映画『劇場版 ごん – GON, THE LITTLE FOX -』。ストップモーション・アニメで鮮やかに描く、児童文学の金字塔
教科書で読んだ話で、とても印象に残っている作品といえば『ごんぎつね』。動物と人間のすれ違いを描いたせつないエンディングが、幼心に印象に残っています。その『ごんぎつね』が、ストップモーション・アニメになって映画化されました。
実写でもアニメーションでもない、人形を動かしながら1コマずつ撮影するストップモーション・アニメ。その繊細な仕事から紡ぎ出される、きつねのごんと兵十の新たな物語。教科書から想像したビジュアルをはるかに超える美しさで、動物と人間の悲しい運命を描き、心を打つ素晴らしいショート・フィルムに仕上がっています。
最も注目すべき点は、日本の里山を再現した自然描写の美しさ。 丁寧に、そして彩り豊かに描かれる、豊かな自然や植物、花々が“本物”以上の存在感をもたらしています。2人のやり取りに登場するヒガンバナも、とてもかわいらしく表現されています。一面に広がる彼岸花のシーンは、幻想的で圧巻です。
セットの中には本物の植物が使われ、さらには普通ストップモーション・アニメでは使われない水を使った演出が行われています。兵十が川でうなぎを獲るシーンでは、水面に空を写しながら水しぶきがキラキラと反射し、躍動感のある自然を表現しています。
今回アニメーションで使われた人形も、一風変わっています。顔が木彫りで、アンニュイで味わいのある表情を生み出しています。「木彫りだと、表情が変わらないんじゃないの?」と思うかもしれませんが、木そのものが持つ時を経た味わいが、年を重ねた人間と重なり、人そのものの魅力や個性を引き出し、同時にちょっとした光や角度の違いにより多様な表情を創り出すことに成功しています。
また、ごんをはじめとする生き物や昆虫、植物がとてもリアルに表現されているのも楽しめるポイント。カエルやモズ、サギ、トンボにマツムシにキリギリス。実際よりも愛らしさを増したビジュアルがたまらないかわいさで、何より動きや飛び方がリアルで驚きます。
主人公のごんは、2つの視点で描かれ、小ぎつねのごんから見た視点では二足歩行のきつねに、人間から見た世界では四足歩行のきつねになります。2種類のごんが登場することで、人間と動物の壁、すれ違うことで起こる悲劇を印象的にしています。
日本の自然美を贅沢に味わいながら見直す、新たな解釈の『ごんぎつね』。大人はもちろん子どもにも鮮烈な印象を残すはずです。多様性が求められつつも様々な“分断”が世界中で起こっている今、きつねのごんと兵十の物語は、新たな意味を持って、私たちに問いかけてくるはずです。