東京・渋谷ヒカリエ8Fにあるd47 MUSEUMで、6月11日まで開催されていた〈47こども道具展〉。6月7日(水)には、フランス〈MilK〉編集長のイジス・コロンブ・コンブレアスが来日し、〈D&DEPARTMENT〉代表のナガオカケンメイさんとトークセッションを開催。モデレーターにブックディレクターの山口博之さんを迎え、D&DEPARTMENTが選び抜いた「子どもたちのための道具」に囲まれた会場の隣で、それぞれの国の文化や子ども環境、ものづくりを巡るトークを繰り広げました。
〈47こども道具展〉を巡って
山口:〈47こども道具展〉ですが、D&DEPARTMENTが、“子ども”にフォーカスした展示をするのは初めてだそうですね。ナガオカさんはこの展示を開催する上でどんなメッセージを込めているのでしょう?
ナガオカ:今回の展示では“子ども”というテーマを与える事で、見る人が今の日本の状況や、地方の魅力を再確認してほしいと思っています。果たして日本は子どものデザインに対して、どのくらいの関心度があるのか。この展示を通して色々と見えてくるものがあるのではないかと思います。
山口:イジスさんはご覧になっていかがでしたか?
イジス:とても楽しかったですし、興味深かったです。日本には何度か訪れていますが、滞在時間も限られていますし、なかなか全地域を回る事はできません。今回こうやって各地方独特の個性が感じられる子どもの道具を一気に見る事ができたのはとても嬉しいですね。
都心と地方の関係性
山口:日本各地の地域文化やその魅力を発信し続けているナガオカさんですが、都心(=東京)と地方の関係はどのように考えていますか?
ナガオカ:時代の流れとともに若い人が地元に帰って、その土地の魅力を自分たちなりに発信していたり、クリエイティブな動きをする人達も増えてきているように思います。最近は特に地方の魅力や、ローカルな所からの発信が注目されてきていますよね。東京ももちろん重要だけど、地方も重要。これからのマスメディアを考えてみても、ローカルは切り離せない存在になっていると思いますね。
山口:なるほど。一方フランスでは、都心というとパリを想像しますが、地方の魅力やものづくりなどにフォーカスするといった考えはあるのでしょうか?
イジス:フランスは日本とは違って、それぞれの地域で特徴的なものをプレゼンできる状況ではないと思います。ものづくりや食文化に関しても、高級メゾンやワイン、ガストロミなどが目立っていて、しかもその多くがパリを拠点にしています。
最近になってようやく陶器などは、フランスの地方で作られたものをパリのお店にセレクトし始めていますが、まだ浸透はしていません。私としても地方のものづくりには注目していて、これからのフランスの流行になるのではないかと思っています。
ナガオカ:地方がそれほど注目されていないとは意外ですね。今回の〈47こども道具展〉もそうですが、僕らが地方のものづくりを取り上げる場合、徹底的に情報リサーチをします。フランスの地方も頑張ってリサーチをすれば、いいものが出てきそうな気配はありますか?
イジス:フランスはそういう考え自体があまりないのかもしれません。フランスはヨーロッパの範囲で考える傾向が強いんです。ドイツやスペインなど、他の国々にも素敵なブランドはたくさんありますし、ヨーロッパ内ならわりと簡単に調達できてしまう。「フランスの中で必ず見つけないと!」という意識自体が低い気はします。でもナガオカさんがフランスに来てくだされば出てくるかもしれないですね!
ナガオカ:日本だけで勘弁してください(笑)。 今回の展示では47都道府県の子どもの道具を集めるにあたり、その土地のものづくりや工芸の視点で商品を選び出しました。フランスで同じような展示をしようと思うと、どのような視点で商品を掘りおこしたらいいと思いますか?
イジス:フランスにも工芸はあるのですが、地方という考えがあまりないので、例えば、その時代ごとのものづくりなど、時間軸の流れで見ていくのがいいのではと思います。
日本とフランスにおける “ 子ども ” という存在
山口:次はMilKの話を伺えればと思います。フランスにキッズファッションというカルチャーがなかったところから、MilKという雑誌が誕生したことによって、キッズ市場にムーブメントが起こりましたよね。フランスの少子化問題の解決にも繋がったとか。
イジス:雑誌を創刊した当時(2003年)のフランスには、子どもに対してシックで素敵なアイテムは全然ありませんでした。私はMilKを始めるにあたり、2つのことをやろうと決めました。1つ目は、子どものファッションを大人の世界のように素敵なビジュアルで発信すること。2つ目は、自分と同じ30代くらいの親たちに、新しい子どものカルチャーを伝えていくことです。雑誌には、ファッション以外にも子育てをする上でためになる情報など、子どもたちとの生活をよりよくする全てのことを詰め込んでいます。
それを続けてきたことで、かつては子育てに対してのイメージが「大変、厳しい、自分を置き去り」というネガティブなものだったのが、MilKが提案する「楽しい、美しい、可能性が広がる」という考えに変わってきたのだと思います。
ムーブメントが起こってからは、若手デザイナーや有名ブランドがキッズ市場に参入し、パリにどんどんお店ができていきました。その影響も受けて、フランスでは子どもを産みたいという人が増えていったと言われています。
山口: MilKの紙面を見てみるといい意味で子どもらしくないですよね。子どもを見る目は、地域や時代によって変化してきました。子どもを小さな大人として扱っていた時代もあれば、無垢でイノセントな存在と捉える文化もある。雑誌MilKを作る上で、子どもという存在や、大人と子どもの関係性をどのように考えているのでしょう?
イジス:第一にMilKの雑誌自体は、大人に読んでもらうことを意としています。そして、大人たちは子どもと “ 一緒 ” にいろいろな経験をして、豊かな人生を歩んでいってほしいと思っています。親の行動が子どもに与える影響は大きいし、過保護になりすぎたりだとか、規制をしすぎるのは良くない。教育やしつけも大事ですが、子どもを常に観察して、一緒の時間を過ごして、いつも自分に対して質問する。子どもと一緒に親も成長していく立場なのです。
山口:ナガオカさんはどうですか?
ナガオカ:僕はこの展示を開催するにあたり、子どもをどのような存在として見たらいいのか考えました。47個の展示台で構成されているのですが、展示台の脚を切って子どもの目線に合わせるべきなのかと悩みました。でも、そうするには相当なお金と手間がかかるし、元に戻すのにも大変。その時、MilKという雑誌はどのような視点で編集されているか気になったんです。そして結果的には、大人の視点のままにしました。これから展示を続けていく上で、子どもがどう感じるのかを考えることは今後の課題として感じましたね。
キッズファッション、ロングライフデザインを取り巻く消費循環
山口:フランスのキッズ市場にムーブメントを起こしたということは、新しい消費の文化を作ったという事にもなるかと思います。そこで気になるのが、キッズファッションにおける循環です。子どもの成長は早いので、単純に服を買っても着られる期間は短い。着られなくなった服は兄弟に下ろしたり、誰かにあげたりするくらいしか思い浮かばないのですが、その辺りはどう思われますか?
イジス:フランスでは昔から蚤の市が盛んに行われていたり、古いものをとっておいて循環するという文化があります。MilKとしては、子ども服に限らず、1つのものを長く使い続けていくことは大事だと考えています。しかし、それと同じくらい未来に向けてリノベーティングしていくことも重要。MilKというメディアの役割として、若い人の斬新な才能にも目を向けますし、積極的に支援していくべきだと考えます。この2つのバランスをうまくとることが必要なのです。
山口:ナガオカさんも消費という点では地域のものづくりを発信して新しい消費の文化を作ったように思います。〈D&DEPARTMENT〉のテーマに『ロングライフデザイン』『リサイクル』があるかと思いますが、どのように今後展開していくべきなのでしょう?
ナガオカ:そうですね。商品を選定する上で『ロングライフデザイン』というのは基準にしています。安心であり、くり返し使えるかどうかは重要なポイントです。そして、その観点を貫いて発信を続けていくと、同じような発想の商品がどんどん出てくる。今はまだまだそのマーケットを刺激し続けるべきだと思っています。そして、マーケットがもっと成熟すると、地方に戻って自分の幸せのために生活をおくる若い人たちが、未来の子ども達のために商品を開発したり、そういった発想が増えていくのではないかと思います。
山口:では最後に、お二人が考える子どもの未来に繋がる良いデザインに関して、ご意見を伺えればと思います。
ナガオカ:今日本では、若い人を中心に地方に戻って、自分の暮らし+子育てという“スタイル”になっていると思います。そのスタイルは、今後もっと本質的なものになっていくでしょう。僕は引き続き、日本の工芸やものづくり、子どもたちの未来の道具に多くの人が関心を持ってほしいと思います。
イジス:私が考える良いデザインとは、子どもに微笑みかけるように、スマイルを与えてくれるものであること。何代にも受け継いで、家の中に残っていくものであること。そして、未来の子どもたちに伝えられる美しいものであることです。
互いの国で、新しいカルチャーをつくったともいえるお二人の貴重なトークセッション。ナガオカさんと山口さんの問いかけに、素直な言葉で自然体に語るイジスのチャーミングな人柄に、会場全体は終始なごやかな雰囲気に包まれていました。
「子どもたちを笑顔にする」。ファッションや道具に限らず、その想いが詰まった結晶は、未来への可能性の光に溢れています。