DATE 2022.05.17

愛する器たちを、修理しながら長く大切に使い続けるために。【谷尻直子の漆金継ぎ体験記:前編】

お気に入りの器は割れても修理して長く使いたい。そんな想いを持つ谷尻直子さんは、数年前から“カジュアル金継ぎ”を楽しんできた。今回は漆を使った本格的な金継ぎに初挑戦すべく、かねてより憧れの存在だったという元漆職人で漫画家の堀道広さんの元へ足を運んだ。

料理家という仕事柄もあり、普段から多くの器に囲まれて過ごしている谷尻さん。ただ、ひとつひとつこだわりを持って選んだ器も、割れたり欠けてしまうことはどうしてもあるといいます。そんなとき、谷尻さんはこれまで、1日で修理が完了する“カジュアル金継ぎ”を楽しんできたそう。しかし、一方で「時間も手間もかかりそうだけれど、子どもが使う器には自然素材だけを使う金継ぎの方がいいのかも……」と、いつかは天然漆の金継ぎをやってみたいとも思っていたそうです。そこで今回は、一般向けワークショップ「金継ぎ部」を主宰する漆職人で、漫画家でもある堀道広さんの工房を訪ね、本漆を使った金継ぎに挑戦!

「漆金継ぎ体験記:前編」では、谷尻さんが堀さんから、金継ぎの魅力についてお話を伺った様子をお届けします。

 

“カジュアル金継ぎ”での経験を経て、遂に本格的な金継ぎに挑戦

堀道広さんが主宰する金継ぎワークショップ「金継ぎ部」の本拠地・多摩金継ぎ部の前で。
堀道広さんが主宰する金継ぎワークショップ「金継ぎ部」の本拠地・多摩金継ぎ部の前で。

谷尻:私が金継ぎに興味を持ったのは、8年前に金継ぎ作家の活動を始めた友人が行ったワークショップに参加したのが始まり。そこではいわゆる“カジュアル金継ぎ”というのを教わってきました。それから自己流で何度か金継ぎをしています。本格的な金継ぎだと漆を乾かすのに時間がかかるので、完成するのに数週間から数ヶ月かかってしまいますよね。でも、カジュアル金継ぎでは本漆の代わりにエポキシパテで接着し、真鍮粉と砥の粉(石を細かく砕いた粉)と合成樹脂と薄め液を混ぜたもので仕上げるので、1日で完成するのが魅力です。

とはいえ、「エポキシパテは熱に弱いので、熱いものを入れたり、電子レンジにかけたりするようなことはやめたほうがいいかな」とか、「子どもが使うものは口をつけたりしないように注意しないとな」と、デリケートな部分は気にしてきました。それで、一度本格的な金継ぎも学んでみたいなと思うようになって、手にしたのが堀さんの『おうちでできるおおらか金継ぎ』という本。イラストを交えてユーモアたっぷりに金継ぎのやり方について書いていらっしゃるので、すごく興味が湧いて。今回はその堀さんに金継ぎ指南をしていただけるということで、楽しみにしてきました。

 

 

堀:ありがとうございます。実は僕はカジュアル金継ぎのことは全然わからなくて。なのでどちらがいいとかは言いたくないんです。漆出身だから漆でやっているだけ。漆側の立場で言えば、漆を使った金継ぎって時間はかかるし、面倒だし、かぶれるし、いいことがない(笑)。金継ぎで直したものは、漆器と一緒で、電子レンジも食器洗い乾燥機も使えないですしね。唯一威張れるのが、人体に害がないっていうことなんです。僕は花瓶やオブジェやカップの持ち手などはボンドで修理してもいいと思う。ただ、子どもが使うものは自然素材のものでやった方が安心かな……くらいの感じですね。

楽しみながら修理ができる、金継ぎの限りない可能性

谷尻さん私有の器たち。
谷尻さん私有の器たち。

谷尻:なるほど。堀さんは漆の方なので、「カジュアル金継ぎについてはどういう見解をお持ちなんだろう?」と思っていたんですが、使い分けでいいんですね。

 

堀:そうですね。子どもには漆のほうがいいといっても、子どもってすぐ大きくなるから、漆が固まるのを何ヶ月も待っていられないという実情も分かりますから。僕は完璧な修理はないと思っていますしね。そもそも、修理自体威張れることじゃないというか、器を作った陶芸家よりも修理した人間の方が前に出るなんておこがましいと感じていて。だから、あまり金継ぎをアピールするのは僕自身の主義に反する、というのも正直なところです。

谷尻:そうなんですか! でも金継ぎって修理をするだけでなく、装飾的な部分もありますよね。金継ぎ作家という人もいますし、表現活動でもあると思います。

 

堀:そうですね、もちろん金継ぎ作家として表現活動をする人がいるのは素晴らしいことだと思います。でも僕にとっての金継ぎは、あくまで“修理”。割れたり欠けたりすることでマイナスになったものをゼロに戻してあげる行為だと思ってやっているんです。ただ、どのみち人がやることなので、個性を出さないようにしようと思っても味は出るものですし、そこが金継ぎの楽しさでもありますよね。

同じシリーズのガラス器を、統一感のある柄を施して再生

谷尻:分かります。アイディア次第で面白いことが色々できるというか。以前、同じガラスのシリーズのタンブラーやワイングラスを3種類カジュアル金継ぎしたことがあって。せっかくだから3つ統一した何かにしようかな、と思いつき、ちょっとした雫を景色として載せたりして、全部が揃った時に兄弟のように見える工夫したことがあります。“傷を持った3兄弟”という感じでやってみたのですが(笑)、うまくいきました。

 

堀:それは面白いですね! 僕も金継ぎはその人の発想によって、面白い修理ができる可能性が広がっていると思います。例えば別の器のパーツをくっつけたりしても面白いですよ。割れた器の破片が足りない場合、違う器の破片を継ぐ“呼び継ぎ”というのがあるのですが、個人的にはそれにすごく惹かれて。僕が主催するワークショップではチップスターとプリングルスとか、鳩サブレと鴨サブレとかをチョコペンで継いで食用の金粉で仕上げたりする、食べ物の呼び継ぎのイベントをよくやっているのですが、すごく人気があります。

 

谷尻:呼び継ぎ、素敵ですよね。あと、器に穴を開けて、鎹(かすがい)というホチキスの針のようなものを入れて修理する方法にも興味があります。

 

堀:銀や真鍮の鎹で止める修理は僕もやります。穴が開くのでその部分は埋めるのですが。やりすぎるとヘビメタ感が出るから気をつけないといけないんです(笑)。

谷尻:何となく分かります! 男性か女性かと言ったら、ちょっと男っぽいイメージですよね。それにしても、ものを長く、大事に使おうという風潮もあって、金継ぎへの注目度はどんどん上がっていると思います。7〜8年前にイタリアで「KINTSUGI KIT」という、いかにもおしゃれな金継ぎキットが売っているのを見たこともありますし、最近だと2019年にエルメスが金継ぎをテーマにした個展をしていました。堀さんの教室に海外の方が来られることもありますか?

 

堀:そうですね、コロナ前には中国の方が来られたりしたこともありました。先日は、中国版のユーチューバーみたいな方が取材に来ました。金継ぎは壊れたものを直してまた使うという控えめな行為。日本人の謙虚なところが出ているなとは思いますし、それをいいなと思っていただければ嬉しいですね。

ここ数十年は金継ぎが注目されていますけど、江戸時代後期から明治時代にかけての時期には“焼継ぎ”といって、鉛ガラスの粉末を割れた部分に塗って焼くと、その鉛ガラスが溶けてくっつくという技法がよく使われていたんですね。でもある時期に、これが途絶えてしまって。理由はちょっと貧乏くさいからじゃないかと思うんです(笑)。ただ、当時は“金継ぎ屋”みたいに“焼継ぎ屋”というのが商売になっていたんですよね。そういう歴史も知ると面白いなと思います。

クリーニングと同じように、特別な器は金継ぎのプロに修理を依頼したい

谷尻:今、洋服を修理する店も減っているんですって。みんな新しいものを買ってしまうので。でも私は直すのが大好きなので、もう十数年通っているお直し屋さんがあって、「そこがなくなったらどうしよう!」と思っているくらいなんです。それと同じで、金継ぎ屋さんがもっと身近なところにあればいいなと感じています。洗濯だって、普段着は自分で洗うけれど、気に入っている服はクリーニングに出してプロに洗ってもらえると安心ですよね。それと同じように、自分で金継ぎする器もありますが、気に入った作家さんの器が欠けたり割れたりしたらプロに修理してほしいなと思います。

 

堀:身近に信頼できる金継ぎ屋さんがいると心強いですよね。いま金継ぎ人口は増えているので、直す人自体は増えていると思います。僕がやっているワークショップ『金継ぎ部』から独立、金繕い師という職人として旗揚げする人もいますよ。時間的に余裕があれば、そういう工房を探してお願いしてみるのも良いと思います。ご自身で修理される場合も、色々な方法を試されてみると金継ぎの奥深さを実感できますし、より「ものを大切にしたい」と感じられるんじゃないでしょうか。

 

――大いに盛り上がった金継ぎ対談。次回、堀さん指導のもと、実際に漆金継ぎを谷尻さんが体験した模様をお届します!

 

 

 

堀道広/漫画家・漆職人

1975年富山県生まれ。国立高岡短期大学(現・富山大学芸術文化学部)漆工芸専攻卒業、石川県立輪島漆芸技術研修所卒業。文化財修復会社を経て、漆屋で職人として働きながら2003年に漫画家デビュー。以降、漆と漫画の両分野で活動を展開。著書に『おうちでできるおおらか金継ぎ』(実業之日本社) 、『うるしと漫画とワタシ -そのホリゾンタルな仕事-』(駒草出版)、『青春うるはし うるし部』(青林工藝舎)など。金継ぎのワークショップ「金継ぎ部」主宰。http://kintsugibu.com/

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