建築家の視点を体験!Nゲージが走るトラフ展で、子どものためのギャラリーツアー&ワークショップ開催
Q.今回の展示は“トラフの頭の中をのぞく”というのがテーマだそうですね。
はい、トラフは私と禿(かむろ)真哉が2004年に立ち上げた建築設計事務所です。でも僕らは、建物の設計だけでなく、家具やプロダクト、インスタレーションまで手がけています。なのでよく、「どうやって頭を切り替えているんですか?」とか「ジャンルごとにスタッフを分けているんですか?」と聞かれるんですが、僕らにとってはすべて同じ。建築家の視点を持って、スケールの異なる仕事をしているだけなんです。そのことを伝えたいと思って、会場の下のフロアには鉄道模型のNゲージを走らせてこれまでの仕事を辿りながら、上のフロアではその列車に乗った視点の映像をつくって上映し、2つを行き来することで楽しめる空間を考えました。
Q.下のフロアでは、Nゲージの電車“トラフ号”が建築模型の中に入ったり、トラフの手がけたプロダクトの脇を通ったりするのが面白いですね。
展示台はちょうど子どもの目の高さですし、夢中になって列車を追いかける子もいますよ。そうやって作品を辿りながら“建築家の視点”を楽しんでもらえたらと思っています。建築というのは、本番は一度きり。だから、日々模型をつくって試行錯誤をします。その時に、自分の体が1cmくらいに小さくなって、模型の中に入ってみたところを繰り返し想像するんです。天窓からどんな光が落ちてくるだろう。この部屋はどんな広さだろうとイメージするんですね。トラフ号と一緒に作品を辿ると、そんな建築家の視点になることができます。
Q.テーブルには作品以外の植物や日用品なども置いてありますね。
それは僕らがインスピレーションを受けたものや、見ようによっては建築になるのでは?と思ったものです。例えば、2008年に手がけた〈港北の住宅〉は4つの屋根と天窓をもったユニークな形の家です。その模型の隣に植物を置いたのは、自分が小人になったと思えば、これらも似たような建築に見えるかな、と考えたから。手前にはクリーム絞り器の先端が並んでいますが、これも体が3mmくらいになったと思えば、絞り口が天窓に見えてくる。ギザギザの絞り口からはどんな光が差し込むんだろう? とイメージしてしまうのが建築家なんです。
Q.上のフロアでは、まさにその視点を映像化して上映しているんですね。
映像では家具やプロダクトもすべて建築に見えてくると思います。そうして映像を観た後は、下のフロアに戻ってもう一度展示を見てほしい。さっき眺めていたテーブルが、ひとつの街に見えてくると思います。僕らは、建築をつくるときも、家具やプロダクトをつくるときも「敷地」を出発点に考えています。もし敷地がなければ、敷地をまず定義するんです。そこから情報を汲みとって、アイディアにする。TOTOギャラリー・間は3階と4階が展示スペースで、3階から4階に行くには一度外の中庭に出て、階段を登らなくてはいけないし、4階を見終わった後に、直接1階に戻ることもできない。なので2つの空間をつなげることや、行き来することで面白い効果が生まれるよう考えました。イベント当日も、こどもたちに視点が変わる面白さを体験してもらいたいですね。
Q.鈴野さんはどんな子どもだったのでしょうか?
小さい頃は図画工作が大好きで、家ではレゴで遊んだり、ダンボールで自分の小屋を組み立てたりしていました。でも、勉強はしないし、集中力もない子だったので、勉強のクセをつけるために小学4、5年生のころに家庭教師をつけることになったんです。その先生が家の近所にあった横浜国立大学の建築学科の学生さんで。時々、課題の模型を持ってくるんです。その度に「見せて!見せて!」といって興味津々でした。その先生に手伝ってもらって、夏休みの宿題に実家の模型をつくったこともありましたね。すごく本格的に仕上がって、先生に褒められたのを覚えています。大学に進学するときも、工作や絵を描くことが好きだからという理由で建築学科を志望しました。
Q.トラフの仕事は“視点の切り替え”が重要なキーワードになっていると思いますが、その面白さに気づいたきっかけは?
大学で建築学科に進むと、建築マップを手に街を歩くようになったんです。すると街が建築ミュージアムのように見えてくる。その時に視点が変わる面白さを体験しました。建築家として働き始めてからは、常に次につくるもののことを考えているから、今度は街が建材ミュージアムに見えてくる(笑)。私の妻は植物好きなのですが、あそこに種の落ちる植物があるとか、葉をちぎって匂いを嗅いでみたりとか、また違う視点を持って歩いているんですよね。
Q.そうゆう感覚を持って帰れる展覧会なんですね。
そうなんです。この展示では1番から100番まで展示作品にナンバリングがされています。100番目の番号が振られているのは、ギャラリーの出口の扉。99の作品をみたことで、きっと街の風景が変わって見える。そのことを100番目の作品としました。建築家はイマジネーションを使う仕事で、その視点は誰でも持つことができる。ギャラリーツアーでは子どもたちとそんな視点を共有できたらと思っています。
Q.ワークショップではどんなことをするのですか?
僕らが2010年に発表した「空気の器」を一緒に作りたいと思います。これは一枚の紙に無数の切り込みを入れて、それを広げることで立体的な器になるというもの。高さや広がりを自由に成形できるので、つくる人によって器の形が変わるのも面白いんです。ワークショップでは真っ白な空気の器を用意するので、ペインティングもしてもらう予定です。子どもたちにも楽しんでもらえたらいいなと思います。
〈過去のワークショップの模様〉