DATE 2018.06.01

映画『アエイオウ』安藤桃子監督に聞く、子どもにとって幸せなこととは?

映画『0.5ミリ』で数々の映画賞を受賞し、結婚・出産を経て、1児の母になった映画監督の安藤桃子さん。現在は高知に住み、期間限定の映画館『ウイークエンドキネマM』を昨年11月にオープンし、運営を行っている。

 

産後初の監督作である映画『アエイオウ』がショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2018で公開される。『アエイオウ』は『ウタモノガタリ-CINEMA FIGHTERS project』の6作品中の1本として上演され、6月22日(金)からは全国公開される。

──安藤さんが「毛穴という毛穴から母性本能が出た」と語る出産や子育てから、映画製作の裏話、高知での活動について話を聞いた。完成披露上映会後の艶やかなドレス姿でインタビューに答えてくれた安藤さん。ドレスとシューズは母親である安藤和津さんが着ていたもの、また撮影直前まで羽織っていたトレントコートは父親である奥田瑛二さんのもの。安藤さんが今見ているもの、感じていることは何なのか? 感性あふれるエネルギッシュなトークは止まらない。

 

「『0.5ミリ』の公開時がちょうど臨月でした。ありがたいことに、たくさんの賞を受賞して、産まれる直前まで舞台挨拶や授章式に登壇して。毎日忙しくて、ものすごい稼働率だったから妊娠高血圧症候群になってしまい。先生に『仕事をするなら、塩分をゼロにしろ!』と言われて。塩分制限生活になりました。それはそれは、なかなかの修行でしたね(笑)。旨味、美味しさって、全てが塩だったんだ!と気づかされました。その時ばかりは、家族全員が健康食に詳しくなりましたね。発見したのは、イタリア料理が一番塩分を使わずに旨味が出るってこと。和食はやばいです、ほぼ塩分ですから(笑)」

 

──忙しい日々は続き、そのまま高知に戻ることができず、出産は東京で。産後2ヶ月間は“こもり生活”を決めていて、家から一歩も出ずに過ごしたそう。

 

「多分みんな同じだと思うんですけど、妊娠中は自分と子どもって別の存在だったけど、産まれた瞬間から母親という具体的な意識が始まる。どれだけ母性を蓄えているのかは産んでみないとわからない。私の場合は産んだら、母性本能が毛穴という毛穴から出てしまって(笑)。どんどん母性が強くなり、子どもだけに集中したい、この瞬間瞬間が何より大事なんじゃないかと思ってしまって。

2ヶ月間、部屋のドアを開けると毎回同じポジションでチビ(娘さん)を抱っこしている私は、さぞかし怖かったと思います(笑)。薄暗い部屋で、片時もチビを離さずに、そして必ずどっちかの乳が出ている(笑)。

 

異常な肉体と精神の、宇宙の別の星に引っ越してしまったみたいな状態でした。そこからまたチビと私の旅芸人のようなドサ回りが始まりました(笑)。必要とされる場所が何かとあったんですよね」

──『0.5ミリ』の製作、出産という2つの大きな仕事を終えた安藤さんは、「スカスカの状態だった」と振り返る。そんなタイミングでの映画のオファーは、良いタイミングだった。

 

「実は、2ヶ月間の“こもり業”の後に、長編小説を書き上げました。1ページ書くごとに吐くみたいな、とてもしんどい作業で。書き終えた直後に40度の高熱が出て、救急車に運ばれました。何もない状態からさらに胆汁を出すみたいな感じだったので、自分じゃないものを書いてしまった感があり、小説はそのまま保管しているんですけど。

私は表現することをやめたら生きられないタイプ。だから、仕事をやめる・映画づくりをやめるっていう選択肢はなかったはずなのに、子どもを産むと、いとも簡単にやめる! 子育てする!と思ってしまった。

 

でも、なんだかんだ仕事はしていて、映画館の立ち上げもあって。そうすると、本当は子育てがしたいけれど、仕事にも胸が踊る。『それでいいのか』『子どもを置いてまで、仕事をやる理由があるのか』と苦しくなり、大きな矛盾ができてしまい、精神的に辛くて崩れていた時期もありました。でも、出産後にさらに出し切って、もう本当に何もないっていう時に、生きる原動力=表現だと改めて思ったんです。

 

オファーをいただいた時に、『あ、今がすごく重要なターニングポイントだ』『これで復帰しなかったら、2度と撮れない』と思った。映画を作ることは、魂をさし出すようなもの。短編だけど長編と同じように、同じ量の力を凝縮させている。別所(哲也)さんはエスプレッソと言ったけれど、私は梅肉エキスだと思う(笑)。煮詰めて、全てを凝縮させるようなことを、またやろうと決めたんですよね」

 

──今回のプロジェクトでは6人が監督を務め、うち女性は安藤さん1人。完成した作品を観て、「意外と私が一番男っぽい。ゴツゴツしたハードボイルドな映画に仕上がっていた」と感じたそう。

 

「女性という機能を最大限に生かした作業とも言える出産を経たことで、ジェンダーレスになったのかも。宇宙観がより大きくなるというか、人というものがパーンと割り切れるようになったというか。

この作品は短編ということ以外にも初挑戦があって。今までは、女性の主人公ばかりだったんですけど、初めて男性の主人公なんです。主人公を愛し切らないと脚本は書けないし、映画も撮れない。男性を愛し切れるか不安だったけど、(白濱)亜嵐くんが純粋な子で、真摯で一生懸命だった。役者って、みんな身体能力が高いんですよね。肉体と向き合って生きているから、体を知っていて肉体表現がうまい。妹の(安藤)サクラは『百円の恋』でボクシングをやっているし、『カケラ』の満島ひかりちゃんもダンスが得意だし。亜嵐くんも、体の使い方をよく分かっている。とてもいい人と出会えたなと思っています。

 

あと、単純にイケメンっていうのがいい(笑)。うちのおばあちゃんが、『置いとくならイケメンに限る。顔が良いのがいい』と言っていて、それがすごい納得できる。顔がきれいな人は、内面もちゃんと整っているんですよね。亜嵐くんだって生活スタイルや自分との向き合い方によっては、いくらでもむさ苦しい男、近づきたくない男にもなれるはずですから」

 

──「作品を撮りながら復帰していった」と振り返る安藤さん。映画を作ることは、次の世代へ望むことを再確認する時間でもあった。

 

「映画の打ち上げのスピーチで、『実は映画監督をやめようと思っていた』と言おうとした時、最後の一言を言うか言わないかくらいの時に、うちのチビが『オーマイガッ!』と叫んで、みんな大爆笑だったんですよ。私は、わ! バレてる!この人は、私のバイオリズム全てを知っていて、私を一番知っている!と。私がやめたら、私じゃないよね。本当にオーマイガッ!だよねと思って。

妹のサクラも子どもが産まれたので、いろいろ話をするんですが、ちょうど腹をくくったことがあって。

 

将来、自分の子どもを始め、世界中の子ども達が世界を引っ張っていく存在になる。ある意味先輩ですよね。その人達が、よりスムーズに進んで行けるフィールド作り、道づくりを、私はしなくてはないけないと思って。私たち世代は耕す世代・戦う世代であり、次の世代の人には、生み出すことをして創造する世代になって欲しい。

 

私はブルドーザーになると決めて生きる。親はどんなことでもいいから、自分の人生を表現している姿を見せることが、子どもにとって一番幸せなことだと思うんです。私にとっては映画だったけれど、それは何でもいい。

 

もちろん、子どもとずっと一緒にいられたらいいと思いますけど、毎日忙しいじゃないですか。子どもの顔だけを見ていたら、洗濯物もたまるし、料理もできない。1日の中で1回でもいいから子どもと向き合って、2人だけの世界でコミュニケーションを取ることも大切です。話を聞くとか、絵本を読むとか、濃縮した時間を作ることに集中しようとは思っています」

──映画『アエイオウ』への思い。それは、映画の楽しみ方・見方を広げるきっかけになることや、続いていく未来へのメッセージが込められている。

 

「今は映画の見方、文学の読み方も分からない世の中になってきている。社会的に大きな影響力を持ったアーティストと一緒に映画づくりができることで見方や、間口を広げられたらいいと思います。

 

不親切は良くないけれど、分かりにくいところのギリギリのラインを大事にしたい。何層にもなっている複雑な味を味わって、1年後に、ふとどこかのシーンを思い出すような、印象に残る作品になればいいですね。

 

未来に向けて“自分たちは何を選ぶのか”を問いかけたい。劇中に “おわりのはじまり”という言葉があるように、終わりは始まり、始まりは終わりの輪廻の中で見てもらうと、どういうことかは伝わるかなと。良いも悪いも、みんなの中にあるのかなと思います」

 

──「家族が濃すぎるから、娘も個性的に育っています。雑誌もサクラが出ているようなモード誌や写真集ばかり見ているから、『写真を撮るからポーズして』と言うと、道路で寝転がったり、死体のように気だるくしなだれたり、壁に寄りかかったりするんですよね(笑)」と話す安藤さん。そんな表現力豊かな娘さんと親子で一緒に楽しむ映画は、セルゲイ・ポルーニンとマイケル・ジャクソン!

「『ウイークエンドキネマM』で上映する作品の試写をやるじゃないですか。それで一緒に観てハマったのが、『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』。2歳半くらいだったんですけど、劇場の前で“ポルーニン、観る〜!”って暴れちゃったくらい(笑)。

 

私が好きな映画を一つあげてくださいと言われたら、必ずマイケル・ジャクソンの『スリラー』をあげるんです。映画ですか?って聞かれますけど、あれは、音楽と映像がエンターテインメントとして融合しているものだから映画ですよ。チビにも小ちゃい頃から観せてます。あとは、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』もよく観てますね。家に帰ったら、いつもリピートしているくらい好きです。自分の特権で、劇場が終わった後や始まる前に、『THIS IS IT』を一緒に観ることも。

 

多分肉体の動きが面白いんだと思います。子どもって、やっぱりすごい動き、大きな動きが好き。いろんな表現が体でできる人のトップ・オブ・トップを見せると子どもも集中して観るし、音楽にも反応する。バレエダンサーのシルヴィ・ギエムも見せます。子どもは本質を見抜くから、本物を見せるのがいいんじゃないかな。

 

子どもに見せるのに、表現がふさわしいか、ふさわしくないかはあるとは思うけれど、ある程度の年齢になったら見せてもいいと思っています。今、何でも制限を付けて見せないようにする風潮があるけれど、私は真逆で、文学や映画で殺人や人の陰の部分を見せたとしても、想像して、そのまま現実に真似したりはしない。それに感化されて現実にやってしまう人は、そうじゃなくてもやるんじゃないかと。例えば、俳優が殺人鬼を演じるのに殺人しないとできないかと言えばそうじゃなくて、痛みを一つ知ったら、そこから想像を1000倍に膨らませるのが想像力だと思います。だから映画はたくさん観て欲しいなと思いますね」

──映画に対する思いは、ひとしお。単純な分かりやすさ、面白さだけでなく、「自分に合わない」と感じる作品にも触れることが、良い経験だと感じている。

 

「若い時って、『これを知っているとカッコイイから』と、詩集を読んだり映画を観たりするじゃないですか。小津(安二郎)映画も溝口(健二)映画も、成瀬(巳喜男)映画も。若い時は、観てあんなに眠くなったのに、今観ると、涙は出るわ感動するわ、こんなに面白いものはない!と思った。ロシア映画で、1ミリずつひとつの窓に寄っていくだけの映画とか、息子が老いた母親を背負って山をただ歩くだけの映画とか、つまらなかったけど、その絵を覚えているんですよね。映画は、元は1秒24コマの活動写真だった。その写真がどこかに焼き付いているのが本質だと思うので、嫌い、面白くないと思ったものを観る体験も貴重な経験になると思います。

 

人生も同じで、好きでもない人と関わらなきゃいけないし、やりたくないもこともやらなきゃいけない。同じように映画や文学でも、自分に合わないと思っても、1回は触れてみる。嫌いなものを見つけることは、好きなものが多くなるのと比例でもある。子どもには子ども向けだけじゃなく映画を観て欲しいし、映画館で映画を観てもらいたい。『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア』でも、キッズプログラムでノンダイアローグ(台詞なし)の世界中の映画が観られるので、ぜひ子どもと一緒に映画を観て欲しいですね。」

>>「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2018 キッズプログラム」の詳細はこちら

 

 

──昨年オープンした『ウイークエンドキネマM』の運営と並行して、併設しているギャラリー『&ギャラリー』でポップアップイベントや、トークイベントを行ったりと、精力的に活動している安藤さん。高知は「言ったことが実現できる場所」と語る。

「今、“ピンク革命”という革命を起こすべく活動を進めています。エロく聞こえますが(笑)ピンク=平和や調和の意味。ケンカがないのが平和や調和なのかと言えばそうでもなくて、戦争はそこに武器を持ってやりあうから傷つく人がいるけれど、花束だったらどうなんだろう?と思って。年寄りと若者が花束で殴り合っている絵が思い浮かんだんです。殴り合えば殴り合うほどピンクの花びらが散らばっていく。これが文化なんだと思います。そんな革命のプロジェクトも準備しています。

 

また、6月から県と一緒に行うプロジェクトで『桃子塾』が始まります。対象は高知在住の中学生から30歳まで、無料で参加できて月1回活動する表現集団を作る予定。長編映画も2020年までには撮りたいなと思っています。小説もまた書きたいと思うので、産後に書いた小説もまた読み返そうかなと。

 

他にもいろいろやっていて、私が思いついたら風敷をどんどん広げていくから、それを収集するのが、“チームキネマM”の仲間たち。14人くらいいて、私ができない分野をみんなにやってもらっています。

 

高知は言ったことが現実化する県。思い描くとできる、という県ですね。

『ウイークエンドキネマM』も2ヶ月半で作ったんですが、現実にはあり得ないスピードですから。映画館を開いて半年経ちましたが、人が増えて街ががらりと変わりました。耐震の関係で『キネマM』は1年間限定で建物は壊さなきゃいけないのですが、場所を変えてやるのかどうかも含めて、考えてなくちゃいけないですね」

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