DATE 2017.04.04

子どもたちが「未来」を叫ぶ。 N・S・ハルシャのワークショップに潜入。

注目の現代美術家、N・S・ハルシャが子どもたちとともに制作した作品「未来」。その作品に込められた思いとは。

現在、東京・六本木にある〈森美術館〉で展覧会「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」開催中のN・S・ハルシャ。ここ数年、世界中の国際展にも多数参加している注目のインド出身の現代美術家のこれまでの仕事を網羅した世界初の大規模個展となる本展では、成長と変化を続ける世界の動向、そのなかでさまざまに生きる人々の様子を、ハルシャ独自の手法で表現している。

「ここに演説をしに来て」(部分)2008年

その展示作品の一つ「未来」は、展覧会がスタートする前に東京で制作された新作だ。子どもたちに対し、「自分の未来の夢を、大人用のワイシャツに描く」というコンセプトのもと、ワークショップを通して子どもたちと一緒に制作していくものだ。

「未来」2007/2017年 展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館 2017年  撮影:椎木静寧 写真提供:森美術館

〈森美術館〉で展覧会を開催するにあたり、東京都の港区立の御田小学校(5、6年生)と南山小学校(1、2年生)の生徒約150人が、このワークショップに参加した。

「未来という言葉から、あなたたちは何を想像しますか? 将来なりたい職業? それとも小学校を卒業したらやりたいこと? それとも明日のこと?」

「将来のことなんてわからない? そういった不確かなことも、未来のひとつではないですか?」

小学校を訪れたハルシャは、冒頭に短いコメントを発するだけ、あとは思うままに描いてくれと、子どもたちに委ねるだけだ。

将来の夢を作文に書くということはあったとしても、大人用のワイシャツにペイントしていくというのは、子どもたちにとっても初体験。まったく筆が動かない子もいる。戸惑う参加者に対し、ハルシャは話しかけては、彼らの脳裏に浮かぶイメージを丁寧に聞きだしていく。

このときハルシャは決して絵の描き方や配色のアドバイスなど、美術的な講義は一切行わない。ひたすら彼らの話に耳を傾け、ときおり感動したりしながら、微笑み、うなずくだけだ。

「大人たちの誰しもが、子どもの未来は、幸せで明るいものになってほしいと思っています。しかし、小さな子どもたちにだって、それぞれの思いや価値観が存在する。このワークショップをやっていると、年齢や人生経験に関わらずとも、それぞれの人のなかに世界が存在していて、それが交錯しながら実際の世界が成立していることが分かります」

2時間ほどをかけて完成した「未来」の作品群。展覧会が始まる直前の1月30日には、ワークショップに参加した子どもたちが集結。自らの作品を実際に着て、「未来!」と叫びながら、六本木ヒルズ内を大行進した。

ハルシャの作品「未来」は、既成概念にしばられず生きる子どもたちの思いをそのまま引きだし、社会に向けて発信する活動とも呼べるかもしれない。

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