DATE 2021.09.03

「恐竜博士になりたい」と子どもに言われたらどうする?【恐竜くんインタビュー後編】

10代で単身カナダへ渡り、恐竜を始めとする古生物の研究の道を歩んできた恐竜くんこと、田中真士さん。環境や人にも恵まれた場所を移り、日本へ戻ってきたのはなぜか?恐竜を通して、恐竜くんが目指すこととは?

恐竜をきっかけに世界を広げてほしい

前編はこちら

恐竜くんが手がける『Dino Science恐竜科学博』の記事はこちら

 

 

ーー「恐竜で食べていけるのか」という問いは、日本でアカデミックの方向に進もうとした時に周囲から言われがちなものかもしれないですね。

 

「研究者の道を目指す大半の人の最初のハードルが、親や先生など周りの大人だったりします。もちろん、最終的に自分の力で生きていける、食べていけるということはとても重要ですが、大切なのは、自らの興味や意欲をきっかけにして、子どもが『広い世界を見る力をつける』ということ。恐竜をきっかけとして、新しいことに興味を持って、いろいろな人に会って、いろんな話を聞いて、いろんな本を読んで、いろんな場所に出かけて、とにかく世界を広げてほしい。
恐竜に興味を持ったからといって、必ず学者を目指さなければいけないわけではないですし、もしかしたら、恐竜がきっかけで全く違う道を開拓していくかもしれません。また、自らの決断で自身の興味をどんどん追い続けることで、人として生きていく力そのものをつけられるかもしれません。そんな風に考え、サポートできる大人が増えてほしいと思っています。
僕自身も大学に残って研究の道を突き進む選択肢もありましたが、それは自分には合ってない、もっと違うことに使命というかやりたいと思うことがあって今、日本でこういう活動をしています」

 

ーー恐竜をきっかけに、世界を広げるという視点ですね。探求的な学びの姿勢というか。

 

「ただただ「恐竜って面白い」という話をしたいとか、恐竜好きを増やしたいというわけではないんです。むしろあまりにも恐竜恐竜って視野狭窄になっている子がいると、いや恐竜以外にも世界は面白いもので溢れているよって言いたくなってしまう。積極的に恐竜以外にも浮気させたくなると言う、ある意味すごく不純な「恐竜くん」かもしれません(笑)」

 

――ご自身は子どものとき、恐竜以外で好きだったことはありますか?

 

「僕は今も、好きなものの範囲が広くて。例えば子どもの頃僕はピアノが大好きで、狂ったように1日中弾いていた時期もありました。絵も大好きで、ちっちゃいときからしょっちゅう描いていましたね。恐竜好きになってからは恐竜ばっかり描いていました。あと俳句とか短歌とか、ことわざとか四字熟語とか古文や漢文とか、そういうのがものすごく好きでした。作文も好きで、それは今、文章を書いたり人に伝える仕事をする時に、相当役に立ってると思っています。言葉が好きなんです。

それで言うと、もうお気づきだと思いますが、僕はものすごくおしゃべりなんです(笑)。そのおかげで、カナダへ行ってからも比較的短期間で英語を習得できたのかもしれません」

 

――海外の経験で影響を受けたことは?

 

「僕が仲の良い研究所の人たち、午後2時半ぐらいに「今日仕事上がるわ」って帰っちゃったりするんですよ。例えば「今日子供迎えに行くから2時に帰るよ」って言っても、周りも「あの人、先に帰った」とか「なんで自分だけ残業してんだ」みたいなこと絶対に言わない。研究所に残っている人たちも、午後3時くらいから皆ビール片手に仕事していたり(笑)。化石を掘り出す作業なんてミリ単位の細かいことをやっているのに、意外なくらいのんびりとしているんです。でも、もちろん仕事そのものはあくまでプロフェッショナルとして、きっちり手抜かりなくやり遂げる。
仕事が大変だとしても、やっぱりどこかで楽しんでいるし、自分が責任負いたくないから余計なことはやりたくない、みたいな態度の人も誰もいません。
もし仮に2つ選択肢があって、「こっちの方が面倒だけど面白い」というような場合には、たとえそれがどんなに大変でも絶対に面白い方、意義のある方を選ぶんです。そういう価値観や姿勢は影響を受けたし、とても好きでしたね」

 

17歳の時、カナダの友人たちと。
17歳の時、カナダの友人たちと。

――それでも日本に拠点を移したんですね。

 

「日本から一緒にカナダとかアメリカ行った人からは「恐竜くんはこっちにいる方が生き生きしてますね」って言われるし、恐らく性に合うんですよ。気が合う人も多いし、仕事のスタンスとかプロフェッショナルの姿勢、文化に対しての理解とか、色々な面で波長は絶対合うんです。

でも、自分にとって心地がいい場所ではなく、日本での活動を選んだっていうのは、今の日本の子どもたちを取り巻く状況に対する危機感からです。自分自身が、ずっと好きなことを追いかけてこられて、今も幸せだと言える人生を歩んでいるからこそ、子どもたちの未来を明るくできるようなことをしたいと強く思ったんです」

こちらも17歳の時。
こちらも17歳の時。

――日本の教育や子どもを取り巻く状況に疑問を持ったと。

 

「人間と人間以外の生物の違いは何かという問いに対しての答えは、さまざまな観点からいくつもありますが、僕が一番思っているのは、後世に何が残せるかと言う点です。人間以外の生物は、基本的に遺伝子でしか後世にものを残せなくて、子孫を残せばよし、残せなければそこで途絶える。対して人間は何が決定的に違うかというと、遺伝子以外の伝達手段を作り出したことです。言葉、アート、文化、技術、科学、そして歴史、それらから学ぶことができる。これが、人間が人間である最大の理由だと思っています。
僕たちは、アインシュタインとかダーウィンとかアルキメデスなどのかつての天才の上に立って生きています。つまり理屈で言うと、10年前に生まれた人より今生まれた人間はもっと高い技術や知識や、そして過ちを含めた歴史を学ぶことができるところに生まれる。そして明日生まれる人、1年後生まれる人は、自分たちより必ず先に行くべき人たちであり、子ども達は、僕らの頭の上を軽々飛び越えていくべき人たちなんです。教育とはそういうものだと僕は思っています。
けれど、日本は大人が子どもをコントロールするという風潮が強くて、子どもはいつも大人より弱くて発言権のない、支配すべき存在として扱われている気がしてならないんです。なんでも言うとおりにできる子が良い子だし、周りに迷惑をかけないことばかりを執拗に求める。一方で、子どもを軽んじているから、子ども向けのコンテンツは露骨な“子ども騙し”がすごく多い。
恐竜の分野も、残念ながらその傾向は少なからずあります」

本当のターゲットは子どもじゃない

大人になってから改めて楽しむようになったというレゴ。
大人になってから改めて楽しむようになったというレゴ。

――そうした課題を恐竜を通して改善していきたいと。

 

「そうですね。恐竜に興味を持った子たちに”子ども騙し”で低レベルなものしか見せられず、2、3年もしたら飽きてしまうのが当たり前っていうのは、やっぱりそれは送り手側が手を抜いているからだと思うんです。そして、大人が手を抜いたら、程度の差はあれ、子供は絶対それを見抜きます。
だから、自分が子どもに接している時も、イベントを企画する時も常に真剣勝負で、絶対に手を抜かずに、大人も本気で楽しめるものを作りたいと思っています。そうでないと、『子供騙し』な適当なコンテンツに親子で来た時に、親が退屈になって、スマホをいじってしまう。そうしたら、子どもはそれが気になってしょうがないはずなんですよ、本当は。でも、「お父さんお母さんがせっかく時間作って連れて来てくれたから」って、楽しんでいるふりをする。でも実際には、子どもは騙されてなんかいないから、2、3年で飽きてしまうんです。

子どもに『一緒に来た親も楽しんでくれている。自分はこれを好きでいて良いんだ、楽しんでいいんだ』と安心してもらえるようにしないとならないと思って、そこを大切にしています」

――本質的なターゲットは大人なんですね。

 

「そうですね。彼らの心に何か変化を起こさなければ、本質的な意味で子どもたちには伝わらないんじゃないかと思います。大人が真剣に楽しんだり驚いたりしていたら、子どもも真剣になりますから。

ただ、今は映画『ジュラシック・パーク』をリアルタイムで経験した世代が親になっていることもあって、親子一緒に楽しもうという人たちがすごく増えています。それはとても良い傾向ですよね」

 

 

――なるほど。『ジュラシック・パーク』は恐竜くんも観られましたか?

 

「もちろん! 余談ですが、ジュラシックパークの影響ってすごくて、研究者もあの作品を子どもの頃に見た世代が突出して多いんですよ(笑)」

 

――おお。『ジュラシック・パーク世代』が研究者の中に存在するわけですね。恐竜映画の製作というのも学者以外のアプローチではありますね。

 

「いろんなものに興味を持って自分がほんとうにこれが好き、これは誰にも負けないくらい好きだし追いかけたいというものがあれば、そこからさらに世界が広がっていきます。もし、そうやっていろいろなものに興味を持ちながら、ぐるっと回って最終的にもう一回恐竜に戻ってくるとしたら、たぶん恐竜しか追いかけてこなかった人なんかよりはるかにいい教養が得られるはずです。

 

恐竜に夢中で、一生懸命勉強したいし追いかけたいと思うのは素晴らしいことだけど、「絶対に何があっても恐竜の道しかない」というような凝り固まった考え方は、本人も周りもしないで欲しいです。押し付けすぎずに、でも適切にサポートできるあり方を探るという意味で、一緒に楽しむというのはとても良いことだと思います」

――最後に、本気で「恐竜博士になりたい」と思っている子どもにアドバイスをお願いします。

 

「本気で「恐竜の道に進みたい」という子には、せっかく恐竜に興味持ったのであれば絶対に一度は海外に行くことをお勧めしたいです。
僕がカナダで本当に良い教育を受けられたと実感しているのもありますが、恐竜の化石がたくさんあって、きちんと学問を応援してくれる国に行ってほしいと心の底から思うんです。今恐竜ならばアメリカ・カナダ・モンゴル・中国が産出地としてはトップ。研究としては、アメリカ・カナダがリードしていて、イギリスやドイツもハイレベルという状況なので、恐竜に興味があって真剣に学びたいと思っているなら、ぜひ一度は国境を超えてみてほしいです。せっかく恐竜は、時間も国境も超える壮大な分野なんだから!と(笑)」

 

『DinoScience 恐竜科学博』

 

LATEST POST 最新記事

第3回 : 教育の多様性とテクノロジー
第2回:コンヴィヴィアルな家族のあり方
第1回:多様な生き方、暮らし方
トレンドのくすみカラーが満載。軽さも魅力の村瀬鞄行「ボルカグレイッシュ」【2023年入学ラン活NEWS】