DATE 2022.05.02

平野レミに聞いた『おいしい子育て』の極意とは?料理も子どももほったらかしがいい理由。

明るい笑顔でお馴染みの料理愛好家の平野レミさん。今では二人の息子さんの奥さんたちとの仲良し嫁姑関係でも話題になっている。そんな幸せファミリーはどうやって作られていったのか。和田家の子育てを振り返りながら、現役ファミリーに向けてのアドバイスを聞いた。

子どもと過ごす日々は、驚きと迷いの連続。さらに、日々目にする数多くの情報に翻弄されて、途方にくれてしまうことも少なくないのではないだろうか。そんな時、子育ての先輩の言葉は、何よりも力強い支えとなってくれる。

今回、お話を聞いたのは、料理愛好家の平野レミさん。3月に出版された『おいしい子育て』では、25年前の著書『笑顔がごちそう』を大幅に加筆して2022年の今を意識した内容に生まれ変わらせた。2人の息子さんたちが小さかった頃の和田家と、当時から食卓に並んでいたレシピ満載のこの本は、クスッと笑って気持ちが温かくなるような魅力が詰まっている。

『おいしい子育て』ポプラ社刊。ふたりの息子さんの小さい時のエピソードや、和田家のテーブルを賑わせた料理とそのレシピ、レミさんの仕事や家族との向き合い方などが詰まったエッセイ集。愛情いっぱいでおおらかにお子さんたちと向き合うことの楽しさや大事さを感じることができる、Fasuファミリーにもぜひ読んでほしい一冊。
『おいしい子育て』ポプラ社刊。ふたりの息子さんの小さい時のエピソードや、和田家のテーブルを賑わせた料理とそのレシピ、レミさんの仕事や家族との向き合い方などが詰まったエッセイ集。愛情いっぱいでおおらかにお子さんたちと向き合うことの楽しさや大事さを感じることができる、Fasuファミリーにもぜひ読んでほしい一冊。

本に登場するご子息たちも今やそれぞれ家庭を持ち、現在ではレミさんとふたりの「嫁」(※)の関係も話題だ。そんなレミさんにご自身の子育て時代のこと、和田家の教育、ご子息たちとの今の関係などを聞いた。

 

※夫はイラストレーターの故和田誠さん。長男はロックバンド『TRICERATOPS(トライセラトップス)』の和田唱さんで、妻は女優の上野樹里さん。次男はレミさんのキッチンウェアブランド『remy』で企画デザインなどを手がける和田率さんで、妻は 料理家で食育インストラクターの資格をもつ和田明日香さん)

――『おいしい子育て』では、和田家の様子が生き生きと伝わってきますね。ご自身の子育て時代を振り返っていかがでしたか?

 

もう30年も前のことだから細かいことは忘れちゃったんだけど(笑)。子育てっていうほどのことは何もしてないの。「勉強しなさい」とかも言ったことないし。本当にほったらかしで。ひどいもんでしたよ。でもお料理はちゃんとしてました。朝昼晩、食べることだけはしっかりとね。逆に言うとそれ以外は何もないんです(笑)

 

――やはり食事は力を入れていたんですね。食育のようなことは意識されてたんでしょうか。

 

「葉っぱを食べなさい。野菜をしっかり食べなさい」ってことだけずっと言ってました。葉っぱ食べてれば大丈夫って。

それは大人になって家庭を持ってから自分の家でも実践してくれてるみたいで。息子たちとも嫁たちともしょっちゅう料理の話をするんです。二人のうちに行くと私の作った料理と似てるんですよね。樹里ちゃん(上野樹里さん)もあーちゃん(和田明日香さん)も、私の味に似てて。

「牛トマ」という、私の定番メニューがあるんですが、それはもともと私の祖父が食べてたレシピがもとになってるんですね。それを父も食べていて、私も小さい時から大好きで。息子たちが小さい時もしょっちゅう作っていたんですが、今度は息子の家で、お嫁さんたちが牛トマを作ってくれています。さらには12歳になる一番上の孫が自分で作ってるんです。つまり、5代同じ料理を作り続けてるのね。100年前の料理が、5代続いていくっていうことが、家族の絆だなと思って。

 

100年前の人がどんな人か、どんな顔かわからなくても、おじいちゃん、ひいおじいさん、ひいひいおじいさんが作ったものを食べられるっていうのが。そういうお料理が何品かあったらその家の絆が続いてく感じがするんですよね。

――ひいおじいちゃんも食べていた料理、と言われたら特別なものに感じますよね。お料理以外はほったらしというのは?

 

 

自由よ。とにかく自由。 親が何かしなさいって言ったってその通りにならないもん。

 

下の息子が中学のとき、「塾に行きたいからお金ちょうだい」って言うから、何も聞かずにお金だけあげたんです。自分で手続きして、私は塾の名前も場所も知らないまま、息子はずっと通ってました。で、高校受験で受けた学校に全部受かっちゃったんですよ。夫が「何もいうな。高校は自分で決めさせろ」というので、一切親は何も言わずに、結局自分で選んで入ったんです。

その後、今度は「アメリカに留学に行きたいから金くれ」って言うわけ。だからまたお金は出したんだけど、どの学校行ってたのか、何を勉強していたのかよく知らないの。1年くらいだったかな。自分で日本の学校の休学手続きして、全部自分でやってましたね。留学したのはすごくよかったって本人は言ってるからよかったんじゃないですかね。私は知らないんだけど(笑)。

――すごく自立されてますね。お子さんに任せっぱなしっていうレミさんもすごいです。

 

そう、任せっぱなし。何も言わないと自立するんじゃないかしらね。

兄弟でも、上の息子は、勉強には全然興味がなくて、とにかく音楽。次の日から期末試験なのに、ギターのパンフレットいっぱい持って帰って来ちゃってさ。しまいには和田さんの古いギターを弾いてそのまま寝ちゃってるの。和田さんに「大変!明日試験なのに、寝ちゃってる」っていったら、「これでいいんだ。このままにしておけ」って。

何年か後にその息子が歌の道に行ったら「言った通りだろ」って。あそこでギター取りあげて勉強しろって言ってたら、やりたくもない仕事をしてたかもしれないって。「好きなものやれるのが一番いい。売れても売れなくても好きなことをやるのがいいんだ」って言うんです。私もそんなもんかなと思って。だって、親の私たちはワイン飲んだり、しょっちゅうコンサート行ったりとか、楽しく生きてるのに「勉強しろ」なんて子供に言ってもするわけないし。息子たちも楽しいことをすればいいと。勉強したいんだったらすればいいし、音楽やりたいならすればいい。こっちから何かを強制したことが本当になくて。だから今こうやって仲良くできるのかもしれないです。

 

――お父さんとしての和田誠さんは、息子さんたちに大きな影響を与えていたんですね。

 

和田さんが映画とか音楽が大好きだったから、そういう話をよくしてましたね。めちゃくちゃ忙しい人だったけど、それでも映画とかには連れて行ったりしてました。なんとかっていうコンサートも行ったり。2人の息子と夫と、なんか色んな話してるの聞いてて、いい家庭だな、と思ってましたよ。

 

 

――怒ったりしたことはあるんですか?

 

そうねえ…。兄弟喧嘩の時とかは怒ったりしましたよ。お兄ちゃんが弟ぶったりしちゃダメとか。でもそれくらい。そんなに悪いこともしなかったし。

 

 

――子どもをほったらかすことって、すごく難しいなと思います。つい何か言いたくなっちゃうし、手をかけるのがいい子育て、みたいな思い込みもあったりしますし。

 

料理でもほったらかしだし、ほったらかしが一番いいんじゃないかしらね。遠巻きに大きな愛を注いでればOKじゃないかしら。

 

今も子育ての本とかいっぱい出てるでしょ。「子どもはこうじゃなきゃいけない」とかいろんな意見はあると思うけど、自由にさせればいいと思いますよ、私は。

本人が興味を持ったら、ギター買ってあげるとか、映画に行ったり、野球一緒にやったりね。そういう風に一緒に何かをする、みたいなことはしましたけど。

こっちから押し付けてこうしようとか言ったことはないし、うちの夫もそういうことをしなかったですね。

例えば、子どもが「ベートーベンてなに?どんな曲作ってんの?」なんて言ってたら、夫は週末に朝からずっとベートーベンの曲をずっとかけるわけ。何も言わないでただ音楽をかけてるだけ。

 

 

――今だったらついスマホで検索してベートーベンの知識とか教えてしまいそうです。何も言わず、ベートーベンの曲をかけているだけ、って簡単なようですごいことなんじゃないかと思います。お子さんたちが小さい時を振り返って「こんなことしとけばよかったな」とか、「あんな事言っちゃったな」とか、何かちょっと後悔だったりとか心残りに思ってることってありますか?

 

心残りねえ。愛情はねしっかり注ぎましたからね。それにこっちが「こうすればよかった」なんて思っても、息子たちは言うこと聞くわけじゃないですもんね。

「宿題をやりなさい」とかも言ったことない。勉強ばっかりじゃないと思いますし。私自身が勉強が嫌いで高校辞めちゃってるし。そういう親に育てられた息子だから、息子も自由でいられたんじゃないかなあ。息子に聞いてみたいですね。

 

親が率先していい学校にいれても、子供が嫌になっちゃうこともあるし。親が言う通りには、絶対ならないと思うんですよ。人生がドライブだとしたら、高速道路にのって直線でゴールするみたいに、「この大学出てれば良い生活ができる」っていうのもあるのかもしれないですけど、高速道路から降りちゃって、小道に入ったり、そこに咲いているきれいなお花を見たりして、ゆっくりゆっくりとゴールするのとどっちがいいんだろう、とかは思いますよね。

 

――ほんとうにそうですね…。お孫さんたちにはどんなおばあちゃんですか?

 

あーちゃんは「孫と対等にしてる」って思ってるみたいです。大人と同じようにね。

息子が一番上の孫のことを「かわいいかわいい」って言わないでって言うんですよ。「もうレディだから」って。でも、親や周りの家族が「かわいい」って言わなかったら誰が言うのよ、って思って、今も「かわいいかわいい」ってやってます(笑)。孫本人は喜んでるんですよ。どうせ大きくなっちゃうし、子どもの時なんて限られてるんだから。 レディになっちゃったら、なでたり「いい子、いい子」ってできなくなっちゃうんだからね。

 

 

――子どもの時は限られている。というのは本当にそうなんでしょうね。子供が小さい時はずっと続くような気がしてしまいますが。

 

子育てなんてあっという間よ!!本当にあっという間。息子たちが生まれたときのこと覚えてますもんね。その子がもう40いくつでしょ。早いわよ。 みんなで元気でやってるからいいんじゃないの。だからね、自由にほったらかしで。かわいがってればそれでいい、と私は思いますね。

 

LATEST POST 最新記事

第3回 : 教育の多様性とテクノロジー
第2回:コンヴィヴィアルな家族のあり方
第1回:多様な生き方、暮らし方
トレンドのくすみカラーが満載。軽さも魅力の村瀬鞄行「ボルカグレイッシュ」【2023年入学ラン活NEWS】