お互いにできることをやる。それが普通の世の中になればよい。|それぞれ違う家族のかたち Vol.7
働きたいという欲と年齢の折り合い
妊娠と出産は、女性が男性と同じ状況で働こうと思った時、女性には大きな負担になる。妊娠中の心身の変化と不自由さを乗り越えいざ出産を終えれば、全治8ヶ月の交通事故並みと言われるほどのダメージを伴いホルモンのバランスも崩れがちで、心身ともに不安定な時期もある。会社員が産休、育休取得後、元々のキャリアを継続的に歩んでいくことが理念上謳われていても、現実にはうまくいかないことも多いようだ。そして希望の保育園に入れることも簡単ではない。
長嶋さんは、広告代理店を経て自身のグラフィックデザイン会社を設立。4 人のスタッフとともにさまざまな仕事をしている。会社員時代の働く時間は長く、朝まで働く日も頻繁にあった。本誌の編集長でもある星本さんと結婚したのは長嶋さんが25歳の時。早くに結婚したものの長嶋さんは10年以上、子どもがほしいとも思わずに仕事をやり続けてきた。独立して5年経ち37歳になった頃、年齢を考え婦人科の検査をしたところ、卵子の数が激減しており、子どもを作りたいならば急いだ方が良いと診断されたことをきっかけに、子どもがいる人生に向け舵を切った。今は4ヶ月の子どもを抱えながら、仕事場を育児仕様に変えて仕事をしているという。
結果として今の年齢で産んだことについて、
「彼女の才能に惚れて結婚したので、できるだけ彼女のサポートをしたいと思っていたこともあって、彼女がほしいと思ったタイミングがタイミングだと思っていました。ひとつの会社で15年働いてきたことで、ある程度主導で時間のマネジメントができますし、気心の知れたチームスタッフたちからサポートしてもらいやすい状況になっていたという意味では、この時期でよかったと思っています」
と星本さんは答える。長嶋さんも
「夫の働き方に融通が利くようになったことも含めて、私も今の時期でよかったと思っています。仕事を尊重してくれる夫の存在や、育児を楽しんでくれるスタッフのおかげで仕事ができているけれど、それでも自分が手を動かす時間は産む前の6分の1以下。これが若い頃だったら絶対にこの変化に焦っていたと思う。今の自分だから仕事のあり方を変化させることに何の焦りもなくできている。仕事と育児を両立させるには、働き方の変化だけでなく精神的な変化も伴うだけに、今じゃないと両立は無理だったと思います」
と話す。
お互いにできることをやる。しかも効率よく
星本/長嶋家の役割分担は明解。家事は星本さんが担当し、育児は長嶋さんが行っている。その都度、多少の役割スイッチはあるが、世の父親の家庭内仕事量からすると、星本さんは平均を超える仕事をこなしているように見える。
「日本は働く女性に対してはやさしくない。育児や家事を男性側が積極的にやらないと女性は社会で活躍できないと思うんです。だから、やれる方がやればよいと思う。うちのことで言えば、妻を見ている限り状況的に家事はできないと判断したから僕がやっているだけ。それが普通になっていくといいと思うし、そういうことを周りにも常に言っています」
長嶋さんは自身の会社に4 人のスタッフがいる経営者でもある。自分の名前とキャリアで仕事が来ることの多いグラフィックデザイン事務所にとって、本人不在の時期があるというのは経営的にも、デザイン作業的にも難しさがある。
「経営者は社員と違って育児や出産に関する社会保障制度の多くが対象外なので、それはちょっとしんどいですね。実際に経営者兼デザイナーとして子どもを育てながら仕事を続けている女性がとても少ないのは、両立の難しさを物語っていると思います」。
長嶋さんは、3人の子どもがいる女性をひとり雇っている。子どものお迎えがあるため時短勤務で、子どものことで事情があれば休みを取ってもらう。
「彼女が働きやすい環境を作れなければ、私自身が働きにくい環境でもあるということ。できる限り両立できる仕事場にしたい。ちなみにスタッフの募集をした時、私が子連れで働くことを要項に書いたら、おもしろいことに男性からの応募が1件もありませんでした」
子どもが自分たちの仕事をどう思うか
今回のこの特集は、多様な家族のあり方を多様なまま真摯に表現し、それぞれ異なる家族を既成の枠にはめないことを伝えられたらと考えている。
「キッズファッション誌である『MilK JAPON』が、こうした話題を取り上げるのは、自分が父親になったということがまず大きい。今の時代の中で子育てしているさまざまな家族に登場してもらい、それぞれの家庭にそれぞれの事情と考えがあるということをもっと示したいと思ったんです。いろいろな考えや状況の家族に話を聞くことで、子育てにどんな選択肢や可能性、もしくは課題があるのか。今後、男性側の子育て支援とか、家の中での夫の役割配分とか、メディアが伝えるべきことはまだあるなと思っています」
「息子の未来のことを想うと、自分の仕事でできることを、と思います。デザインは多かれ少なかれ廃棄を伴うだけに、原材料の再利用や廃棄の低減を目論むことは、自分の仕事の特徴になってきています。息子がこの仕事を見たらどう思うだろうって、考えるようになりました」