DATE 2020.11.13

菊池亜希子が考える、あたらしい時代のHOMEとは?

女優、モデル、インタビュアー、エッセイスト、編集者、そしてデザイナー。すこぶる多才にして、そのただずまいは実に柔らかでいて温かい。Fasuジェネレーションを生きる女性そして二児の母でもある菊池亜希子さんに訊く、あたらしい時代の家族そしてHOMEについて。

「モデルを始めて17年。東京で暮らし始めて14年。ワカメと出会って10年。マッシュを作り始めて5年。結婚してもうすぐ1年。-略- いろんな街へ行き、いろんなひとと会って、いろんなモノに触れて。ぐるりめぐって帰ってくる場所。私が守りたい《HOME》ってなんだろう。」(2016年小学館『マッシュ』VOL.10より)

かつて自身が編集長を務めていたムックで、家族そしてHOMEついてこう綴っていた菊池さん。著書で、そしてインスタグラムで自身の家族について日々愛を表現する彼女は、2020年春、コロナ禍を迎えつつあった東京で第二子となる長男を出産し新たな家族を迎えた。あたらしい時代に入った今、彼女の考えるHOMEそして家族はどう変わったのだろうか。

誕生そして別れ。家族がギュッと濃くなった2020年の春について

第二子が生まれたのは3月。出産の時には、夫はギリギリ立ち会えたのですが、病院には上の子どもが入れない時期でした。長女はもうすぐ3歳。ここ最近で急に喋りだしたんですが、ちょうど出産で入院したころは、自分の気持ちをうまく言葉にすることができず、癇癪を起こしたりと大変な時期でした。入院中に夫から送られてくる動画には、『ただいま! ママどこ? ママどこ?』と保育園から帰ってきた様子が映っていて切ない気持ちに。出産自体より、上の子が心配でした。産後も子どもが病院に来てくれるものの、病室には入れないから、ガラス越しにロミオとジュリエットみたいに会っていました。

 

そう、まさに“出産を家族で乗り越えた”という感じ。今回の出産で上の子が成長したのを感じました。産後一ヶ月はちょうど外に出られない時期だったので、家に引きこもっていましたが、時節的に両親に手伝ってもらうこともできなかったので、家族で駆け抜けた感じでしたね。エッセイ(『へそまがり』)にも書いたんですけど、ちょうどずっと飼っていた愛犬のワカメが死んでしまって。相棒のような存在だったので本当にしんどかったです。忘れられないですね2020年は。

 

今回の自粛時は、夫がすごく料理が上手くなったのも印象的でした。「パタゴニア」の本格的なエプロンを買ってきて台所に立ってくれるようになったんです。私が産後骨盤がグラグラになって歩けない時期があり、彼に料理してもらわないと我が家は食べていけないみたいになっちゃったので、余計にでしょうか。彼自身も音楽を聴きながらキッチンに篭ってやる時間がちょっとしたストレスの発散にもなっていたようです。

 

夫とは日々いろんな話をしています。嬉しかったこと、落ち込んだこと。日々どんなことを感じたかを夫婦で共有しています。私自身が悩んだり、切羽詰まったりすると夫が、「とりあえずこっち来なよ」って寝室に呼んでくれるんです。そこにはベッドの上にゴロゴロ寝ている子どもたちがいるんですけど、二人をまとめてぎゅーってしたら、もう悩みは一旦解決! みたいな。家族ってそういうのがありがたいです。

これからの家族の楽しみについて

私はずっと建築の勉強をしていたので、“家を建てたい”。という気持ちはかねてからあります。それは果たして、実際に建てるのか、リノベーションかわからないですけど、“自分のホームであったり巣作りをしたい”ということは、自粛期間に特に思いました。ただ夫が全く建築とか、インテリアとかに興味がないというか、守備範囲じゃないというか。私が腰をあげないと家のことはスタートしなさそうですね(笑)。

 

子育てについては、人の気持ちや痛みがわかることを大切にして欲しいという話をしています。でもそれって自分が子どもの頃に両親に教えられたことでもあり、夫の両親が彼に言ってきたことなんだなって。趣味が全然違うんです、夫と私。共通の趣味も映画と喫茶店くらい。私はアイドルが好きで、夫は競馬が好き。親が好きなものを子どもにも同じように好きになってほしいとは思わないんですけど、好きなものがたくさんあったりだとか、愛情が深いこととかって、その人の人生の強い味方になってくれるって気がします。好きなことを語っている人ってそれだけですごくキラキラしていますよね。子どもたちがこれから何を好きになっていくのか楽しみです。

子どもと大人のための洋服のプロジェクト「jicca(ジッカ)」について

子供服を作りたいなあって思い始めたのは、上の子が生まれた時ですかね。とはいえ、具体的になかなか進まなくて。タイミングよく、友人である「MOI」のデザイナーの岡田奈美さんが「一緒にやろう!」と言ってくれて、話が一気に進みました。その折に彼女の妊娠がわかり、さらにその数ヶ月後に私も妊娠がわかってとても縁を感じました。お互いに出産が終わり、最近本格的に動きだした感じです。

 

2020年の冬からデビューとなるブランド名の「jicca(ジッカ)」の由来は「実家」からです。実家が好きなんです。実家と名前をつけたからには、素朴で、「え?なにこれ?」みたいな感じにしたくて。例えば喫茶店に置いてあるクッションを見たときに「あ、実家っぽい?」って感じることがありますよね。あんな感じの「え?なにこれ?」です。今の時代の流行とは全く関係なく、そこに住んでいるお母さんが愛してそこに置いているんだろうな……。みたいな、愛が詰まったものを作りたいなというのが、コンセプトかもしれないです。時代が経って、自分の服が古着やおさがりになったときに、「実家のあそこの押し入れの中で遊んでいたな」っていう記憶と一緒にその服も記憶に残っていたらいいですね。

イラストにも定評がある菊池さんが手がけたニットのイメージスケッチ。迷いのない線が印象的。

自然で無理ない範囲で、物を大切にできたらなっていう基本的なことは考えていています。サスティナブルっていう言葉って簡単に使えるけれど、徹底してやろうとするとすごく難しいですよね。ただ、物を生み出す側に立った時は責任があるのかなとは思っています。簡単に破棄されないようなものを作るということは意識しているかもしれません。私は自分で洋服を買うときにあまりシーズンとかっていう意識はないんです。モデルの仕事を始めた頃からクローゼットを定期的に見直しているんですけど、やっぱり好きなものって一貫して変わらない。洋服って大事に着ればおばあちゃんになっても楽しめるものだと思います。洋服だけに限らず、建物とか、家とかもそうだと思うんですけど、経年変化して良さが増すものを選んでいくということが、サスティナブルにつながるのかなとも思います。時間経過に耐えうる質実剛健的な佇まいのものに惹かれますね。

驚くほどに緻密なスケッチ。こだわり抜いたバナナニットは、この日、菊池さんも着用。サイズといい、凹凸感といい、実にリアルなバナナ(ニット)に仕上がった。

ベストを尽くしてとことん突き詰める。日々のものづくりについて

洋服づくりでは、今回は私が描いたスケッチを元に、彼女と相談して形にしていったんですけど、その時々で彼女がデザインすることもあるだろうし、特に役割は決めていません。お互いの得意な部分を出し合って形にしていけたらなあと思っています。私が一人でやると偏るんですよ、好みが。同じ素材を選んでも相手は違う色を選んだりするのが、面白いなと思っていて。そういう違うところを歩んできた二人が一緒にやっていく面白さだなと思ってやっています。私は東京、彼女は大阪なので、今はオンラインで話し合ったり、生地やサンプルを送ってもらったりしながら進めています。この間は、大阪まで打ち合わせに行きました。刺繍屋さんとか、今日着ているバナナのニットを編んでくれる工場の方にお会いして話したり。刺繍屋さんにも、「こんなに時間をかけたのは今年いちだよ」って言われる始末。ベストを探りたいっていう性格なので。今まで自分で雑誌とか作っていた時もそうなのですが、やっぱり時間がかかりますね。物づくりオタクだなって自分で思っているんですけど、やり始めると、突き詰めてしまうタイプなので。大変さよりも、楽しいが勝っちゃう。だけど、そうやって進められるのは、わがままなこだわりにとことん付き合ってくれる方々がいるからなんだと、肝に銘じています。

こちらがスケッチからの完成形のバナナニット。パンツはニットに似合いそうと合わせて考えたもの。
麻とベロアのコントラストが美しいキッズ用ドレス。「jicca」のアイテムについては、インスタグラムからチェック。

本当は産後ゆっくりしようかなって思っていたんですけど、動き始めたら止まれないみたいな感じです。「子ども……寝た、よし!」みたいな下の子が寝たタイミングでリビングに正座して、上の子が塗り絵とかで使っている子ども用の机の上にスケッチブックを広げてやっています。今一番欲しいのは体力……でしょうか。でも自分が好きでやりたいと思って始めていることだから。雑誌もそうなんですが、形になって上がってくると自分の中でアイデアがもくもく膨らむ。イメージが形になるってすごく楽しいし気持ちがいいです。今また雑誌を作りたいなと思っていて。誰にも実家はあるじゃないですか。その人の実家=HOMEについて作りたい。とりあえずZINEで、やってみようかな。

おわりに。菊池亜希子が考える家族って?

一人の38歳の女性として一番嘘のない、フラットな自分で居られる自分のゼロ地点でしょうか。家にいて子どもが笑っている顔を見ていると、もう笑うしかない。日々色々ありますが、ガス抜きになってくれる健やかな精神状態に戻れる場所ですね。自分が帰る場所があるからこそ、こうやって好きなことをやって自由に羽ばたけるのだな、と思います。

LATEST POST 最新記事

THE NEW CLASSIC  <br>〈ポロ ラルフ ローレン〉が演出するアクティブな品性
〈モンクレール アンファン〉MilKエディターのとっておき
岩田ファミリーが思い描いた、親と子と孫3世代をつなぐ暮らし|HOUSE STORIES Vol.10
宝探しのような買い物体験を。染谷真太郎が手がける新機軸のショップ「ミドリコーヒ」が南青山に登場