくれたのはアーティストのひらのりょう氏。彼の描き出す世界はいつも、自分の体内をすり抜けて、不思議な湿度と温度のある森へ誘われるような感覚になる。そこにはあらゆる異形のものたちが息づき、多様な生命の気配を漂わせてくる。「人から動物へ、この世界のあらゆものへとメタモルフォーゼする物語」というテーマにぴったりのアーティストが、まさに彼だった。
ひらのさんに作画をお願いすることが決まると同時に、音楽制作をお願いしたのが、音楽家・アーティストのOLAibi氏だった。世界中の民族音楽の音を独自に編み直し、古代から続くようでも、宇宙からの交信のようでもある不思議な音を紡ぐOLAibiさんの音は、決して「子ども向けのアニメ」を想起するタイプのものではないが、だからこそ、子どもたちが幼いうちから彼女の音に触れることは、「音」への感受性を育む上で欠かせないものだと感じていた。彼女は普段、「音の実験場」と呼ぶ鳥取の広大な森で暮らしているが、さまざまな森の生物と生態の音を録り続けるOLAibiさんの紡ぐ音楽と、ひらのさんの不可思議なアニメーションが連鎖していくその心地よさは、正に異世界に迷い込んだような錯覚を与えてくれるはずだ。
こうして紡がれたビジュアル・音の世界に対して、最高の案内人となってくれたのはアーティストのKOM_I(コムアイ)氏。OLAibiさんとは、2020年からOLAibi+KOM_Iの名義でユニットを組んでいた彼女だが、ストーリーラインのナレーションを依頼したところ、少女とも少女とも見分けがつかず、大人と子ども、人間と異種、あらゆる境界線を飛び越えるような透き通る声で、物語をガイドしてくれた。
遊びから生まれるレジリエンス
こうした気鋭のアーティストたちのコラボレーションによって生まれたアニメーション『もるめたも』だが、物語を絵本化した『もるめたも あそびとまなびの観察ノート』は、無料で配布をしている。絵本版では、“遊びの可能性”をテーマにしたさまざまな識者によるコラムや、物語の世界を実際にフィールドで体感できる遊びのアイデアをまとめた「あそびの開発ノート」も掲載しているので、そちらも注目いただきたい。
最後に“遊びの可能性”のコラムから特別に一つ、Reframe Labのメンバーであり、児童精神科医・小澤いぶき(認定NPO
災害や紛争、またコロナ禍のようなパンデミックによって社会が混乱するとき、子どもたちは知らずのうちにメンタルヘルスの影響を受けている。いつもより眠りが浅くなったり、やる気がなくなったりするのもストレスのサインのひとつだ。そうしたとき、子ども自身が感じた感情や経験を、否定することなく受け入れ、トラウマが生じる前に適切な対応をしていくことを「トラウマインフォームドケア」と呼ぶそうだ。またこうした子どものストレスは、口や態度には出さずとも、子ども同士の遊びの中で見つかることもあると言う。
最近はお人形ごっこの際に人形にマスクを付けたり、食事をするときに衝立(ついたて)のようなものを置く子どもが見られるそうだが、日常の環境の変化はダイレクトに子どもの心身にも影響を及ぼす。そんな風に遊びの中でストレスを表現する子どもに直面した時は、まずは「感情を受け止めてあげる」こと。その体験こそが、彼らの安全や安心を感じる感覚につながるのだと、小澤さんは綴っている。
これらの識者によるコラムは、Reframe Labのサイトでも随時発信していく予定なので、気になる方は是非ご覧いただきたい。
『もるめたも』には、「子どもにとっての遊び」の意味を考えるヒントが散りばめられている。子供の想像力を引き出し、自由に空想の世界で遊ばせてくれる物語。物語の世界をリアルで体感するための、遊びのアイデア。そして遊びの可能性について、新しい発見や知識を与えてくれるコラム。
コロナ禍の今だからこそ、子どもも大人も『もるめたも』を通して、「遊び」がなぜ人生にとって必要なのか、その意義を考えてみてほしい。