日本へ移住した外国人家族から見る、日本での暮らしと子育て|それぞれ違う家族のかたち Vol.4
財布を掏られるよりベビーカーへの愚痴の方がいい
ここ10年は働き方が大きく変化してきた。国内における起業の数やフリーランスの増加、シェアオフィスやフリーデスクシステムなど、仕事そのものから職場での環境レベルまで仕事を巡る状況は多様化している。IT 企業はスキルがあれば転職もしやすく、日本人が海外企業の現地法人で働くことも珍しくなくなった。同様に海外企業が日本でビジネスを展開し、本部から日本に転勤してくる外国人もたくさんいる。
クラーク家は2018年の元日にサンフランシスコから東京にやってきた。元日だったのは税金対策だったそうだが、お店がまったく開いておらず最初にドトールコーヒーでコーヒーを買ったという。日本に来たのは外資系IT企業のマーケティング部門に勤めるマットさんの都合だったが、2歳になる子どもの子育てをする環境としても世界一だと思っての来日だった。
「東京は散歩するとどこでも小さな子どもがいます。どこでも安全で、リラックスして生活することができています。日本語も習って、日本社会のメンバーになりたいと思っています」。
ベビーカーで電車に乗ると嫌がられることや子育てにやさしくない人も多いと度々ニュースになることを話すと、
「ベビーカーの問題は私も聞いています。ただ、サンフランシスコの生活に比べたら比較的楽です。電車のことで言うと、向こうではベビーカーへの愚痴よりも財布を掏られる可能性がある。それを警戒している方がストレスになります。日本人の親は子どもが学校でちゃんと勉強しているか心配するかもしれませんが、アメリカでは学校まで無事に到着できるのかがまず不安でストレスになる。命の危険が少ない日本はかなりストレスフリーです」
男女で役割が逆転したっていい
自分たちが安心して暮らせるのは、アメリカの世界的なIT 企業に勤めていることと自分たちが欧米から来た外国人だからでもあると二人は言う。
「子どもが病気になった時の休暇や社内に子どもを預けられる施設もあるし、自由に仕事に連れていくこともできる。小さな子どものいる社員にとっては非常に働きやすい。日本にいることでのサポートもあって、マットの日本語レッスンはもちろん、私も日本語レッスンを受けることができるんです」
「アメリカのトランプ政権は嫌いでしたが、日本も近隣諸国と民族的な対立や政治的な事情があることは知っています。そうした近隣国から来たのではなく、欧米から来た人間としてはそうした政治的事情からは距離を置くことができています」
企業からのサポートが手厚いとはいえ、初めての日本での暮らしと子育て。エミリーさんは大変ではないのだろうか。
「息子は保育園に行かせているので、自由な時間が意外といっぱいあります。インターナショナルなところで、午前は英語、午後は日本語の勉強をしています。私自身も火曜日と木曜日に日本語のスクールに行っていますが、月、水、金は自由なんです」。
エミリーさんはいわゆる専業主婦ということになるが、男女の仕事や家庭での役割についてマットさんは、
「たまたま伝統的な男女の役割になっていますが、狙ったわけではありません。私がお金を稼いでくる側になったから、妻は自然と子育てする側になった。日本ではビザの関係で妻は仕事ができませんが、仕事をする機会が訪れたら、僕は仕事を減らします。もし妻がとても楽しくて、さらにお金を稼ぐ仕事をしているのだったら、僕は仕事をやめて子育てに専念するかもしれません。仕事しなくてもいい(笑)。今の私の上司も女性で、さらにその上司も女性です。うちの場合は昔ながらの分担になりましたが、流れは偶然です」
100円でも交番に届けるメンタルは気持ちいい
海外で働く日本人は増えたが、日本にはまだ外国人に対する免疫が少ない感じがするとマットさん。
「でも一方でお互いを尊敬し合っているという印象もあります」。
島国の強みと弱みはさまざまなところに見え隠れする。
「安全できれいで電車も時間どおり来る。アメリカで10ドル落としたら、すぐ誰かが拾って持っていくけれど、日本では100円落ちていても交番に届けたりしますよね。とても気持ちいいことです。でもまだダイバーシティの考え方は定着していない気がします。人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れることが少ないかな。差別というアクションは恐怖ということから生まれてくると思うので、受け入れる体制がもっとできてくるといいと思います」
アメリカ企業の日本法人で働いているため日常のコミュニケーションは英語で行い、仕事上での言語的なストレスは少ない。5年を一区切りとして長く日本にいたいと考えているそうで、5 年後はマイルスくんが一番上手に日本語を話しているかもしれない。