MilK JAPONによるビジネスセミナー【緒方壽人(Takram)×塚田有那(編集者)】進化するIT時代、企業はヒトに何を求めるのか
小学校でのプログラミング教育必修化など、2020年以降、教育のあり方は大きく様変わりしようとしています。しかし、幼少期からのプログラミング教育によってAI時代に最適化された人材が育つ一方で、少子化が加速度的に進行していくのもまた事実。人材の確保そのものが困難になるかもしれない状況において、企業はどのような取組みをしていくべきなのでしょうか。
AI時代の教育、人材育成、人材確保……。いま、企業が向かい合うべき課題について、イノベーション・ファーム「Takram」の緒方壽人さんと、ウェブメディア「Bound Baw」編集長の塚田有那さんを登壇者にお招きし、3月28日(水)にイベントを開催。来場者も交えて、インタラクティブにこれからの時代に求められる新しい教育・人材育成について考えていきます。
-AI時代を見据えた人材育成・人材確保といえば、昨今は「イノベーション」がキーワードになっていますね。
塚田有那(以下、塚田):イノベーションを起こす人材がほしいという企業はたくさんあると思いますが、そこで問題になるのが、そうした新しいことに挑戦する人材の評価軸をどう設定するかということです。目的に対する達成度を測るような従来の評価軸では、もしイノベーティブな思考を持つ人が社内にいたとしても、「変わり者」という扱いくらいにしかならないでしょう。必要なのは「役に立たないことを評価する価値軸」を持つことです。とはいえ、「変わり者」ばかりを雇用しても会社の事業運営にとってはリスキーですよね。
緒方壽人(以下、緒方):イノベーターやクリエイターに対するニーズは、最近特に感じますね。実際にクライアントからも、そういう人材を自社で育成したり、活用するにはどうすればいいかという相談を受けることも増えてきました。端的に言えば、「Takram」のようなやり方を学びたいという依頼が増えているということですね。ただ、確かにそういった人材を社内でどう評価するかといった観点でいうと、実際は塚田さんが言うように、時代が要請する人材と企業の価値観のあいだには大きな溝があります。企業の内と外で起きていることのギャップを埋めていくために、いま考えるべきことはたくさんありますね。
-クリエイティブな人材を求めるニーズが高まる一方で、そういった人材を育成する教育も多様化していますね。
緒方:僕にも小学生になる子どもがいるので、学校以外のオルタナティブな教育のあり方には関心があります。しかし、例えばプログラミング教育といえば「スクラッチでゲームをつくろう」といったものがほとんどだし、クリエイティブプログラムとしてお絵かき教室はあってもデザイン教室はなかったりします。つまり、片手落ちというか、「そうじゃない」感が強いんですね。デザインエンジニアリング教育やSTEM教育の場は、もっとあってもいいと思うのですが、まだまだ少ないのが現状ですね。
塚田:日本の教育は、すでにある何らかの技術や知識を叩き込む、「習得型」のメソッドが主流です。ここでは、手持ちの技術で対応できる範囲における最適解を導くことは学べますが、「わからないもの」に取り組む訓練はできません。イノベーションやクリエイションは、まさにこの「わからないこと」に挑戦する能力を必要とします。異なる思考の軸を持ち、それらを行ったり来たりしながら考える力を養うことが、これからの教育メソッドに求められることだと思いますね。
緒方:そういう意味ではTakramの強みは、様々な専門領域をもつメンバーが入り混じり常に学び続ける組織であることで、日々持ち込まれる答えのない新しい課題に対して既存の枠組みに囚われずに取り組んでいけることだと感じています。
プログラミング教育の話に戻ると、最近、スクラッチで学んだ人がコードを書けない、という話も耳にします。もちろんスクラッチはプログラミングの入門には適している面がありますが、決められた枠組みから外れた「わからないこと」「新しい課題」に対処することの間には壁があるのかもしれません。
塚田:「知らない領域を恐れないマインド」とも言い換えられるかもしれません。科学技術の急速な発達を拒絶するのではなく、その技術が世の中をどう変えていくのか、人間はどう変わるのかといったことに興味を持つ、好奇心を持つ、想像してわくわくできる人の方が、楽しい未来をつくれる気がしますね。
-そういった新しい教育メソッドや人材育成において、企業がコミットメントしていくこともできるのでしょうか?
塚田:可能だと思います。企業の中においても「何を学べばいいのか」ではなく「いま、何が面白いのか」を嗅ぎつける能力やセンスを養うことはできると思います。
緒方:合目的的なデザインやエンジニアリングだけではなく、新しい目的を発見できる人材こそ必要です。そうすれば、常に時代のニーズに対応できる組織ができます。「学び続ける組織」であるためにはどうすればいいか。これは僕ら自身も、まさにいま向き合っている課題です。
企業の中の「人」をどう育てるか。そうしたビジョンを持つことで、企業が確保すべき次世代の人材の姿もクリアに見えてくるのではないでしょうか。近い未来、多くの企業が確実に直面する課題について、当日は来場者を巻き込みながら、ディスカッション形式でおふたりと一緒に考えていきます。企業の中で教育に関わる方以外にも、ママやパパにとって、これからの教育について考えることのできるセミナーとなっています。ぜひ奮ってご参加ください!
〈登壇者プロフィール〉
Takramディレクター/デザインエンジニア 緒方壽人
ソフトウェア、ハードウェアを問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで幅広く領域横断的な活動を行うデザインエンジニア。東京大学工学部卒業後、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)、LEADING EDGE DESIGNを経て、ディレクターとしてTakramに参加。
編集者・キュレーター 塚田有那
世界のアートサイエンスを伝えるメディア「Bound Baw」編集長。人々の想像力を拡張し、ビジョンを現実世界に実装していくアート・教育・思考実験のプラットフォーム「一般社団法人Whole Universe」代表理事(2018年4月登記予定)。