【CATALUNYA/From YAYOI】スペインの田舎暮らしから。YAYOIのカタルーニャ日記Vol.3
9月に入りましたね。大自然に囲まれた私の住む小さな村も、少しずつ秋の訪れの気配が感じられる様になってきました。コーンと林檎の収穫が終わり、農地へ行く道の土手には野生の無花果(イチジク)、アーモンド、ざくろが実をつけ始めています。
先日、息子とイチジクを袋いっぱいに収穫し、ジャムを3瓶も作りました。材料費は砂糖のみ。これぞ田舎暮らしの恩恵ですね。3歳の息子はイチジクを採るのが楽しいみたいなので、今季もう一度一緒にイチジク狩りに行く予定です。沢山採れたイチジクをどう保存するか。それが今の課題です。贅沢な悩みですね。
さて、ぐっと涼しくなった今、夕食前に村の外の農地を家族で散歩するのが我が家の日課です。息子の大好きな農作業中のトラクターを眺めたり、石の下のミミズを探したり、子供と一緒の田舎道のお散歩はいつも新しい発見があり、楽しいです。たまにラッキーだと羊飼いと沢山の羊達に出会える事もあります!
ここに住む羊飼達は朝夕と一日2回、ルートを変え、数百頭の羊を連れてこの辺りの農地や森林などを歩きます。沈みかける太陽の黄色い光を背に受け、数百頭の羊の群れを連れてカタルーニャの農地を歩く羊飼いの姿は、昔のヨーロッパの絵画をみている様に幻想的で、思わずため息がでてしまいます。数百年以上昔から、今も変わらず羊飼いが羊の群れを連れてここを歩いていたのかと思うと、やっぱり感動してしまいますね。
羊飼いがいない日本。皆さんの最初の羊飼いとの出会いはどこですか?
私は子供の時に読んだ絵本の中でしょうか。イソップ物語の『羊飼いの少年と狼』。狼がいると何度も嘘をついた少年が、最後に本当に狼が来た時に誰にも信じてもらえなかったというお話。羊が登場する有名な本には聖書もありますね。映画の中では牧師さんが「迷える仔羊達よ……」という台詞をよく口にします。
私は20代の初めに読んだブラジル人作家パウロ・コエーリョの小説『アルケミスト』という本が好きなのですが、この本の中に登場する羊飼いの少年は世界中を旅し、色んな出会いを経て、人生の叡智を学んでいきます。もう何年も読んでいないので、詳しい内容を覚えてはいないのですが、羊飼いの少年が主人公であったこと。自分も主人公のサンチャゴと共に旅に出た気持ちになり、心を動かされた事をよく覚えています。本物の羊飼いを知った今、そしてこの年齢でもう一度読み返してみたい本の一冊です。
そんな感じで私と羊飼い達との出会いは物語。しかも教訓や教えを含んだものであったり、羊がスピリチュアル的なものの象徴として扱われていたりしたせいか、羊飼いに対して少し勝手にロマンティックなイメージを持っています。
隣り村では60代のシルベスターという羊飼いのおじさんが今も現役で頑張っています。シルベスターは毎回出会うたびに、赤黒く日焼けした顔をニコニコさせ、ハッピーオーラ全開なので、私も息子も彼の姿を見かけると嬉しくていつも後を追いかけていきたくなります。
彼は自分の飼っている500頭あまりの羊のほぼ全てを見分けられるだけでなく、村に住む人たちの車のナンバープレートのナンバーもほぼ全て記憶しているのだそうです。物凄い記憶力ですね。そして何故かセルフィー好きで私が携帯を持っていると、いつも一緒に写真を撮りたがり、彼の決めのポーズ、親指を立てた ”GOOD!”をこうやるんだよと息子に会う度に教えてくれます。親指立てた ”GOOD!”彼と一緒にポーズをとるだけでなぜか元気が出て来るのが不思議です。
500頭もの沢山の生き物のお世話は、毎日の食事を兼ねた散歩だけではなく、羊達の出産、怪我、病気なども含まれています。雨が降る日も嵐が来る日もあるでしょう。その中で10代で羊飼いになった彼が今までにとったお休みの日はたった2日のみ。結婚した日と、二人いるうちの最初の子供が産まれた日だけだそうです。40年以上もの間にとった休日がたった2日だけとは何ともブラックな仕事の様な気がします。が、彼は笑いながら大きく両手を広げて大地を指差し、こんな大自然を毎日歩けるこの仕事自体が、自分にとってホリデーの様なものだから、特に休暇はいらないのだと言いました。彼はこの仕事が大好きでこの毎日がホリデーなのだそうです。奥様もそこは最大限に理解されている様で、まさに天職なのでしょうね。
羊飼いのシルベスターは、私の子供時代から持っていた羊飼いに対する幻想を壊さず、我が家の3歳の息子にも少なからず影響を与えている様です。
息子の夢は大きくなったら羊飼いになる事なのだそうです。