DATE 2020.07.23

『アート・オブ・デザイン』から、この世界はあらゆることが「デザイン」で形作られていることを知る。

ティーン世代にこそ観て欲しいNetflixコンテンツを映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さんがレコメンドする新連載。第2回目は様々な分野で時代を切り開いてきたデザイナーたちの仕事、そしてその人物像に迫った『アート・オブ・デザイン』。
「オラファー・エリアソン: アートのデザイン」(シーズン2:エピソード1)より

日本の映画やドラマを見てガックリくるのは、作品冒頭のタイトルが出るタイミングが無造作で、そのタイトル文字の大きさもフォントも画面上の配置もこれまでどこかで何度も見てきたような作品がとても多いことだ。登場人物たちの部屋のインテリアもどこかのモデルルームか、スタッフの誰かの部屋を借りたような味気のないもので、彼ら彼女らは新品であることが丸わかりの皺一つない小綺麗な服を着ていたりする。そうした無頓着さは、作品のポスターにも象徴的に表れている。まるで記念写真をコラージュしたかのように、出演者を大小のバランスだけ考慮してレイアウトした宣伝素材。それらすべてに欠けているのは、一言で言うならば「デザイン」の概念だ。

 

自分は映画の仕事をしているのでつい日本映画を例として挙げたが、建築された年代の違いだけであとはほとんど同じに見えるマンションから、身の回りの家電製品まで、日本人はあらゆる局面においてそうした「デザイン」の欠如に囲まれて生活していると言っていいだろう(言うまでもなく、それぞれにはその「デザイン」を担当した「デザイナー」が一応いるわけだが)。

「キャス・ホルマン: 遊べるデザイン」(シーズン2:エピソード4)より

ところが、『アート・オブ・デザイン』(シーズン2:エピソード5)でフィーチャーされているイアン・スパルターは「これほどディテールと技巧を重視する文化を持った国はない」と日本文化を高く評価し、「デザイン」のインスピレーションを得るために現在日本で家族と一緒に住んでいる。イアン・スパルターといっても、ほとんどの人が初めて耳にする名前かもしれないが、Instagramの現在のアイコンやアプリのユーザーインターフェイスを「デザイン」したデジタル・プロダクト・デザイナーといえば、我々の日常生活にどれだけ身近な存在かわかるだろう。

「ルース・カーター: 衣装デザイナー」(シーズン2:エピソード3)より

これまで2シーズン、14エピソードがNetflixで配信されている『アート・オブ・デザイン』。雑誌『New Yorker』表紙をデザインするクリストフ・ニーマン(シーズン1:エピソード1)、カニエ・ウェストやビヨンセなどの画期的なステージを生み出してきた舞台デザイナーのエズ・デブリン(シーズン1:エピソード3)、『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『ブラックパンサー』の衣装デザイナーのルース・カーター(シーズン2:エピソード3)といった、「デザイン」という言葉から多くの人が連想する仕事の内実が興味深いのはもちろんのこと、「デザイン」そのものをアートで再定義するオラファー・エリアソン(シーズン2:エピソード1)やバイオテクノロジーを駆使して素材そのものからデザインを立ち上げるネリ・オックスマン(シーズン2:エピソード2)らの仕事を知ると、この世界全体がいかに「デザイン」によって形作られているかに気づかされる。

「ネリ・オックスマン: バイオ建築家」(シーズン2:エピソード2)より

玩具や家具といった身近なものから車や建築まで。特にまだ仕事に就く前の若い人にとっては、本作の各エピソードを通して、「デザイン」の領域があらゆる分野のイノベーションとどれだけ深く関わっているか、そしてそれが特定の魅力的な個人によって生み出されているかを知ることは、仮にデザインの仕事を志していなくても将来設計に大きな示唆を与えてくれるはずだ。各エピソードは独立しているのでどのエピソードから見始めてもいい。例えばスニーカー好きならば、ナイキのジョーダン・モデルのデザイナー、ティンカー・ハットフィールド(シーズン1:エピソード2)の回はとにかく必見だが、もしどの回から見るか迷うようだったら、まずは前述したオラファー・エリアソンの回を見てほしい。

「ティンカー・ハットフィールド: フットウエアデザイン」(シーズン1:エピソード2)より

冒頭からカメラ目線で視聴者に向かって「最初に一緒に実験をしよう。まず、部屋の明かりを消して欲しい」と語りかけてくるオラファー・エリアソン。「デザイン」とは、何か形のあるものを作り出す以前に、モノの見方を変えること、これまでとは違う視点を獲得することに他ならないと彼は言う。そして、それは多かれ少なかれ、本作に登場するすべてのクリエイターたちが語る自身の哲学や生き方にも共通するものだ。

「オラファー・エリアソン: アートのデザイン」(シーズン2:エピソード1)より

『アート・オブ・デザイン』をオススメしたいもう一つの理由は、ここでフィーチャーされている(シーズン2の時点で)14人のクリエイターの人種、ジェンダー、国籍の多様性だ。いずれも国際的に活躍している超有名クリエイターだが、その14人中にアメリカ人の白人男性は2人しかいない。それは、本作を製作したアメリカのプロダクションが多様性に配慮した結果ではなく、「デザイン」という概念がいかにグローバル・ランゲージであるかを素直に反映したものだと言っていいだろう。

 

最初の作品タイトルの話に戻ると、本作の各14エピソードのオープニング・タイトルは、文字のフォントやサイズからそれを動かすアニメーションまで、それぞれのクリエイターやその分野を象徴するまったく異なった「デザイン」が施されている。その部分だけでも、「デザイン」について考えるきっかけとなる刺激に溢れている。異なる視点から見れば「これほどディテールと技巧を重視する文化を持った国はない」とされる日本。そのポテンシャルを日常的に定着させるためには、アートやエンターテインメントの分野だけでなく社会全体における「デザイン」の仕事の再定義が必要なのではないだろうか。『アート・オブ・デザイン』を見れば、きっとそんな意識の変化が促されるはずだ。

 

Netflixオリジナルシリーズ『アート・オブ・デザイン』シーズン1~2独占配信中

 

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