【新連載スタート】料理家・谷尻直子の“ひとてま”の本当の意味とは?
連載第一回目となる今回は、2020年に完成した渋谷区のご自宅を訪問。
谷尻家の最近の一番のトピックは、4月からはじまる息子さんの小学校生活だ。
家の中も、学習スペースやひらがなの練習書きなどプレ小学生ファミリーの空気感に包まれている。家族としても新しいシーズンを迎えるこの春、どんな気分で過ごしているのかを尋ねた。
大家族で育った子ども時代
知る人ぞ知る予約制レストラン「HITOTEMA」を運営し、 食や器を中心としたライフスタイルに関わるお仕事をする直子さん。
週一度のレストランオープン日には、さまざまな場所からお客さんが訪れ、直子さんの丁寧で心温まる料理に癒されている。“現代版のおふくろ料理”をコンセプトに、母のような気持ちで、食べる人の気持ちと身体のために料理をしている。
訪問日、ご自宅の玄関を開けると、笑顔の直子さんが出迎えてくれた。
ささっとレザーのスリッパを出し、「どうぞ。洗面所はこちらお使いください」とご家族のバスルームに案内してくれてから「広島県三次市のはぶ草茶、温まりますよ」と香りいいお茶でさりげなく私たちをもてなしてくれる。おおらかで気負いなく、あったかい人。
元気で人懐っこい6才の息子さんも「お母さんが大好きすぎて!」と、こちらが照れてしまうほどの愛情表現で直子さんにピタリとくっついて、終始にこにこ。
直子さんは長らくファッション業界でスタイリストやPRとしてお仕事したのちに、料理家に転身。レストランを開く前は、毎週のように大勢のお友達を呼んで料理を振る舞い、わいわいと食事をするのが大好きだったという。まるで、みんなのお母さんのような存在なのだろう。
「それは、私が祖父・祖母とともに8人の大家族で育ったことも影響しているかもしれません。4人兄妹の2番目で、体が弱く家にいることが多かったので、いつも台所に入り浸っては母の料理を手伝っていました。家族がおいしいと言って笑顔で食べてくれるのが嬉しかったのです」。
“ひとてま”で楽をする
野菜を育て、塩麹、酵素ジュース、ほか調味料のほとんどを手作りしている直子さん。レストラン経営をしながら、目下は近日発売される著書のチェックに忙しそう。
子育てしながらの毎日はどんなタイムスケジュールになっているのだろう。
「私は仕事が大好きなんです。母でありながら、私の場合は仕事の割合が大きいと思います。朝は7時起き。もっと早く起きてそうと言われるんですけど、そんなことなくて。
朝ごはんは、前の晩にお水につけて置いたイリコを500gに10gぐらい入れて茶こしでこして出汁をとったお味噌汁と、ご飯。息子は卵がけご飯にして朝食をとります。うどん、パン、お餅、時間がないときには玄米フレークにオーガニックレーズンを子どもが自由に入れて、など変化をつけながら簡単に済ませています。
レストランの営業は週に一回で、そのための準備は平日の昼間にすればいいので、そんなに大変ではないんです。保育園への送迎の2割はお父さんにお任せ。
料理は完全に私の担当。食事を“作らねばならない”と思うと大変ですが、自分で作ったものを家族みんなで一緒に食べるのが好きなのだなと最近気づいたので、あまり一生懸命にならないように楽しんでいます。朝のうちにご飯の支度をしてしまえば、とても楽ですよ」。
無理せず、「楽できるところは楽をしよう」という力の抜き加減が、とても上手。たとえば朝仕込んだ今晩のおかずは?
「今日の夕飯はエビと芽キャベツのグラタン。朝、米粉と牛乳を混ぜて白味噌を入れてホワイトソースを作って、エビをバターで炒めて芽キャベツを茹でておけば下ごしらえ完了。あとは、夜食べる前にグラタン皿にチーズと一緒に入れてオーブンに入れさえすれば出来上がりです」
子育ては夫婦で得意分野を役割分担
走り回りながらミニカーで遊び、ずっと動いて活発な息子さん。ちょうどお父さんと男同士のスキー旅から帰ってきたばかりとのこと。普段も、お父さんとはプロジェクターでカーズを観たり、絵を描いたりと父子時間を楽しんでいるようだ。
「子どもの“叱り役”も夫にお願いしています。子育てにはいろんな作業があります。ご飯を食べさせて歯磨きさせて出かける準備をさせて、など。そういう細かい作業の色々はそこまで苦にならないのですが、叱るという作業が一番大変ですよね。じゃあ、この仕事はパパに任せようと思って。そうすると、すごく楽なんです。その場で怒らなければならないような場面があっても、“お父さんに怒ってもらうよ”と子どもに伝えています」
小学校生活への谷尻家的準備とは?
「4月からは息子も小学生。早く学校に馴染んでお友達ができますように、私自身も小学校生活に馴染めますように、と祈るような気持ちでいます。運動面の教育は夫の担当。私は野菜や料理、暮らしのことなど知的な部分は子どもに教えてあげられるけれど、体を使うことはお父さんに、という役割分担です。
直子さんのお話には、いくつもの“楽”が出てくる。大変だなと思ったらほかの方法を見つけたり、手放したり、頼ったりして、楽を見つける。どこか力を抜いてラクすることで、親子の関係も、家族の関係も無理がなく笑顔でいることができるのだろうか。
そういえば、レストラン名「HITOTEMA(ひとてま)」も、「“お料理はひと手間をかけましょう”とお説教めいたメッセージではなく、ひと手間しかかけませんという意志の名前です」と初のレシピ本『HITOTEMAのひとてま」(主婦の友社 刊)の創刊イベントの際に話していた。また、本の中には「私が言う”ひと手間”は、サボれるところはサボる、ということです。例えば、塩麹はつくるのには手間が掛かりますが、つくっておけば日々の料理の味が一発でキマります。私は日々をサボるために、つくっています」とも。
息子さんが盛り上がってふざけ始めた時にも、「お母さんがニコニコ顔でいるのと怖い顔しているの、どっちがいい?」という声がけ。怒るのではなく、子どもにお母さんが怒った顔を想像させる。
「学校に行ったら、まずは友達や先生との関係性を作ることが大切ですよね。それと、1年生になったら、目玉焼き一個でもいいので何かを作れるようになってほしいなと思います。あとは、お友達を連れてきてくれたないいな。毎日10人とか連れてきたら困っちゃいますけどね(笑)」
4月の谷尻家は小学校生活突入。どんな新しいことが待っているのだろう。