屋上菜園、野菜の新コレクション計画進行中!【谷尻直子連載VOL.2】
目。今回は昨年スタートした屋上菜園の植え替えに密着。幼い頃のご自身のコンプレックスから食への関心、食育への野菜づくりを通して発見したこととは?
屋上菜園は種の植え替えシーズン!
野菜づくりを新たな趣味として始める人が、世界的に増えているという。
自宅の庭やベランダで野菜やハーブを育てることは、コロナ下におけるNEW NORMALな暮らしを象徴する流れになってきているようだ。
レストラン「HITOTEMA」の屋上でも、自然派野菜づくりが昨年スタートした。
代々木上原のレストラン屋上から見えるのは住宅、線路を走る電車、そして遠くに臨むは新宿の高層ビル群。屋上の中央に設置された大きな木製プランターには野菜の花や葉がぐんぐん伸びている。
この日は、秋冬野菜から春夏野菜へと植え替えをする日。HITOTEMAの菜園のスタートから協力してくれているSOLSOから、古代種野菜の種や土を持って、植え替えの作業に訪れていた。
かつてベジタリアンだった時期もあって、野菜はとても身近な存在だという直子さんだが、実は野菜づくりは初めての経験。親子で土を触って、苗を間引きしたり、収穫したりすることで心が癒されるという。
「土いじりはアーシングだと言われています。アーシングというのは裸足や素手で地面・大地に直接触れることで体に溜まった有害物質や電磁波を放出することなのですが、実際、素足や素手が土に触れるだけでも、その癒し効果は素晴らしいし一気に疲れが飛ぶんですよ」。
体が弱かった幼少期の悔しい気持ちが食への扉を開いた
自分たちで育てた野菜を息子さんも美味しいと言っているそうだ。もともと野菜大好きな息子さんだが、それは直子さんの普段のお買い物と料理によるところが大きい。
「私の買い物のコンセプトは、“八百屋さんに売っている野菜を片っ端から全部食べたことがある子になって欲しい”というもの。例えばブロッコリーを好む子どもは多いので、つい買ってしまいがちですが、少しお値段が高くても時にはカリフラワーを選んだりします。種類をたくさん食べさせて、食べたことのない野菜がないようにしたいと思いながらお買い物しています」。
食に関わるお仕事をするきっかけは、幼い頃のコンプレックスだったと直子さんは追想する。
「子どもの頃、私は体が人より小さくとても痩せていて、それを指摘されてからかわれることが苦痛で、やりたいと思ったことは体が弱いことで叶わず、それは幼少期の自己嫌悪と消極的な性格を作り上げていました。だからこそ、息子には強くなって欲しいと思っているのです。それから体に興味を持ち、大きくなりたい、そして強くなりたいと心から望んで生活する中で、食というものに出会って、料理することを覚えました。そのことが、今の仕事の大きな根っこになっています」。
体が弱かった子供時代の経験から、子育ての中心にあるのは食。
息子さんの健やかな成長のために、という気持ちが料理の中にも表れている。
「子どもの頃の私はいつも病院通いで、食が細いのであまり食べられず、食べるとすぐに戻してしまうような子でした。姉や妹も、今だにその頃の私の記憶が強いようで、会うたびに“あんなに体が弱かったのにねぇ”“今は人の3倍くらい元気に動くよね”と、話しています。そして今、母という立場になり、体が弱かった子供時代の悔しい気持ちが思い出されます。だからこそ、息子には強くなって欲しい、と思っているのです。明日のこの子の笑顔を守れるように、という気持ちを込めていつも料理をしています」。
野菜づくりはとてもシンプルで、食と一緒
野菜づくりをやろうと決心したのは昨年の6月あたり。しかし料理についてはある程度知っていても「土とタネ」について何も知らないことに気がついたという。そこでさまざまな本やDVDを見て勉強し、さらに8月から2月は月に一回、栃木に農業の勉強に通っていたそうだ。
「栃木で自然栽培をされている農家さんに教えてもらいました(https://www.vegimo.info)。
勉強してみて分かったことは、野菜づくりは食で私が大切にしてきたこととそっくりだったということ。精米した後の米ぬかや、可食部以外の果物や野菜の皮やヘタを使って土を発酵させるとミミズが好むふかふかな土になり、その土から栄養素をたくさん吸うことによって免疫力の高い、病気になりにくい野菜ができるのです。人間が酵素を取り入れて腸を元気にすることで体の調子が整うのと同じ。食べ物と体の関係と一緒なんだなと感じました」。
現在の菜園は、パセリが収穫真っ盛り。人参は間引きの時期で、そら豆はこれから実をつけるところ。あとは秋冬野菜から春夏野菜に植え替えとなる。
「野菜には土づくりがとても大切。まずはいい土で病気に強い体を最初に作ってあげると無農薬でも強く育っていける。けれど体が弱いといろいろな薬がないと生きながらえない。それは人間と一緒だなと思います。“食べもの”というのは全て“いきもの”なんだということを、子どもにも知って欲しいという想いもあって、野菜を育てています」。
野菜づくりの初心者にオススメなのは?
「カブです。ベランダの小さなコンテナでもたくさん採れるのでいいですよ。人参、大根、カブなど土の下で育つ秋冬野菜は初心者にはやさしいんです。鳥に食べられてしまうので、地上に実のなる野菜は少し難易度が高いと思います。夏にオススメなのは、鳥にも狙われにくいニンニクということなので、私もパセリの区画には、相性のいいニンニクを育てる予定ですよ」。と秋冬から春夏への植え替え計画のスケッチを見せてくれた。
人参の後はピーマンへ、ブロッコリーの後はチャービル、カブの後は枝豆……どれも秋冬野菜から春夏野菜へ、土の栄養素の相乗効果を考えてプランされている。
野菜の次に育てたいもの
菜園に蜂が来たことが何より嬉しいという直子さん。
「農薬を使うと蜂はやって来ません。無農薬で安全な食べものがあるところだけに蜂が来てくれるんですよ」。そして次に挑戦したいのは、なんと養蜂だという。
レストランの屋上で養蜂、といえばオーガニック料理の母と呼ばれる料理家&食育研究家のアリス・ウォータースが思い浮かぶがそれを伝えると「素晴らしい活動をされている方で、影響を受けています」と話す。「私のスタイルで、小さな規模で、都会でやってみたかったんです」
都会の屋上で、春夏野菜の成長を楽しみに、旬の料理を息子さんと家族の健やかな体づくりのために、自分のため、お客さんのために考える日々。これから清々しい初夏を迎える。