DATE 2019.04.19

第27回:tupera tupera 中川敦子より
新1年生のワクワクを窮屈な箱の中に押し込めないで。

女性は子どもを産むとみんな「はは」になる。当たり前のことだけど、みんなそれをどう受け入れ、日常を送り、自分の生き方を新たに手にするのでしょうか。この連載では、クリエイターとして活躍する二人の「はは」に手紙をやりとりしていただきます。それぞれの悩みや愚痴、ときに葛藤、あるいは日々の喜びから、あなたや私の「はは」としての生き方のヒントがみつかるかもしれません。2月からは、人気絵本作家である〈tupera tupera〉の中川敦子さんとサルビアを主宰するデザイナーのセキユリヲさんによる往復書簡をお届けします。

中川敦子さんからセキユリヲさんへ。

 

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セキユリヲさま

 

やなせたかし文化賞のお祝いメッセージ、ありがとうございます。先日授賞式があり、家族みんなではじめて高知へ行ってきました。ミュージアムでは、初期のアンパンマンの原画や、これまで手がけてきたさまざまな作品を観ることができ、やなせご夫妻の眠るお墓にご挨拶もさせていただきました。アンパンマンが生まれた故郷の空気を感じ、やなせさんから愛と勇気のエールをいただけたようで、うれしかったです。

 

美味しいものもたくさんありました。高知といえば、カツオや柚子が有名ですが、実は“芋けんぴ”王国なのは、ご存知でしたか?種類もいろいろあって、売り場でも山のように積まれているんですよ。子どもたちは、その様子に大はしゃぎ!2人とも、1人1袋かかえて食べちゃうくらい、もともと芋けんぴが大好きなので、たくさんおみやげに買って帰りました。

 

我が家は、イベントによばれたり展覧会があったりして、全国いろんな場所に行く機会が多いです。とは言っても、親が仕事中は、その会場に一緒にいて、せっかくの観光地でも遊びには行けないし、子どもたちに無理をさせている部分もありますが……それでも、住んでいる場所から離れて、その土地の空気を感じ、そこで暮らしている人たちと交流できることは、いい経験になっているのではないかと、なっていればいいなと、思っています。

 

セキさん夫婦は、家事や子育ての分担で決まっていること、2人で相談して決めたことは、ありますか?

 

私たちは、2人で同じ仕事をしているので、家事も自然にお互い平等にと考えられていますが、子どもの成長に合わせて、その都度、バランスを変えてきました。今回の高知のように、みんなで行くこともありますが、イベントの依頼も増え、全てをみんなで行くことは難しくなったので、今は、ほとんど亀山が外での仕事を担当しています。私はその間、家で子どもたちの事をしながら、制作を進めたり。普段はずっと一緒にいるので、そうして離れて仕事をするのも、ちょっとした息抜きになったりします(笑)。

 

夫婦、それぞれ別の仕事をして、帰りも遅くなってしまうような人の話を聞くと本当に大変だなあと思うので、自分たちは恵まれた環境だと思うけれど、忙しくなってくるとやっぱり心に余裕がなくなって、自分が朝起きてバタバタ動いている間、相手がゆったりしているのを見ると苛立ったりすることも。お互い様なんですけど。

 

さて、前回のお手紙にセキさんが書いていた「理想の学校」の話ですが、私のまわりでも、新しい挑戦をしている学校の話や、今の学校教育をどう変えていけばいいか?みたいな話題が、よく聞こえてきます。娘さんの話、アイスクリームやさんになりたいって、いいね!今は個性的なコーヒーやさんやパンやさんが流行っているけれど、アイスクリームやさんも、今後その流れがきそう。いや、その流れを作るのは娘さんかも!まず目的がある、そのために学ぶ、という順番は、理にかなっていますよね。何のために勉強をしているのか?わからないまま、次から次に覚えることが増えてくるから、つらくなってしまうんじゃないかな。

 

お風呂にはいりながら、どんな学校が理想なんだろう?とぼんやり考えていて、4月から1年生になる息子にも質問してみたんです。

 

「はーちん(と呼んでます)は、学校ってどんなところだと思う?何が楽しみ?」って。そしたら、しばらく考えた後、目をキラキラ輝かせて「うーんとねえ。べんきょうが、たのしかったらいいなあ~。はーちん、べんきょうやってみて、とくいだったら、ねえねのしゅくだいもぜんぶやってあげるもんね!」と言ったんです。それを聞いて、私は、ハッとしました。小学校がはじまる前の子どもたちにとっては、勉強に対する先入観がないんだな、と。多くの人がもっている、勉強=嫌なもの、めんどくさいもの、というマイナスイメージを持っていない。どんなものなんだろう?自分もやってみたいなあ!って、ワクワクしている。

 

まず、勉強ってなんなのか?なぜ勉強するのか?最初の1年間はとくに、じっくりゆっくり、みんなで考えながらやっていけたらいいと思います。ワクワクキラキラしている子どもたちに「ちゃんと座って!」とか「決まりを守って!」とか、鉛筆の正しいもち方とかノートの書き方とか……つまらないことばっかりで窮屈な箱に押し込めないでほしいと思ってしまいました。

 

アイスクリームやさんになりたい!と思ったら、習いにいける。学校に毎日通うだけじゃなくて、いろんな世界で、真剣に楽しんで仕事している大人を見せる(見に行く)学校はいいなあと思います。子どもたちの視野もグーンと広がって、目指したいものがみつかれば、そこに向かって学びたいと自然に思えるんじゃないかな。

 

でも、(いろいろ思うことはありますが)現在の学校に、批判的な気持ちばかりでもないです。今の娘のクラスの子どもたちも、話を聞いていると、とっても明るくて無邪気。担任の先生の誕生日には、黒板にいっぱいのカエルを貼るというサプライズをしたそうです。その先生はカエルが大嫌いだったんですって!前の日に、いたずら好きの男の子たちが図鑑のカエルを大量にコピーして切って貼っておいたそうです。本物のカエルをつかまえて、ではないところが今っぽいけれど、そんな古典的な先生の驚かせ方、今の子もやるんだなあとうれしくなっちゃいました。

 

小学校、息子は最初の1年、娘は最後の1年、精一杯楽しんでもらいたいなあと願っています。

 

京都の春は、今年はゆっくり。まだ桜もちらほらという感じです。入学式の頃には満開になっているかなあ。いつか、お花見にいらしてくださいね。

 

tupera tupera 中川敦子

往復書簡27 画像

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次回更新は5/3(金)の予定です。salvia デザイナーのセキユリヲさんからのお返事です。

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