DATE 2018.12.30

映画「いろとりどりの親子」の監督・レイチェル・ドレッツィン × 坂本美雨 トークイベントをレポート!

11月17日(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開している、話題の映画「いろとりどりの親子」。監督・レイチェル・ドレッツィンが来日し、ミュージシャン・坂本美雨さんと試写会前に対談トークイベントを行った。

原作の作家アンドリュー・ソロモンはゲイであり、そんな自分を受け入れることに苦悩する両親の姿に直面する。それをキッカケに、親や周りとは“違う”性質を抱える子どもを持つ300以上の親子に取材をし、親子の関係性や家族というものの本質を問い続けた900ページにもなるノンフィクション本「FAR FROM THE TREE」を書き上げる。その本は24カ国語に翻訳され、国内外の50以上の賞を受賞したベストセラーとなっている。

 

本書をむさぼるように読んだという、エミー賞受賞歴のある女性監督レイチェル・ドレッツィンが映画化したのが、この「いろとりどりの親子」。

原題は「The apple doesn’t fall far from the tree.(りんごは木から遠いところには落ちない)」

 

「治療すべきものと祝福されるべきものの差は?」「幸せの形は無限にある」など、登場する6家族の人々が発する言葉ひとつひとつに深く心打たれ、その言葉によって誰もが自分自身を振り返るはず。映画を観終わった後は、幸せの形は無限大にあるということ、親の無限の愛情、密接である親子だからこそ“違い”を受け入れることの大切さ、などが頭を駆け巡る。そして、そこには新しい世界へと導く光る道筋が見えるはず。

 

また、誰もが子どもであり親という存在がいる。自分に子どもがいなくとも、まだ若くとも、自分と親との関係をまた考えさせられる本作は、老若男女誰もが感じるところがあるのではないだろうか。誰もが誰かの子ども、なのだから。

レイチェル・ドレッツィン監督が来日し、試写会前にミュージシャン・坂本美雨さんとのトークイベントでは、お互い母であるという立場から観た本作についても話が及んだ。

 

坂本美雨:「今日なぜ私がここにいるのかというと、この映画の大ファンだからです。試写会でいち早く観せて頂き、一人でも多くの人にこの映画を観てもらいたい!!!と思い、勝手に広報活動をしています(笑)」

 

レイチェル・ドレッツィン:「昨日坂本美雨さんのラジオにもお招き頂き、とても楽しく話すことができました。彼女が大きなハートを持っているからこそ、この映画に反応してくれたんだと思います。たくさんサポートしてくださり、言葉に尽くせない感謝の思いでいっぱいです」

 

坂本美雨さんがこの映画に寄せたメッセージは、

“世にも美しい瞬間が写っている。

一人でも多くの人に見て欲しい。

人が世界一大事な人を想う、生々しいその様を。”

 

坂本美雨さん:「私には3歳の娘がいて、子育てに奮闘中なのですが、子どもを育てることはもう1度自分を見つめ直すということはもう1度自分を見直さなきゃいけなくなりますよね。自分の弱いところや、自分自身でも気づいていなかった傷ついていたことなど、色々なことを見せられる瞬間があって…。それらとまだまだずっと向き合っていくんだと思います。

子どもというのは自分の分身のように言われていますが、私の場合は完全に違う人間だと思っていて。それを日々実感している時に、この映画が私の前に現れました。

この映画に登場する6家族は、否が応にも“違い”を突きつけられている親子たちですが、もう少し身近な小さな出来事ならどんな親子にも同じようなことがあるんじゃないかと思います」

 

レイチェル・ドレッツィン:「美雨さんがおっしゃっていたように、子育ては1つのアートなんじゃないかと思っています。みんなそれぞれ違うやり方で一生懸命子どもを育てていく。今回登場する親子も、どうやって子育てしていくのか、初めは分からず、手探りで見つけていきます。親が“こういう子どもが生まれてくるかな”と想像していた子どもとは全く違う子どもが生まれてきて、育つということ。この作品自体が、子育てとは何なのかというメタファーになっていると思っています。私にも3人の子どもがいて、下は15歳、上は20歳です。子どもを育てる経緯で、親として変化がありました。親としての道のりの最初の頃は、自分が子どもたちに影響を与えていくんだと思っていました。でも、子どもたちが歳を重ねて育っていくうち、彼らは自分たちの道を歩いており、それをリスペクトしなければいけないと気づいたんです。自分が親としてできることは、一歩下がって見守り、ありのままの彼らを祝福し受け入れることなんじゃないかと思っています」

 

坂本美雨さん:「本当にそうですよね。娘は明確な意志を示してくれる時期がスタートするのが早い子だったみたいで、3歳でも立派にやりたいことがあり、それをきちんと言葉で伝えてくれるんです。だから3歳にして、少しだけ離れた感があります(笑)それと同時に、私自身も1人の人としてまだまだやっていかなきゃいけないことややりたいことがたくさんある。そして、その姿を見て欲しい。子育てをすることで、私自身もしっかり個として立つということを意識するようになりました」

レイチェル・ドレッツィン:「この映画には6組の家族にご出演いただいますが、その6組にお願いすると決めるまでに1年かかりました。そこから2年ほど撮影させて頂いて、編集込みで3年位かかっています。過ごした時間はご家族によって違いますが、キッチン、寝室、犬の散歩、親密な時間をずっと共有させてもらいました。カメラを忘れるくらいに慣れて頂き、委ねていただけました。何かが起きた時にそれは必ず捉えたいと思っていたんです」

 

坂本美雨:「自分が親としてという捉え方が私には響いたので、親目線で観ていました。親のことを考えたかというとそこまで考えてはいません。おそらく子育て真っ最中だからかと。

でも、どんな人でも昔は誰かの子どもだった。そう考えると、親が今の自分の歳の頃にはどんな仕事をしていて、色々な葛藤や決断があったんだろうと思うと、改めて尊敬する気持ちが後々に湧いてきました。「こどものいのちはこどものもの」という活動をしているのですが、今年の初めの痛ましい虐待事件があった時に、何か動かないと気がすまないという気持ちで5人(犬山紙子、眞鍋かおり、福田萌、ファンタジスタさくらだ、坂本美雨)で集まってチームを組んで動き出しました。自分たちの得意分野や持っているメディアで虐待防止について発信したり、児童養護施設などのクラウドファンディングをしたりしています。

これからライフワークになる気がしています。そういった活動をしている時にぶつかる壁や疑問にもこの映画は答えというか光をくれた気がします」

 

レイチェル・ドレッツィン監督から読者へのメッセージ

「私と坂本美雨さんはエモーショナルな部分をお話させていただきましたが、誰もが自分たちに重ねて考え、感じ、エモーショナルに訴えかえてくる映画になっていると思います。それと同時に、時事的な部分も根底にあるんです。ご存知の通り、アメリカという国では色々な葛藤がおきていて、社会としてどれくらい包括的でありたいのか、多様性をもつ社会にしたいのか、それが核心にあります。自分とは同じ、自分とは違う。この2つの関係性もまた理由になっているのだと思います。

日本の滞在は数日ではあるけれど、全く同じことと向き合っていると感じました。

何が同じで何が違うのか。その2つの関係性はどうあったらいいのか。

何が“普通“、何が“普通”じゃないのか。誰がそれを決めるのか。

何かに属するということはどういうことなのか、

こういった問いかけをしている映画だと自負しています。

観て頂けたら嬉しいです」

坂本美雨さんから読者へのメッセージ

「私は「The apple doesn’t fall far from the tree.」という原題もすごく重要だと思っていて、これは“りんごの木から実は遠くに落ちない”という言葉を逆説に使っていて、“りんごの木から実が遠くに落ちることもあるよ”と伝えているのですが、その通りだと思います。

“親の顔が見てみたい“など、子どもに起こること、子どもが起こすことは全て親のせいだと言われますし、親側もそう思ってしまいがち。

もちろん親の影響は強いけれど、子どもに起こったこと全てが親のせいではないということを分かってもらえたらと思います。是非観に行って感じてほしいです」

「違う」ことが恐怖と憎悪を生み、

「同じ」ことが共感と愛を生む、

そう思いこまされている私たちに、

この映画は違う次元の可能性を見せてくれる。

―谷川俊太郎(詩人)

 

こんな形で生まれてきた私を、両親は受け入れてくれた。「まあ、かわいい」と。そうして私の人生が始まった。親に認められることは、その後の人生において大きな原動力になるのだ。何せ、人生で初めての出会いとなるのだから。
―乙武洋匡(作家)

 

 

トルストイの言葉を覆し、幸福な家庭こそそれぞれの形があるということを、身をもってひとりひとりが示してくれるこの映画に、最初から最後まで涙が止まりませんでした。

―小林エリカ(作家、マンガ家)

 

子供が自分と「違う」とき、多くの親は彼らが同じように「しない」んじゃなく「できない」んだと思う。そう思わない親になるのは難しい、でも、幸せに焦点を合わせれば焦りはぼやける。それでもいいんだ、と思えた。
長島有里枝(写真家)

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