DATE 2018.10.01

映画『モアナ 南海の歓喜』。100年前の人々の営みを映す貴重なドキュメンタリー

100年前の人々はどのように暮らしていたのか。映画『モアナ 南海の歓喜』に映し出されている映像には、今の時代を生きる私たちに想像できないような当時の日常が描かれている。日々生きることと伝統に基づいて営む時間は、あまりに無垢で美しく、見ていると清流が心に染み渡っていくような清涼感に包まれる。

モアナといえば、ディズニー映画『モアナと伝説の海』が有名だが、そちらはフィクション。この映画はドキュメンタリーで、すべて実在する島や人々が登場している。“ドキュメンタリー映画の開拓者”と言われるロバート・フラハティが、1923年にサモア諸島のサヴァイイ島に家族で2年間滞在して撮影したもので、1926年に劇場公開された。もとはサイレントだったが、50年後にフラハティの娘モニカが島を再訪し、サウンドのみを新しく録音、1980年にサウンド版として完成させた。それを最新のデジタル技術で復元したものが、今回の映画になる。

 

舞台となるサヴァイイ島は、南太平洋のサモア諸島にある島のひとつ。地理的には、太平洋の真ん中の少し下、ニュージーランドの右上あたりに位置する。登場人物は、ルペンガ一家で2人の息子モアナとペア、父のルペンガ、母のツウンガイダ。そしてモアナの恋人ファアンガセだ。

人々の暮らしは、すべて生きることにつながっている。モナアとペアは、主食となるタロイモを収穫し、山へ出かけ仕掛けを作ってイノシシを捕らえる。海ではモリで魚を突き、岩場で煙をいぶして巨大なカニを捕まえる。

 

洋服は、木の皮を薄く伸ばした布だ。そこに白檀の種で作った赤い塗料で模様を描き、これを衣服として体にまとっている。海で捕らえた巨大なウミガメは装飾品の材料になる。食事の準備はとてもダイナミックで、焼いた石の上にタロイモやグリーンバナナ、パンノキ、葉で包んだ魚、ココナッツミルクを乗せて調理する。

モアナとファアンガセは、結婚式の準備をする。互いに香油を体に塗り、婚約の踊りをはじめる。モアナは成人の儀式の一番の苦行、体に入れ墨を施される。腰から膝までの広範囲に、3週間かけて施される入れ墨の痛みのすごさは、冷や汗をかいて耐えるモアナの表情から伺える。この痛みを克服して、男として認められるのだ。

 

そして始まる婚礼の盛大な宴。ほら貝と太鼓の音がなり、村人が集まり歌い踊り、2人を祝福する。宴の最後には、途中で寝てしまった弟ペアの寝顔が映し出される。変わらずに繰り返されていく日常と伝統を示唆するかのように物語は幕を閉じる。

この映画のすごいところは、100年もの前の人々の暮らしが、美しく生き生きとした映像に残されていることに加え、音声を50年後に再録している点にもある。大人になったフラハティの娘のモニカが、両親と訪れたサモアを再び訪れ、歌やセリフ、波やボートを漕ぐ環境音を録音した。優しく穏やかなその調べは、いつまでも聴いていたくなる、あたたかさと穏やかさに満ちている。

 

50年の時を経て音と映像が組み合わさり、さらに30年後の2014年にフィルムのデジタル修復を行い、今回の『モアナ』サウンド版/デジタル復元版が完成した。父から娘へ、そして新たな世代へと受け継がれた偉大なるドキュメンタリー映画である。

 

現代は、100年前ではあり得ないようなスピードで情報や物が動き、毎日が進んでいく。物、お金、欲、時間、いろいろな物にしばられ振り回されている毎日に、ふと足を止めたくなる瞬間もあるだろう。“生きる”って何だっけ? “幸せ”って何だっけ?そんな時に、ぜひこの映画を観て欲しい。100年前の人々の美しい営みと優しい音色が、心を少しだけ豊かにしてくれる。明日をまたつつがなく過ごす、エネルギーになるはずだ。

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