映画『2分の1の魔法』。魔法を手放した社会が、現代の家族のあり方を映し出す
ピクサーと言えば、『トイ・ストーリー』シリーズや『モンスターズ・ユニバーシティ』『ファインディング・ドリー』など、さまざまな架空世界をイマジネーション溢れるアニメーションで描き、子どもから大人まで世界中のファンを魅了してきた。
近年では、メキシコを舞台に死者の世界を描いた『リメンバー・ミー』や女性の社会復帰を軸にした『インクレディブル・ファミリー』、人間の4つ感情をモチーフにした『インサイド・ヘッド』など、社会問題や多様性、多文化をテーマにした作品も印象深い。
そんなピクサーからこの夏登場する新作は、『2分の1の魔法』。魔法と家族という王道的な感動ファンタジーでありつつも、現代における家族のあり方や、変化に柔軟な新しい時代の社会を描いた、豊かなメッセージが込められた作品に仕上がっている。
舞台はかつて魔法に溢れていたが、忘れ去られてしまった世界。主人公の気弱な少年イアンは、亡き父に会うことを夢見ている。イアンの16歳の誕生日に、イアンに亡き父からプレゼントがあった。中身は、魔法使いの杖、死者を1日だけ蘇らせる“呪文”、呪文の補助アイテムである“不死鳥の石”だった。父を蘇らせようと呪文を唱えると、父親の下半身半分が現れたところで石が粉砕。下半身だけの父親が蘇ってしまう。そこで父親の全身を蘇らせるため、2人は“不死鳥の石”を探す大冒険へと旅立つのだった。
家族のあり方は、時代とともに変化してきた。三世帯家族から核家族、さらには母子・父子家庭、祖父母と暮らす人や養子縁組でつながった親子もおり、現代はより多様化が進んでいる。さまざまな事情から父母の役目を他の誰かが担っている家庭も多く、イアン家族も亡き父の役目を、母や兄のバーリーが果たしてきた。これまでずっと父に想いを募らせてきたイアンだったが冒険の旅を通して、求めてきた父親以上に、母や兄の存在が人生の中でどれほど大きいものだったか、気づかされていく。
ピクサーはこれまでも、多彩な家族像と家族愛を描いてきた。『ファインディング・ニモ』では母を亡くしたニモは父に育てられ、『リメンバー・ミー』では靴屋を営む三世帯家族が登場し、『カールじいさんの空飛ぶ家』では子供のいない老夫婦が主人公だ。
『2分の1の魔法』では、イアンとバーリーの兄弟仲はそれほど良いとは言えない。魔法オタクで好奇心旺盛、周りからは“空気が読めない変なヤツ”と思われているバーリーを、イアンは少し煙たく感じている。一方のイアンは、優しく内気な性格だが自分に自信がない。しかしそんな対照的な2人が、困難を乗り越え、互いに不可欠なバディへと成長していく。弱いところを互いに補い合うことで兄弟の絆が明確になり、家族のつながりをより強固なものにしている。
兄弟は、親よりも長く人生を共にするだろう。親が先に亡くなっても残るのは兄弟であり、家族の中でも年齢が最も近く、ライバルのようでいて友達以上のような存在でもある。いざという時に頼り頼られる、生涯のバディでもあるのだ。
さらに注目したいのが、新しいものを取り入れる柔軟な社会だ。ファンタジー映画に魔法は欠かせないが、本作の舞台ではあっさり魔法を手放している。夢の道具として憧れられた魔法が衰退し、それ以上に最新技術が受け入れられた世の中が描かれている。良き伝統は残しつつも、新しい有効なものを取り入れて行く柔軟さは、時代に取り残されずに生き抜くためにも必要な選択能力だろう。伝統だけに縛られていては前に進めない。
と、真面目な分析になってしまったが、最高に楽しい冒険ファンタジーであることを約束したい。下半身だけでうろうろする父親の姿や魔法で小人になってしまうバーリーなど、思い返しただけでクスクス笑ってしまうシーンにはじまり、「なんでそこ?」「後ろ後ろ!」みたいな、ツッコミどころも満載のユーモラス要素もたくさん有る。楽しい家族旅行に同乗させてもらっているような幸せな気分になれるはずだ。