DATE 2018.12.26

映画『グリンチ』杏さんインタビュー「日々迷ったり悩んだりの連続です」

年末に向けて盛り上がる中、今の気分にぴったりの映画『グリンチ』が公開されている。アメリカの絵本作家ドクター・スースの人気作をアニメ化した今作で、声優を務めたのが女優・モデルの杏さん。演じるのは、3人の小さな子を育てるワーキングマザーのドナ役だ。自身も2歳の双子と0歳の子育て真っ最中の杏さんに、映画やクリスマスの思い出、自身の子育てについて話を聞いた。

『グリンチ』の原作は、1957年に発刊された『いじわるグリンチのクリスマス』。欧米では知らない人はいないほどポピュラーな絵本だ。2000年には実写映画化され、話題を集めた。

 

「海外で『グリンチ』はとてもポピュラーで、クリスマスといえばサンタかグリンチ。欧米で親しまれているキャラクターが、いよいよ日本にやって来たという感じですね。ドナは、1女2男を育てるワーキングマザー。自分とも境遇が似ている役で、そしてクリスマスを前にとても盛り上がる作品に声をかけていただいて、とても嬉しかったです」

『グリンチ』の舞台はフーの村。陽気でクリスマスが大好きな村人たちは、クリスマスに向けて盛り上がっている。しかし北の洞窟で暮らすグリンチは、クリスマスが大嫌い。「フーの村からクリスマスを盗んでやろう」と計画を立て、ツリーや飾りを盗み始める。

 

「完成した作品を観たのは11月。クリスマス前にもう1回観て、クリスマス気分を盛り上げたいなと思いました。ストーリーもさることながら、作品の細かなところまで丁寧に描かれていて、心の底からワクワクしました。楽しげなフーの村の様子やかわいいクリスマスの飾り付けも。大人も子どもも楽しめる作品です」

 

杏さんが演じたドナは、フーの村に住むワーキングマザー。昼は子育て、夜は仕事に奮闘するパワフルで優しいママだ。慌しいながらも愛情を持って子どもを見守るドナの姿に、杏さんのまっすぐでおだやかな声が重なる。

 

「実際に演じてみると、監督から最初に『リアルにやりすぎるよりは、もっと楽しい雰囲気で』とか『優しい感じを含ませるように』と言われました。なんとなく自分のいつもの感覚に任せてやっていたら、『もっと明るく、楽しい感じで、テンポよく』ということで、声のトーンやリズムを少し変えました。キャラクターのビジュアル、映画の世界観とのバランスからそう提案したんだと思います」

劇中では、ドナの3人育児の忙しい様子が描かれているが、杏さんの暮らしでも重なる部分はあったのだろうか。

 

「ごはんを出した瞬間にお皿をひっくり返されるのは、よくありますよね(笑)。双子のお出かけはベビーカーっていうイメージがありますが、実際は1人をベビーカー、もう1人を抱っこ紐に入れるシーンが、すごくリアルだなと思いました。双子用のベビーカーは小回りが利かないので、フーの村の騒がしい街中だと動きづらいんです。私が子どもを連れて出る時は3人なので、アウトドアのワゴンみたいな乗り物に乗せて移動することが多いですね」

 

忙しい中でも、娘シンディ・ルーの気づかいや優しい言葉に助けられるドナ。杏さん自身も、子どもたちの優しい言葉に日々心を動かされていると言う。

 

「『新しいパジャマを買ってくれてありがとう』『“かか”(お母さん)のごはんおいしいねぇ』とか。着替えた私に『お着替えしたの? かわいいねぇ』と言ってくれたり。優しい言葉やあたたかい一言に、とても嬉しくなります。この間は、双子のふたりが『かかのこと好き?』『わたしも〜』って話していて、幸せな気持ちになりました」

グリンチは孤児院で育ったため、クリスマスには孤独でさみしい思い出しかなかった。悲しい記憶を呼び起こすクリスマスが嫌いで、盗もうとしたのだった。杏さんのクリスマスの思い出は、「厳かな雰囲気が好きでした」と振り返る。

 

「幼稚園からずっとキリスト教系の学校だったので、クリスマス礼拝をしたり、聖歌隊に所属したり。みんなでパーティというより、おうちで厳かに過ごして、協会で賛美歌を歌ったりと静かなイメージがありますね。大人になってもそれは変わりません。家族を持った今は、よりおうちで過ごすイメージが強くなりました」

 

クリスマスまでの楽しみのひとつが、アドベントカレンダーだったそう。ツリーの飾りつけに加えて、最近は七面鳥を焼くのが定番になっているとか。

 

「アドベントカレンダーの中にはチョコレートが入っていて、それを毎朝開けて食べるのが楽しみでした。今は、毎年七面鳥を焼いています。業務用スーパーに丸ごとの七面鳥が冷凍で売ってるんですけど、解凍に3日ぐらいかかるんです。ハーブやお塩、果物が入った味付きのブラインド液につけて、ゆっくり戻してから焼く。食べる日を逆算して作らないといけないのですが。

 

小さい時は、サンタはもちろん信じていましたね。ミルクやウイスキーを用意して、お手紙を書いて。欲しいもののリクエストというより『いつもありがとうございます』という感謝の気持ちを伝えていましたね」

グリンチがクリスマス嫌いというエピソードにちなんで、「小さい時に苦手だったけれど大きくなって克服できたもの」を聞いてみると、意外な食べ物を教えてくれた。

 

「辛いものが苦手で一切食べられなくて、給食のカレーすら苦手だったんです。子どもの頃、家にグリーンカレーが作ってあって、間違えて食べちゃったことがあって。ココナッツの香りだから、おいしいと思って(笑)。辛くてびっくりしたのを覚えてます。

 

モデルの仕事で(出版社が多い)神保町に行く機会が15歳くらいから増えてきて。お昼ごはんにカレーが出てくることもあり、それで好きになっていきました。今は、欧風やインドカレー、ジャンルを問わず大好きですね」

 

子どもたちの豊かな暮らしのために杏さんが願うこと。それは、忙しすぎるお父さんが、少しでも多く家族や子どもたちと過ごす時間を持てること。

 

「毎日迷ったり、悩んだりの連続です。仕事をするスタイルについても、子どもに『さみしい』って言われると揺れることもあります。いろいろな人の話を聞いていると、やっぱりお父さんがなかなか家に帰って来れないことが多いんだなと感じます。夜9時に帰って来るのすら、早いって感覚。子どもがいる・いないに関係なく、忙しすぎるんじゃないかと思います。休みをとったり、家族と過ごすことに時間を割くことに罪悪感を感じてしまったりとかもそう。そんな気持ちが、少しでも軽くなればいいなと思います」

『グリンチ』は、家族と過ごす時間を楽しむのにもぴったりの映画。クリスマスを盗んだグリンチは、最後どうなってしまうのか? 心あたたまるラストを、ぜひスクリーンで見守って欲しい。

 

「家族はもちろん、恋人や友達、いろいろな人と観に行って欲しいですね。こだわり抜かれた1カット1カットが凝縮されているので、最後までじっくりと、ぜひ大画面で味わって欲しいと思います」。


1986年4月14日生まれ、東京都出身。15歳からモデルとして活動し、パリ・コレクションなど海外のショーにも出演。2007年女優デビューを果たす。代表作にドラマ『連続テレビ小説 ごちそうさん』『花咲舞が黙ってない』など。現在は、TBS『世界遺産』ナレーターやJ-WAVEラジオ『BOOK BAR』ナビゲーターとしてレギュラー出演するほか、書籍『BOOK BAR お好みの本、あります。』(新潮社)も発売中。

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