DATE 2021.09.02

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ジェンダー、ダイバーシティをミュージカルで体験。『イクトゥス』が目指した新しい学びの形

アーティスト山本高之さんと子供たちが一緒にミュージカル制作に挑戦する、森美術館とプリコグ共催のプロジェクト『イクトゥス』。Fasuでは今回、集大成として行われた映像収録の舞台裏に潜入。子供たちはこのプログラムを通して何を学んだのか。その模様をリポートする。

演劇・音楽・芸術のプロがサポート。子供が主役のミュージカルワークショップ

世界各地の現代アートを、より広く、深く、共に学ぶためのラーニングプログラムを展開している、森美術館。その中に、キッズ&ファミリー向けのプログラムがあることをご存じだろうか。家族に向けて美術館を開放する「ファミリーアワー」や、未就学児〜小・中学生を対象にしたさまざまなワークショップを展開し、芸術の新たな学びのフィールドを開放している。

 

今年の6〜8月には、森美術館で現在開催中の展覧会「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」の関連プログラムとして、アーティストの山本高之さんが子供たちと一緒にミュージカルを作るプログラム『Meet the Artists 山本高之「イクトゥス」』を実施。パフォーミングアーツを中心としたイベント制作会社であるプリコグと共催で、演劇・音楽・アートのプロの手を借りながら、制作から映像収録を含む全8回のワークショップが行われた。

今回のミュージカルのテーマは、「魚の性の多様性」。

「人間ではなく、魚の性?」と驚いた人もいるかもしれないが、実は魚には、成長過程や環境に合わせて性を変化させたり、一日の中で何度も性を変える種類がいるという。ダイバーシティの重要性が国際的に叫ばれる現代において「LGBTQ+」への理解は不可欠だが、演劇をプラットフォームに、魚の生態を通して性の多様性を考えるという学びのアプローチは実に斬新だ。

 

参加したのは6〜10歳の14人の子供たち。初回は、山本さん、音楽を担当するミュージシャンの額田大志さん、あっこゴリラさん、テニスコーツさん、そして子供たちが一緒に、魚の研究者から生態について学ぶオンラインワークショップを実施。魚についての知識を深めた上で、その後子供たちが主体となり、シナリオや楽曲制作、衣装・小道具作り、演技、歌唱練習に挑戦していった。

 

収録の様子はYouTubeで全世界にLIVE配信

約2ヶ月に渡る制作ワークショップを経て迎えた、本番当日。参加者は公演の5時間前に会場入りし、2回のリハーサルを行った。最初は緊張気味だった子供も、通し稽古や歌唱練習を重ねる中で、徐々に舞台の雰囲気に慣れ笑顔が溢れるように。

 

そして本番で着用する衣装や小道具はもちろん、これまでのワークショップで制作したものだ。森美術館やプリコグのスタッフ、芸大生、保護者がサポートしながら子供たちが自分の手で工作したものだけに、大人が着替えを手伝う間も“自分たちの作品”にどこか誇らしげな様子が見られた。

そして、いよいよミュージカル収録がスタート。今回はコロナもあり観客は入れず、全世界に向けyoutubeのLIVE配信という形で届けられた。

 

オープニングは、人間が水中に沈んでいくシーンから始まる。額田さんが手がけた曲が流れ、人間の元に魚たちがやって来る。オスが卵を産むタツノオトシゴ、20歳でオスがメスになるクマノミ、オスを必要としないアマゾンモーリー……。子供たちはさまざまな魚を演じながら、生態の特徴を観客に伝えていく。

人間が海の中に慣れ始めたころ流れたのは、あっこゴリラさんの楽曲『おさかな NA-NA-NA』だ。子供たちは軽快なラップを歌いながら、観客へ「普通ってなーに?」と問いける。その後もオスがメスの体に吸収されるチョウチンアンコウなど、多彩な魚たちが次々に登場しながら、エンディングはテニスコーツ作の穏やかなリズムが心地よいナンバー『すいスイSui!』で締めくくられた。

ミュージカル制作で子供たちが学んだこと

リハーサルでは緊張からか小さかった声も、本番では大きな声と動きで堂々と演じ切った子供たち。終演後には、山本さんやミュージシャン、保護者から「お疲れさま」「本番が一番上手だった!」と声をかけられ、嬉しさと安堵の表情がにじみ出ていた。

終演後に、参加ミュージシャンの一人、ラッパーのあっこゴリラさんと
終演後に、参加ミュージシャンの一人、ラッパーのあっこゴリラさんと

 

表現することの難しさ、面白さ。そして魚の多様な性のあり方を学ぶことを目的としたこのワークショップ。実際に子供たちはこの体験から、何を感じ取ったのか?そして親たちは、どんな想いで見守ったのだろうか。

公演後に3組の親子にお話を伺った。

 

ハルトさん(小4)&お母さん

VOICE 1

「最初は簡単だった振り付けや歌がどんどん難しくなっていって、ワークショップの途中少し不安でした。でも本番は上手にできたと思います。山本先生のワークショップに参加したのは4回目。面白い人なので大好きです。ミュージカルの中でチョウチンアンコウのオスはメスに吸収されてしまうけれど、オスの気持ちはどこに行くんだろう?と不思議に思いました」(ハルトさん)

 

「子育てをする中で『お父さんだから』『お母さんだから』と役割を感じることがあったのですが、このワークショップで私自身も魚の性の多様性を学んで、そんな固定観念はいらないのかなと思いました。息子が参加メンバーで最年長だったので、リーダー的な存在で引っ張って欲しいと思っていましたが、本番ではとても頑張ってくれました。最後には少しジーンときて、感動しましたね」(ハルトさんのお母さん)

ナナハさん(年長)&お母さん

VOICE 2

「緊張したけど、歌も踊りもとっても楽しかった。踊りは家でたくさん練習しました。一番好きな魚は、お腹の中で赤ちゃんを育てるハイランドカープ。赤ちゃんが“栄養リボン”を持っていると聞いて、リボンが好きなので選びました。みんなで歌った曲は全部素敵なので、配信でたくさん聴いて欲しいな」(ナナハさん)

 

「夫があっこゴリラさんのファンで、このワークショップに参加しました。世の中には多様なジェンダーがありますし、今回の経験から性別にとらわれず個性を大事にして『ありのままの自分でいいんだ』と感じられる子になってもらいたいです。普段はおとなしいタイプの娘が、年上のお姉さんたちにリードしてもらい堂々と歌って演じていた姿に、成長を感じて嬉しかったです」(ナナハさんのお母さん)

ヒカリさん(小1)&お母さん

VOICE 3

「工作が大好きなので、小道具を作るのが一番楽しかったです!お魚の性が変わるのは面白いなと思ったけど、友達の性が突然変わっちゃったら、ちょっと怖いかも。でも自分は性別を変えてみたい。もし男の子に変われたら、弟の気持ちがもっと分かるようになるかな?そうしたらケンカせずに楽しく遊べるかも」(ヒカリさん)

 

この学びを活かして、将来身近な人の性が変わった時も、娘が違和感なく受け入れられたらいいなと思います。ワークショップを見守る中で『ファインディング・ニモ』でも有名なクマノミも性が変わることを知り、驚きました。『自分が知っているような魚でも性が変わるんだ』と小さい頃から知っていたら、人間に置き換えた時も受け入れやすいかもしれないですね。私自身も勉強になったプログラムでした」(ヒカリさんのお母さん)

【山本高之さんinterview】男女の違いが分かり始める前の子供たちに、多様性について考えてもらいたい

小学校の教諭経験を持ち、これまで子ども向けのワークショップを数多く実施してきたアーティストの山本高之さん。『イクトゥス』のプログラムで子供たちに伝えたいメッセージとはなんだったのか。その想いを最後に語ってくれた。

———なぜ今回、「魚の性の多様性」に着目したのでしょうか。

 

以前釣りをしていて、性別が変わる魚がいることを知りました。後で詳しく調べたらなかなか興味深くて、いつかそれをテーマにしたいと考えていました。今回のプロジェクトを進めるにあたって、最初に魚の研究者の先生方にお話をしていただきました。その中で子供たちは、世界の不思議と我々の日常の境界で探究されている先生方の、研究に対する熱量や愛にも触れながら、魚の性について学びました。その後、子供たちはそこで得た知識を元に、演技や歌、踊りを通して魚の世界を自分ごととして追体験する。こうした経験が、彼らがいつか性のあり方について考える時のヒントを得るきっかけになったら嬉しいです。

  

———ミュージカルを制作する中で、子供ならではの自由な発想に驚いたことはありましたか?

 

「子供ならではの自由な発想」ってよく耳にする言葉ですが、僕自身、幼少期を振り返っても、自分に子供らしい自由でクリエイティブな発想力って無かった気がするんです。子供って割とみんな“普通”なんじゃないかな。子供に才能があるか、クリエイティブな発想があるか、みたいなことを大人は気にしがちですが、それよりも、気持ち良さそうに踊っている、楽しく工作をしている、できなかったことができるようになった、といった彼らがありのままに存在していることを祝福できるような現場を心がけていました。子供たちの生命に本来的に宿っている美しさみたいなものが本番の映像に体現されていたら、作品としては成功だと思います。

 

———「イクトゥス」のプログラムを通して、性の多様性について子どもたちにどんな気づきを与えたいと考えていましたか?

 

将来自分が当事者になったり、周りの人が当事者だった時に、このミュージカルの情報が事前にインストールされていることで「それもあるよね」「知ってるよ」と思えたら良いなと思います。今回の参加者は6歳から10歳まででしたが、この年齢はまだ男女で体型にもあまり差がないですし、性の違いを感じ取る前の子供たちです。ひょっとしたら、まだサンタクロースを信じている子もいるかもしれない。この、情報がフラットな時期に多様性について学ぶのは良い経験になると思います。地球には色々な生き物がいて、色々な人間がいる。それが社会を作っていることが伝わっていれば良いですね。

 

『Meet the Artists 山本高之「イクトゥス」』映像作品配信

THEATRE for ALLMAMデジタルにて、以下の期間より今回のパフォーマンス映像とドキュメンタリー映像の配信が決定!こちらもお見逃しなく。

 

公開時期:パフォーマンス映像・ドキュメンタリー映像 10月下旬公開予定

 

問い合わせ先:森美術館株式会社プリコグ

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