DATE 2020.10.14

これからの本の楽しみ方を、福音館書店『母の友』編集長と考える【後編】

新しい時代を迎えた2020年、今必要な読み物とは何かを考えます。「福音館書店」の育児雑誌『母の友』編集長の伊藤 康さんにお話を伺う後編では、読み聞かせから自分で読む本へ。10代の子どもたちのための児童書の選び方について伺います。
福音館書店のロングセラーのひとつ「エルマーのぼうけん」。

親子で「お話」の世界が広がる、今こそ読んでほしい絵本を紹介していただいた前編に続き、こちらの後半では自分で本が読めるようになった10代の子どもたちへ向けて、おすすめの本について話を訊きます。

 

「10代には、まず本を読むことが、プレッシャーにならないようにしてあげることが大事かなと思います。たとえば、大人が音楽をおすすめされる時に、『なんかこれ、頭が良くなるらしいから聴いてみて』と言われるのと『これ、めっちゃ感動したから聴いてみて』と言われるのでは、感じるものが違うと思います。後者のほうが興味をそそられるのではないでしょうか。絵本も児童書も基本は同じで、まず心に響くかどうかが大事。で、どんなものが心に響くかは、その子次第ですよね。その子が面白いと思うものを手にとりやすい環境を作ってあげることが、まず、最初にできることかなと思います」

福音館書店『母の友』編集長の伊藤 康さん。

『母の友』2019年11月号に掲載した『魔女の宅急便』の作者である角野栄子さんのインタビュー。その時の言葉が記憶に残っていると、伊藤さん。

 

角野さん「(前略)思春期になったとき、10〜12歳は人間にとって狭間の年齢ですよね。大人と子どもの境目にいて、どう扱えばいいのかがわからないエネルギーをいっぱい溜め込んでいる。そのエネルギーを発散させる術をその年代の子どもたちはまだ知らないでしょう。そんなとき、本を選んで、自分で得た言葉は、きっと力になってくれると思う」(『母の友』2019年11月号より)

 

と。さらに、

 

角野さん「でも、『本を読みなさい』と強制することは嫌い。人間、命令されるとやりたくなくなるじゃない? 本は自由に読むものですもの。私にできることは何かと言えば、その子たちに心の底から『おもしろい!』と思ってもらえる物語を書くことだけ。そのためには、私自身が本気でおもしろいと思うことを体当たりで書くしかない。」(同上より)

伊藤さんが携わった絵本「どっとこどうぶつえん」と「へろへろおじさん」。

「だから、やっぱりまず、その子にとって興味を持てる面白い本ってなんだろうって一緒になって探してみてはいかがでしょうか。本は面白い。まず、そう思ってもらえれば、そこから子どもたちの世界はぐっと広がると思います。自分と同じ思いを抱えている人がいるとか、すごい空想の世界があるのだとか。そんな知らない世界が本の中にあることを、知っていると知っていないでは、違いがあると思うんです。読んだ後には、無理に感想を言ったり、反芻しなくたっていい。読書で得たものって、心のどこかに残るものなので。先のインタビューで角野さんも『本は忘れるために読むものだ』とおっしゃってます。忘れても、自分の血肉となり、自分だけの辞書が心の中で作られていくのだと。僕もそれを信じたいです」

 

また、電子書籍やタブレット・スマホの普及など本の読み方も変わってきています。スマホネイティブな世代だからこその選択肢の広さは読書の妨げにはならないでしょうか?

 

「『母の友』で連載を持ち、ご自身も難病当事者で研究者の大野更紗さんと東京大学で人間支援工学分野を研究される近藤武夫先生のお話を聞いたことがあります。タブレットがあれば手が不自由な子どもたちでも、ページをめくり、自由に本を読むことができる。だから、テクノロジーの進化は、ただ子どもたちに悪影響を及ぼすだけのものではないのだ、と。選択肢が増えることは悪いことではないのだろうと思います。便利なものは、便利に使えばいい。これからの本の楽しみはまた別のところにあるのかもしれません」

「紙の本といえば、絵本作家の五味太郎さんが、本の楽しみは”たたずまい”からとおっしゃっています。表紙や見返し、背表紙を見るところから楽しさが始まっている、と。五味さんは本棚に並べた時に目立つようにと、それまで福音館の絵本の背は白色ばかりだったそうなのですが、絵本『きんぎょはにげた』で、緑に変えたんですって。子どもたちが、自分で、本棚から見つけやすいように。たとえば、オンライン会議と実際に会って話をするのを比べてみても、やはり実際に会う方が格段と情報量が多いですよね。着ている洋服の感じとか、身長とか、あ、靴がステキだな、とか会うとわかります(笑)。紙の本はそういう、その本を知るための情報がより多く詰まっているものなのかもしれない。でも、『そんな情報は会議をするだけなら必要ないよ』ということもあるかもしれない。本によってはデジタルで読んだってもちろんいいと思います。誰でも、いつでも読める便利さも大事です。ただ、インターネットもゲームもある今ですが、特に生まれてまだ数年の子どもは、たぶん、昔の子どもとさして変わってないんじゃないでしょうか。この世界のいろいろな情報をまだ手にしていない。これからこの世の中のことを知っていく彼らにとってみれば、実際に手にして、めくりながら話す、めくりながら読む、紙の本というジャンルはやはり大切で、こういう時代にこそ、特別な輝きを持つのかもしれないと思っています」

 

「福音館書店」の数ある児童書から読み継ぎたい定番ファンタジーから人気作家による最新の1冊まで10代に向けておすすめの作品を選んでいただきました。

『エルマーのぼうけん』

作/ルース・スタイルス・ガネット 訳/渡辺茂男 絵/ルース・クリスマン・ガネット(福音館書店) 本体1,200円+税

 

少年エルマーがりゅうの子どもを助けに冒険の旅へ出ることからはじまる人気シリーズ。全3部作の物語です。「第1作の日本での初版発行は1963年。当初から変わらない渡辺茂男さんの訳も含め、まったく色褪せない、まさに時代を超える物語なので、ぜひ親子で一緒に読んでみてほしいです」

『極夜の探検』

文/角幡唯介 絵/山村浩二(福音館書店) 本体700円+税

 

極夜とは、冬の北極で一日中太陽が昇らない現象のこと。そんな真っ暗な夜の荒野へ旅立った冒険家の物語。「小学生向け月刊絵本『たくさんのふしぎ』の一冊です。まず真っ暗な表紙にこれは何だろうと驚かされます。ノンフィクション作家、角幡唯介さんのヒリヒリとした文章に肉薄する山村浩二さんの挿絵が強烈で、印象的です」

『アリになった数学者』

文/森田真生 絵/脇阪克二(福音館書店) 本体1300円+税

 

「在野で研究活動を行う独立研究者の森田真生さんが“数学者”がアリになったらどうなるか、を語ります。新しい発想の数の世界に興味をそそられる一冊。挿絵は60年代マリメッコでテキスタイルデザイナーとして活躍し、現在はSOUSOUを手がけるの脇阪克二さんです」

『岸辺のヤービ』

作/梨木香歩 画/小沢さかえ(福音館書店) 本体1600円+税

 

2015年に発売された物語です。「『西の魔女が死んだ』の梨木香歩さんが覚悟を持って挑んだ子どもの本で、2010年代の作品ですが古典的な佇まいがあり、時代を超えて読み継がれるだろうという力を感じる作品です。装丁を手がけたのは名久井直子さんです」

『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』

著/斉藤 倫 画/高野文子(福音館書店) 本体1200円+税

 

「ある大人の男性と男の子の会話で進む物語。カップ麺を食べたり、枝豆を茹たりしながら、詩の話をします。20編の詩を通し、詩とは、言葉とはなにか考えます。読むうちに、この2人の関係が気になりだし、いつしか2人の会話に引き込まれながら、言葉の持つ力に唸る、ユニークな一冊です」

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